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第16話 「発酵職人と辺境ルート」

異世界転生管理会社エリュシオン・ゲート


 今日も転生課は忙しかった。


「番号札102番のお客様ー!」

「“不老不死パック”は規約違反でーす!」

「魔王転生は現在受付停止中でーす!」


 怒号。

 悲鳴。

 クレーム。


 いつも通りの地獄である。


「アルスくん!

 転生先でドラゴン被ってる!」


「アルス!!

 転生者が“チートじゃないなら帰る”って暴れてる!!」


「帰れないからここ来てるんでしょうが!!」


 アルスは机を叩いた。


 その時。


「次の転生希望者入りまーす」


 扉が開く。


 入ってきたのは、

 30代くらいの男だった。


 エプロン姿。


 腕組み。


 妙に職人気質っぽい顔。


「……飲食店?」


 エプロン姿の男を見ながら、

 アルスが呟く。


 鍛えられた腕。

 染みついた油の匂い。


 どう見ても、

 戦闘職より生産職だ。


「ラーメン屋だ」


 男は真顔で答えた。


「へぇ」


「3店舗経営してた」


「聞いてないですけど、すごいじゃないですか」


「もれなく潰れたけどな」


「悲しいなぁ……」


 リシアが書類をめくる。


「えーっと……

 死因は過労ね」


「あぁ、多分仕込み中に倒れた」


「うわブラック」


 リシアは哀れみの表情で男を見る。


「人のこと言えます?」


「うるさい」


 即答だった。


 そんな2人を他所に男は拳を握る。


「だから次の人生では!!」


 一拍。


「最強の戦闘能力が欲しい!!」


「どうしてそうなる……」


 アルスが遠い目をする。


「俺はもう!!

 戦って!!

 勝って!!

 自由に生きるんだ!!」


「はいはい」


 リシアは雑にペンを走らせる。


「希望世界は?」


「剣と魔法!!

 あとチート!!」


「テンプレねー」


「2度目の人生だ!夢くらい見させてくれ!!」


 ぱらぱらと書類をめくるリシア。


 そして。


「あ」


「?」


「あなた適性あるわよ」


「お!まじか!どんな最強スキルだ?」


「《発酵Lv5》」


 沈黙。


「……ん?」


「《発酵Lv5》」


「いや聞こえてるわ!!」


 男は机を叩いた。


「なんでだよ!!」


「よかったじゃない、適性あるだけ」


「もっとこう!!

 剣聖とか!!

 超魔法とか!!」


「在庫切れ」


「また在庫制なの!?」


 アルスが横から覗き込む。


「発酵って……

 酒とかか?」


「あとは保存食とか調味料とか?」


 リシアが適当に答える。


「まじかよ……」


 男は絶望した顔をした。


「俺、

 異世界行ってまで料理なのか……?」


 夢見ていたのは、

 剣と魔法の大冒険。


 なのに渡されたのは、

 “発酵”だった。


「嫌なら獣種部門行く?」


 ガルドが後ろからぬっと顔を出した。


「うわ!やめろ怖い!!」


 熊獣人の圧が強い。


「まあまあ」


 リシアは書類をまとめる。


「サービスでテンプレ通り辺境村ルートで通しといたから」


「嫌な予感しかしない」


アルスは思わず顔をしかめた


「あと初期装備は樽ね」


「なんで!?」


「発酵するから」


「雑!!」


 アルスが思わず吹き出した。


「ちなみに名前はどうする?」


 男は少し黙り――


「……シン」


 そう答えた。


「はいはいシンさんねー」


 リシアが指を鳴らす。


 足元に魔法陣が広がった。


「ちょっ、

 まだ心の準備――」


「いってらっしゃーい」


「軽い軽い軽――」


 光。


 浮遊感。


 そして。


 シンの身体が消えていく。


 静寂。


「……大丈夫ですかね」


 アルスがぽつりと呟く。


「んー?」


 リシアは次の書類を取る。


「まあ食中毒では死なないでしょ」


「基準そこなんだ……」


 すると。


 ガルドがニヤリと笑った。


「だがよォ」


「?」


「アイツのスキル、

 結構ヤベェぞ」


「発酵がですか?」


「あァ」


 一拍。


「“食”を握るってのは、

 どの世界でもそれなりに強ぇ」


 ガルドは笑う。


 その目は、

 少しだけ本気だった。


 その言葉に、

 アルスは少しだけ目を細めた。


 その頃――


「うおおおおおおおおお!?」


 シンは絶叫しながら、

 大量の樽と一緒に空から落下していた。

今回は生産系転生者のお話でした!


戦闘系チートを望んでいたシンですが、

渡されたのはまさかの《発酵Lv5》。


一見地味なスキルですが、

ガルドの言う通り“食”を握る力は意外と強力かもしれません。


果たしてシンは、

異世界でどんな“発酵人生”を送るのか。


そして大量の樽は本当に必要なのか。


少しでも面白いと思っていただけたら、

ブックマークや評価、感想などいただけると励みになります!


では、また次回!

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