第15話 「追放と再評価」
翌朝。
「……寒っ」
レオは毛布代わりの布にくるまりながら目を覚ました。
だが。
「いや普通に寝れたな……」
驚くほど快適だった。
地面は平ら。
風は防がれている。
焚き火も絶妙な位置で消えている。
「《野営Lv3》すげぇ……」
地味だが、
確実に役立っていた。
その時。
「た、助けてくれぇぇぇ!!」
森の奥から悲鳴が響いた。
「……は?」
レオは反射的に立ち上がる。
続けて聞こえるのは――
「その荷物捨てろ!!」
「無理だ重い!!」
「そっち行ったぞ!!」
複数人。
しかもかなり切羽詰まっている。
レオは舌打ちした。
「朝からなんなんだよ……!」
「ぎゃああああ!!」
三人組の冒険者が、
森の中を全力疾走していた。
その後ろを追っているのは、
二匹の魔狼。
「クソ!!
なんでこんな場所に上位種がいるんだ!!」
「だから野営場所が悪いって言っただろ!!」
「そんなこと今言ってる場合かぁ!?」
完全にパニックだった。
(あーもう見てられねぇ!)
木陰から様子を見ていたレオは、
思わず飛び出した。
「おい!!
こっちだ!!」
「はぁ!?」
三人が振り向く。
「いいから来い!!
風下に回れ!!」
「な、何言って――」
「早くしろ!!」
あまりの勢いに、
三人は反射的に従った。
レオは素早く周囲を確認する。
(湿った地面……
岩場……
匂いも流れてる)
「よし」
レオは袋から粉を取り出し、
地面へ投げた。
強烈な臭いが広がる。
「うっ!?」
「な、なんだこの匂い!?」
「魔狼避けだ!!
走れ!!」
三人は半信半疑のまま走る。
すると。
「グルル……」
追ってきた魔狼が、
途中で足を止めた。
鼻を鳴らし、
苛立ったように森の奥へ戻っていく。
沈黙。
「……俺たち助かった?」
「た、助かったぁぁぁ……」
三人はその場へ崩れ落ちた。
レオも息を吐く。
「ったく……
なんであんな場所で野営してんだよ」
「え?」
「風向き最悪、
水場近すぎ、
匂いも消してない」
一拍。
「あれじゃ魔物に見つかって当然だ」
三人がぽかんとする。
「な、なんで分かるんだ?」
「いや普通に……」
言いかけて、
レオは止まった。
普通?
違う。
これ。
全部。
「……スキルか」
「スキル?」
「《野営Lv3》」
沈黙。
「地味…」
「地味だな」
「地味すぎる」
「うるせぇ!!」
即ツッコミだった。
その後。
三人は完全にレオへ頼りきりになっていた。
「水ならこっち」
「その草は食うな」
「荷物の重心ズレてるぞ」
「す、すげぇ……」
「なんでそんな分かるんだ……?」
レオ自身も驚いていた。
頭で考える前に、
身体が動く。
安全な道。
危険な匂い。
野営に向いた場所。
全部分かる。
「……俺、
ずっとこれやってたな」
ぽつりと呟く。
「え?」
「昔のパーティで」
かつての冒険者パーティ。
火起こし。
補給。
食料管理。
荷物整理。
地図確認。
野営。
全部、
自分がやっていた。
でも。
『戦闘で役立たねぇ』
その一言で、
全部“雑用”になった。
「……まぁ、
俺も気づいてなかったけど」
苦笑する。
◇ ◇ ◇
夕方。
ようやく町へ辿り着いた。
「た、助かったぁ……」
「もう森は嫌だ……」
「本当に、ありがとう…」
三人組は涙目だった。
レオは門を見上げる。
「……ああ、戻ってきたんだな」
元の世界へ。
すると。
「おい、聞いたか?」
酒場の前から、
話し声が聞こえてきた。
「ここらで幅利かせてた冒険者パーティ、
最近ヤバいらしいぞ」
レオの足が止まる。
「補給ミス連発だってよ」
「この前なんか、
野営地ミスって魔物に襲われたらしい」
「なんでも、荷物管理してた奴抜けたんだろ?」
「あー……
あの地味な奴?」
心臓が跳ねた。
「名前なんつったっけ」
「レオだよレオ」
一拍。
「まあ、
居なくなって初めて分かるやつっているよな」
レオは黙ったまま、
立ち尽くしていた。
その時。
「…まさか、レオ?」
聞き覚えのある声。
振り向く。
そこにいたのは――
かつての仲間だった。
冒険者パーティの魔法使い、
ミリア。
「え……?」
ミリアの目が見開かれる。
「なんで……
あんた、生きて……」
「まあ色々あって」
レオは頭をかく。
沈黙。
気まずい空気。
そして。
ミリアは、
ぽつりと呟いた。
「……ごめん」
レオは目を瞬かせる。
「え?」
「私たち……
間違ってた」
一拍。
「あんた、
必要だったよ」
静かな声だった。
だが。
その言葉は、
ずっと欲しかった言葉だった。
レオはしばらく黙り込み――
そして。
「……気づくの遅ぇよ」
苦笑しながら、
そう返した。
◇ ◇ ◇
「なるほどねぇ」
異世界転生管理会社。
リシアは報告書を読みながら、
うんうん頷いていた。
「ちゃんと徳積んでるじゃない」
「ガハハ!
今回かなり綺麗にまとまったなァ」
ガルドも豪快に笑う。
「珍しく平和でしたね」
アルスがぽつりと呟く。
「“ざまぁ”しなかったからじゃねぇかァ?」
「……あー」
確かに。
誰かを見返す話ではなく。
“必要だった”と、
ちゃんと伝わる話だった。
「ま、たまにはこういうのもアリか」
アルスは小さく笑う。
その時。
「アルスー!!
次の転生希望者来たわよー!」
「はいはい……」
山積みの書類を抱えながら、
アルスはため息を吐く。
今日もまた。
転生受付窓口は、
大忙しだった。
第15話を読んでいただきありがとうございます!
追放編、これにて終了です!
《野営Lv3》や《硬い胃》という地味スキルでしたが、
レオにとっては“ちゃんと生き延びる力”でした。
今回のテーマは、
「居なくなってから気づく大切さ」。
派手な最強能力ではなく、
誰かを支える役割にも価値がある――
そんな話を書いてみました。
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それではまた次回!




