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自己否定する年上美少女の正体を知らずに全力で肯定していたら、いつの間にか外堀を埋められていた  作者: じゅうぜん


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第26話 紗夜見てる~~?

 ついに初めての授業の日がやってきた。

 最初だけうちの母もいて、カナさんが頭を下げながら紙袋を差し出していた。


「あっ、ゆーたくんのお母さんですか! すみませんお邪魔します……! あたし三栗と申しましてぇ……」


 ぺこぺこしながら簡単に挨拶をしている。

 ちなみに今日の服装はこの前ほど露出が多くない。髪色は明るいけど、恰好は落ち着いていつつお洒落な感じだ。


 でもカナさん……差し出してる袋、それはドーナツでは? 休憩の時間に食べるはずのものでは? 渡してしまったら食べれないのでは?


「……あっ」


 今気づいて口を抑えている。

 けれどもう取り返せない。うちの母の手に渡ってしまったのだ。

 きっと後で和希の口に美味しく取り込まれることだろう。


 ドーナツをコストにして円満に挨拶は終わり、二人で俺の部屋に移動する。

 いつもリビングで勉強していたけど、自分の部屋もあるのだ。


「ふわぁ~。ここがゆーたくんの部屋かぁ~」


 カナさんが物珍しそうにぐるりと見渡している。

 特にたいしたものはないはずだけど。


「男の子の部屋って感じだねぇ~」

「そうですか?」


 部屋を大きく占めてるのはシングルサイズのベッド。小学校の時から同じデスク。漫画とか文庫本の詰まってる本棚。


 昔からずっと一緒の物を使っているので、ところどころにアニメキャラのステッカーが貼ってあったりする。


 片付けが苦手でごちゃごちゃしてるので、勉強する時はリビングに行くことが多い。


 けど今日は部屋の方がいいだろう。真面目に教えてもらっているところに家族が頻繁に通っていたら集中できないし。


「ゆーたくんは机に座るとして……あたしはどこにいようかな」

「ああ……たしかに。椅子持ってきましょうか?」

「ベッド座っててもいい?」

「……ベッド?」


 ぴっと指さしたのは俺のベッド。

 なぜかわきわきと腕を動かしている。


「人んちのベッドってなんかワクワクしない?」

「……まーいいですけど」


 人を呼ぶわけなので、ちゃんと綺麗に洗濯はしておいた。

 わぁーいと手をあげてカナさんがベッドに座り込む。


「へへへ。紗夜に自慢しちゃお~。ゆーたくんの部屋入ったぜって」

「自慢になりますかね……」

「紗夜に送りたいから一緒に写真とってもいい?」

「え? まぁそのぐらいは別に」


 ベッドの横をぽんぽんと叩かれたので横に座る。ぐいと体を引き寄せられて密着した。薄々わかってはいたけど、この人はかなり距離感が近い。


 カナさんがスマホを持つ手を伸ばして、「いぇーい!」と言いながらシャッターを切った。チーズとかじゃないんだ。


 そしてぽちぽちとスマホを操作して手慣れた様子で画像を加工している。


「紗夜に送ろ~。『紗夜見てる~~? ゆーたくんの部屋で~す』」


 なんか誤解されそうな文面だけど、カナさんはそんな男性向け同人の文化には詳しくなさそうなので指摘するのはやめた。


「紗夜さんは今日、大学ですか?」

「うん。春休みだけど用事あるって」


 大学は春休みでも行く用事があるのだろうか。

 いわゆるゼミとか、そういう物に関係するのか。


「じゃ、座り心地も確かめたところで始めますか~!」


 雑談もそこそこに切り上げて、カナさんが立ち上がる。

 俺も意識を勉強に切り替えた。


 今後カナさんにはお世話になるはずだ。今日も体験授業という体裁だけど、きっと他にカナさん以上の条件でやってくれる人はいない。俺はなんとか得られる物を最大限に得られるよう努力するのみだ。


 背筋を伸ばし、膝に拳を添えて勢いよく頭を下げた。


「よろしくお願いします!」

「お~! がんばっていこぉ~!」



 ◇



「――よーしお疲れぇ~! 頑張ったねぇ~!」


 二時間の授業を終えて、俺はぐったりと机に倒れた。


「疲れました……」

「だよね~頭使うよね~! でもめっちゃ集中できてたよ!」


 カナさんがはしゃいだ様子で俺の髪をわしゃわしゃと撫でていた。

 疲れた俺はされるがままである。いいか。髪の毛がぼさぼさになるくらい。


(けど教え方わかりやすかったな)


 実はちょっとだけ心配していたけれど、完全に杞憂だった。

 きちんと問題を言語化してくれて、解説をわかりやすくまとめるのも上手だった。教える時は真面目に、休憩中は緩く緊張を解くような話題を差し出してくれて、それもやりやすかったと思う。


(空回りしなければ大丈夫なんだな)


 カナさんは気合を入れるのはいいことだけど、不審人物になるのだけは止めた方がいい。そういうのは自信の無さから出ているのかもしれない。俺にこうして教えている内に、もしかしたら自信も付いてもっと色んな人に教えられるんじゃないだろうか。


(自信が無いのは……みんな一緒なのかも)


 だんだん眠たくなってくる。

 ふと、紗夜さんの顔が浮かんだ。

 この前ちょっとおかしな空気になったのを思い出す。


 そういえば……最近はたまに気まずい感じになってしまうな。

 俺が何か変なことをしているのなら、謝らないといけないな。


 そんなことを思いつつ、カナさんが部屋を開けるのを見守る。


「おか~さ~ん! 終わりましたよぉ~!」


 カナさんはそのまま母さんに報告に行くようだ。

 今後の勉強計画とかを話すのだ、と勉強中に言っていた気がする。


「ゆーたくん優秀ですよぉ~! めちゃ真面目だし~。教えたらすぐ理解してくれるしぃ~――」


 間延びしたカナさんの声を聞きながら、だんだん瞼が落ちてくる。

 それだけ集中していたということだろうか。


 頭の疲労を感じながら、俺はそのまま重たい瞼を閉じた。



 ◇



(……ん?)


 しばらくして意識が少しずつ覚醒してくる。

 リビングの方からなんだか騒がしい声が聞こえてくる。


(なんだろう……)


 まだふわふわする頭を抑えながら体を起こす。

 背中に乗っていた毛布がばさりと落ちた。誰かが乗せてくれたようだ。


 時計を見ると三十分くらい経ったところだった。

 いけない。カナさんもいるのに一人で寝てしまった。

 カナさんと母さんの話はどうなったんだ……と慌てて部屋を出たら。


「え?」


 なぜかリビングにカナさんと和希と――紗夜さんがいる。


 あれ? なんで紗夜さんが?


 カナさんはニコニコで俺に手を振ってるけど、紗夜さんは困惑した顔だった。


 ……これは一体、何があったんだ……?

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