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第17話 「樽まみれの転生者」

「うおおおおおおおおお!?」


 シンは絶叫しながら空を落下していた。


「なんで樽ごとなんだよぉぉぉぉ!!」


 周囲には大量の樽。


 上。

 下。

 右。

 左。


 全部樽。


「死ぬ死ぬ死ぬ――ッ!!」


 その瞬間。


 ドゴォォン!!


 シンの身体が森へ突っ込んだ。


 枝をへし折り、

 葉を撒き散らし、

 最後は地面を転がる。


「ぐぇっ……」


 さらに。


 ドン!!

 ゴロゴロ!!

 ガシャァ!!


 遅れて樽が降ってきた。


「いっっったぁぁぁ!?」


 頭に直撃。


「なんで後から来るんだよ!!」


 森へ叫びが響く。


 しばらくして。


「……生きてる?」


 恐る恐る身体を確認する。


 折れてない。


 潰れてない。


 奇跡だった。


「異世界補正すげぇ……」


 周囲を見回す。


 森。


 木。


 草。


 完全にファンタジーである。


「……来たのか」


 シンはゆっくり立ち上がった。


「異世界」


 一拍。


「……で、ここはどこだ?」


 当然分からない。


 だが。


 腹だけは減っていた。


「とりあえず水……」


 歩き出そうとして、

 シンは足を止めた。


 鼻が動く。


「……ん?」


 匂い。


 湿った土。

 草。

 あと――


「近くに水場あるな」


 自然に分かった。


「え?」


 自分で言って驚く。


 だが身体は勝手に動いた。


 草を避け、

 傾斜を下り、

 数分後。


「マジであった……」


 小川だった。


 シンは水を飲みながら呟く。


「これが……

 《発酵Lv5》の力か?」


 よく分からない。


 だが。


 食べ物や水に関する感覚が、

 妙に鋭い気がする。


 その時だった。


「きゃああああ!!」


 森の奥から悲鳴。


「……は?」


 続けて。


「や、やだ!!

 来ないで!!」


 ガサガサと茂みが揺れる。


 飛び出してきたのは、

 小柄な少女だった。


 栗色の髪。


 ボロボロのマント。


 背負った籠には、

 薬草らしき植物が入っている。


 そしてその後ろから――


「ギギギッ!!」


 大柄な猿のような魔物が現れた。


「うわっキモ!?」


 思わず本音が出た。


 魔物は少女へ飛びかかる。


「っ!!」


 少女が目を瞑る。


 だが。


 その瞬間。


 ゴッ!!


「ギャッ!?」


 魔物が吹っ飛んだ。


 シンが近くの樽を投げつけたのだ。


「……あ」


 自分でも驚いた。


 樽、

 めちゃくちゃ投げやすい。


「ギギ……!!」


 魔物が怒る。


「うわ怖っ」


 だがシンは反射的に周囲を見る。


 木。

 傾斜。

 ぬかるみ。


 頭の中に、

 妙な感覚が流れ込んできた。


(あそこ滑るな)


 気づけば身体が動いていた。


「おらっ!!」


 シンは別の樽を蹴る。


 転がる。


 魔物が飛びつく。


 そして。


 ズシャァ!!


「ギャッ!?」


 ぬかるみに滑って木へ激突した。


「……え」


 少女がぽかんとする。


 シンもぽかんとしていた。


「今の俺すごくない?」


 魔物はふらつきながら逃げていく。


 静寂。


 少女が恐る恐る口を開いた。


「……助けてくれたの?」


「まぁ、

 成り行きで」


 シンは頭をかく。


 少女はぺこりと頭を下げた。


「ありがとう!

 私リナ!」


「シンだ」


 一拍。


 リナはシンの後ろを見る。


「……後ろの木のやつ、なに?」


 大量の樽。


 森に散乱している。


 完全に異様だった。


 シンは遠い目をした。


「俺も聞きたい」


「?」


「女神が“初期装備”って」


 リナは数秒黙り――


「変わった人だね」


「否定できねぇ……」


 すると。


 ぐぅぅぅ……


 リナの腹が鳴った。


「あ」


「……腹減ってんの?」


「ちょっとだけ」


 全然ちょっとじゃない音だった。


 シンは苦笑する。


 そして。


 近くの樽へ目を向けた。


「……とりあえず、

 なんか食うか」


 その瞬間。


 頭の中へ、

 妙な感覚が流れ込む。


 樽の中身。


 温度。


 発酵状態。


 全部分かる。


「……マジ?」


 シンはゆっくり樽を見つめた。


 その顔は、

 少しだけ職人の顔になっていた

第17話でした!


異世界へ転生したシンですが、

初期装備はまさかの“大量の樽”。


しかも転生直後に猿型魔物と遭遇。


……樽と猿。


なんか昔そんなゲームあったような……


たぶん気のせいです。


そして今回から、

発酵職人編が本格スタートです!


戦闘職でも勇者でもない。

けれど“食”で人を救っていく。


そんな少し変わった異世界転生編になります。


次回は、

シンが樽の中身を使って異世界初料理(?)に挑戦予定!


よければ感想・ブックマーク・評価など頂けると励みになります!


それではまた次回!

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