提督の末裔(まつえい)と、ギャング団のボス(その三)
エスプーマの逃走と同時刻、アイルランド南西では、「ドレーク提督の末裔」と「ギャング団のボス」が一緒に歩いていた。
「もう少し歩くが、この先だ」
ウィンロードに向かって、ディザスターが言う。そこに車を止めているらしい。
二人の後方では、子どもたちがこそこそ尾行していた。
といっても、この人数だ。十人以上いる。尾行がばれる可能性は、かなり高い。
突然、ディザスターが足を止める。
子どもたちはドキッとした。
「これからするのは大事な話だ。誰かに聞かれては困る。だから、俺たちは尾行されてはいけない。用心のためだ。三つ数えたらふり返ってみよう。一、二、三」
さっとふり返るディザスター。
近くにあった遮蔽物に、子どもたちは素早く隠れる。
隠れる場所がない子はとっさに、地面の上で死んだふりをした。
「尾行はいるかな~」
子どもたちにとって、緊張の時間だ。
ドキドキするのに耐えていると、
「気のせいだったか。誰もいないようだ」
ディザスターが顔を前に戻す。提督と一緒に再び歩き出した。
子どもたちは尾行を再開する。死んだふりをしていた子も、元気に復活だ。まだギャング団のボスには見つかっていない。セーフ。
「おっと、忘れるところだった。少し電話をする。野暮用があった」
ディザスターが銀色のスマホで、どこかに電話をかける。ひそひそ声で話し始めた。
子どもたちの何人かは耳をすませる。
けれども、すぐにあきらめた。これは外国語を話しているっぽい。
ディザスターが電話を切る。
「車は近いぞ」
それを聞いて、子どもたちは目を輝かせた。
もうすぐゴールだ。みんな、がんばれ。この尾行を最後まで成功させるぞ。
ぬき足、さし足、しのび足。
やがて、車が見えてきた。草原が途切れた先に、黒い大型キャンピングカーが止まっている。その窓にはすべて、暗幕がかけられていた。
子どもたちは再びドキッとする。
キャンピングカーの近くに、黒いスーツの男たちが三人立っていた。全員が黒いサングラスをかけていて、周囲を警戒している。
(たぶん、ボスの子分たちだ)
子どもたちは、ディザスターとウィンロードの真後ろで、列をつくる。
こうすれば、前を行く二人に重なって、自分たちの姿は見えないかも。
それに賭ける。ぬき足、さし足、しのび足。
黒スーツの男たちの前まで行くと、ディザスターが足を止めた。
男たちに話しかけると思わせておいて、いきなりふり向いてくる。
さすがに、子どもたちは隠れられない。
全員ですぐさま、死んだふりをしようとする。
が、それよりも先に、
「おっ! おまえら発見!」
嬉しそうに言うディザスター。
「もっと早くに気づいていたら、帰れと言えたんだが」
にやにやしながら、そうぼやくと、
「しょうがねえなあ。よーし、俺のおごりだ。キンキンに冷えたリンゴジュースをごちそうしてやるぞ!」
実はさっきの電話で、三人の部下に指示していた。「子どもたちもついて来ているが、俺が合図をするまでは、気づいていないふりをしろ」、そして、「冷たいリンゴジュースを用意しておけ」と。
「はい、ボス」
黒スーツの男たちが子どもたちの接待を開始する。
そこでディザスターは思い出す。言い忘れたことがあった。
「いいか。ジュースのおかわりは、一回までだぞ」
「はい、ボス♪」
黒スーツの男たちよりも先に、子どもたちが元気に答えた。
ディザスターはにっこりする。あとは部下たちに任せて問題ないだろう。
この三人は腕利きだ。子どもの扱いにも慣れている。
そして、リンゴジュースはたっぷりあるのだ。
黒いキャンピングカーに乗り込むと、
「ほら、おまえも乗れ」
客人を誘った。
ウィンロードも車の中に入る。
車内の様子を見て驚いた。
空間こそ狭いが、まるで高級ラウンジだ。内装は黒を基調としていて、大きなテレビや大型ソファーも、その色をしている。天井には小型のシャンデリアだ。
しかし、ウィンロードにとって、もっと目を引くものが、他にあった。
さまざまな「ぬいぐるみ」や、たくさんの「おもちゃ」だ。高級ラウンジのあちこちに、所狭しと並んでいる!
これは、キャンピングカーの中というよりも、おもちゃ屋の一部がここで特別営業をしているかのようだ。ギャングのボスが乗る車、その中とは思えない。
「こうしておけば、警察の検問に引っかかっても、『子どもたちのパーティーに向かっている』と、言いわけできるからな。俺はこれまで、『サンタクロースが検問に引っかかった』なんて話を聞いたことがない」
にやにやしながら言うディザスター。
そのあとで、本当のことを告げてくる。
「おまえの意見を、無料で聞かせてもらうのは悪いからな。ちょっとした謝礼だよ。それとも、現金の方が良かったか? ドル? ポンド? ユーロ? ルピー? それとも、円か? ビットコインってのもあるぞ」
「いや、これでいい」
「じゃあ、これもとっとけ。レシートだ」
長いレシートを投げてくる。二メートル以上ありそうだ。
「ちゃんと店で買ってきた証拠だよ。いくら俺がギャングでも、強盗してきたわけじゃない」
「店で買う前に、現金輸送車を襲っていないだろうな。もしくはATMの襲撃」
それを聞いて、ククククと笑うディザスター。
「プロとしての助言だ。現金輸送車やATMを襲うよりも、おもちゃ工場からのトラックを襲った方が、時間の節約になる。会計の手間が省けるからな。ただし、その方法だと、ラッピングはしてくれないが」
「おまえの組織、ラッピング担当の奴がいたりしないよな?」
「いないが・・・・・・そうか! その手があったな!」
「やるなよ」
「どうかな♪」
ディザスターは車のドアを閉めると、
「好きな場所に座ってくれ」
そう言いながら、リモコンを取った。
「これから映像を見てもらう。場所はアメリカのカジノホテルだ。あるギャング団の幹部が、別のギャング団の幹部と結婚。その祝いのパーティーで、『黒仮面』が現れた」
車内のテレビに映像が流れ始める。




