第13話 「追放希望者と地味スキル」
異世界転生管理会社は今日も地獄だった。
「番号札58番のお客様ー!」
「“最強剣聖セット”は現在在庫切れでーす!」
「スライム転生は人気商品のため抽選になりまーす!」
怒号。
悲鳴。
クレーム。
そして。
「だから俺は“ハーレム成功率アップ”を希望してるんだって!」
「オプション対象外です」
「人生にオプションとかあるの!?」
受付カウンターで、
アルスは死んだ目をしていた。
(帰ってきたなぁ……)
悪役令嬢案件を終えて数日。
久々の通常業務。
だが現実は、
感傷に浸る暇すら与えてくれなかった。
「アルスー! 書類!」
「アルスくん! 転生先ダブってる!」
「アルス!! クレーマー暴れてる!!」
「俺は万能じゃないんですよ!!」
その時。
廊下の奥から、
爆音のような声が響いた。
「うるせぇぞ!
人間部門!!」
ドゴォン!!
勢いよく扉が開く。
「うわっ!?」
現れたのは、
二メートル近い巨体だった。
熊の耳。
鋭い牙。
全身傷だらけ。
完全に“現場職”である。
「ここ獣種部門の隣だって分かってんのかァ!?」
「うるさいのはそっちでしょ!」
怒鳴り返したのは、
いつもの女神。
熊獣人――ガルドは、
豪快に鼻を鳴らした。
「ったく……
魂が怯えて暴れんだよ」
「あ、それで来たんですか?」
「あァ。
暴れ魂の引き取りだ」
その瞬間。
「ギャアアアアア!!」
「そっち!尻尾押さえろォ!!」
「噛むなァ!!」
数人の職員が、
巨大な狼のような魂を引きずっていた。
「なんですかあれ……」
「あー」
女神が書類をめくりながら答える。
「獣種部門」
「獣種?」
「徳ポイント不足」
一拍。
「人間転生するには、
まだちょっと早い人たち」
ガルドがニヤリと牙を見せる。
「まずは獣として生き直しってわけだァ!!」
「教育方針が雑なんですよ」
「ガハハハ!!」
その時だった。
「ちょっと!ガルドォ!!」
女神が声を張る。
「勝手に人間部門の床泥だらけにしないで!!」
「あァ?」
「あとその魂ヨダレ垂れてる!!」
「細けぇなァ、リシア!!」
その瞬間。
アルスが固まった。
「……リシア?」
「ん?」
女神が振り向く。
「いや、え?」
一拍。
「女神様って名前あったんですか?」
「あるわ!!」
即ツッコミだった。
「今まで何だと思ってたの!?」
「“女神様”っていう種族名かと……」
「雑すぎない!?」
ガルドが腹を抱えて笑う。
「ガッハッハ!!
お前マジで知らなかったのか!!」
「だって誰も呼ばないじゃないですか!」
「お前ら人間部門、
距離感終わってんなァ!!」
「うるさいわね!獣臭主任」
「それケンカ売ってんのかァ!!?」
ガルドが笑いながら、
アルスの肩をバシバシ叩く。
痛い。
「……で、その獣臭主任さんは、
今日の要件はそれだけ?」
「あァ?」
ガルドは肩をすくめた。
「今日は獣種部門パンク寸前でよォ」
「暴れ魂が多すぎんだ」
「へぇ」
「最近“やらかし系”多すぎんだよ」
「やらかし系?」
「盗賊団の頭ァ、
悪徳貴族ゥ、
あと詐欺師」
「ラインナップ終わってるな……」
リシアがため息を吐く。
「徳ポイント足りない人間増えすぎなのよねー」
「だから獣種部門が忙しいんだァ!!」
その時。
「次の転生希望者入りまーす!」
扉が開く。
入ってきたのは、
二十代くらいの男だった。
ボサボサ頭。
疲れた顔。
だが目だけは妙に燃えている。
「俺は追放されたんだ!!」
開口一番だった。
「はぁ」
リシアが死んだ目で返す。
「勇者パーティで雑用ばっか押し付けられて!!
役立たず扱いされて!!
最後には追い出された!!」
「またテンプレ来たな……」
アルスが小さく呟く。
「だから次こそは!!
最強の力を手に入れて見返してやる!!」
拳を握る男。
熱量だけは凄い。
「はいはい」
リシアは雑に書類を取る。
「希望転生先は?」
「剣と魔法の世界!!」
「はい」
「あと最強スキル!!」
「はいはい」
「もっと興味持って!?」
リシアはペンを走らせる。
「えーっと……
辺境冒険者ルートで申請通して……」
ぱらぱら。
「スキルは《野営Lv3》」
「地味!!」
「あと《硬い胃》」
「嫌すぎる!!」
「便利よ?
変なキノコ食べても平気」
「もっとこう!!
剣聖とかありません!?」
「人気だから在庫切れ」
「在庫制なんだ……」
男は頭を抱えた。
「俺また雑用じゃん……」
その声に。
アルスは少しだけ目を細める。
雑用。
役立たず。
その言葉は、
妙に引っかかった。
だが。
「はい次詰まってるから行くよー」
リシアが適当に手を振る。
「え、ちょ――」
足元に魔法陣が広がる。
光。
浮遊感。
「頑張ってざまぁしてねー」
「軽い軽い軽い!!」
叫び声と共に、
男の身体が光へ包まれていく。
そして――
消えた。
静寂。
「……大丈夫なんですか、あの人」
アルスが呟く。
「んー?」
リシアは次の書類を手に取る。
「まあ死にはしないでしょ」
「基準低いなぁ……」
すると。
ガルドがニヤリと笑った。
「だがよォ」
「?」
「アイツ、多分死ぬほど驚くぜェ」
「何にです?」
一拍。
ガルドは牙を見せる。
「“自分がどんだけ必要だったか”になァ」
アルスは少しだけ目を瞬かせた。
その頃。
遥か異世界では――
「うおおおおおお!?」
転生した男が、
森へ向かって盛大に落下していた。
第13話を読んでいただきありがとうございます!
今回は久しぶりの“通常業務回”でした。
そしてついに登場、
獣種部門のガルド&女神リシアの名前公開回です。
アルス、
今まで普通に「女神様」呼びしてたの地味に失礼ですね。
さらに今回は新たな転生希望者も登場。
「役立たず」
「雑用係」
「追放」
……どこかで聞いたことのあるようなテンプレですが、
どうやら今回は少し様子が違うようで……?
次回からは追放編スタートです!
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それではまた次回!




