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自己否定する年上美少女の正体を知らずに全力で肯定していたら、いつの間にか外堀を埋められていた  作者: じゅうぜん


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第27話 綺麗な笑顔

 ――さかのぼることおよそ三十分前。


「ゆーたくん優秀ですよぉ~! めちゃ真面目だし~。教えたらすぐ理解してくれるしぃ~。あたしも教えててめっちゃ楽しいんですよぉ~!」


 三栗叶絵ことカナは、初めての教え子となる「ゆーたくん」こと浅海遊太の様子を彼の母に伝えていた。


 ゆーたくんのお母さんは穏やかな雰囲気の人だった。働いてばかりで息子たちをあまり見られなくて……とよく頭を下げていた。私の代わりに息子の面倒を見てくれてありがとうと。


 カナとしては「いや、おかーさんだってがんばってるっしょ!」と思っていたので、とんでもないですと首を振っていた。


 お母さんが頑張っていることは、ゆーたくんの様子を見てもよくわかる。彼はすごく良い子なのだ。道端で自分にドーナツをくれるくらい。


「――って感じなので~今後の授業内容はまとめてから送りますね!」


 そんな報告を終えて、今日の授業は終わった。

 この後、お母さんは夜勤のシフトで働きに出るらしい。


 今日はゆーたくんの授業の予定があったので、昼間の人と変わってもらったようだ。迷惑をかけて申し訳ないと思ったが、お母さんはこの後は安心して任せられるからと笑ってくれた。


 夕食はなんと親切な隣人が作ってくれるとのこと。


(へ~。お隣さんと仲良いんだ~)


 カナはこの時、隣人が誰であるかなどまったく知らなかった。

 せいぜい、優しい人なんだな~と思ったくらいである。


「じゃ、ゆーたくんが起きるまで、少しだけ残ってていいですか?」


 教え子が寝てるまま帰るのもなんとなく居心地が悪い。

 ぺこぺこと謝られつつ許可をもらって、少しだけ残ることが決まった。


(ゆーたくんめっちゃ寝てる~。今日はがんばってたからなぁ~)


 お母さんに報告してる間も、彼は机に突っ伏してずっと爆睡していた。

 疲れたのかもしれない。寝かしておこうと思って毛布だけ掛けておく。


「そだ。紗夜にも連絡しておこ~」


 と思ってスマホを開くと、とんでもない量の通知が来ていた。


 ざっと流し読みすると、『どういうこと?』『そこって浅海くんのベッド?』というような感じだったので読んで終わった。そういえばベッドで二人で映ってる写真を送ったのだ。でもそんなの聞かなくても、今日は体験授業だって言ってたのにどうしたのだろうか。


 なのでとりあえず『さっき終わったよ~! ゆーたくん優秀~!』とだけメッセージを送っておく。


 さて。これで後は彼の起床を待つのみである。


 妹ちゃんは部活らしい。そろそろ帰ってくるとお母さんは言っていたから、もう少しで来るだろう。会えたらぜひ話してみたい。


(ゆーたくんが起きるのとどっちが早いかなぁ~)


 なんて思いながら椅子に座ってぼんやりとしていたら、がちゃりとドアが開く音がした。


 最初は妹ちゃんかと思って立ち上がった。

 驚かせるかもしれないけど、挨拶だけはしておこうと思ったのだ。


 なのに入ってきたのは全然違う――とても見慣れた人物。


「えっ? ――紗夜?」

「かっ……カナ?」


 唯一無二の一番の親友。

 誰よりも可愛くて優しくて大好きな友達。


 ……が、なんでここに?


「あっ……」


 その瞬間、頭の中でお母さんの台詞が繋がる。

 妹ちゃん意外にここを訪れると言っていたのは一人だけ。


 とある、夕食を作ってくれるという親切な隣人のこと。

 ぎこちなく指先を持ち上げて指し示す。


「もしかして……優しい隣人の方……?」


 紗夜は助けを求めるようにおろおろと左右を見て、でももちろん誰もいなくて……結局視線を伏せてこくりと頷くのだった。



 ◇



「――それでゆーたくんの家の隣に引っ越してきたんだ」

「うん……」

「で、ご飯作ってあげるくらい家族ぐるみで仲良くなってると」

「そ、そう……」


 そのまま流れでダイニングのテーブルに座り、紗夜の説明を聞いた。

 紗夜は恥ずかしそうにそわそわとしている。

 聞けば聞くほど、なんというか……。


(すごい攻め攻めな気がするけど……)


 紗夜からゆーたくんについてはよく、というかだいぶ聞いていた。

 バイト先の後輩で、よく一緒にいることが多い青年だと。


 変だなと思うことはあったのだ。


 ご飯を一緒に食べてるという話を聞いて『どこのお店?』と聞くと、なんだか狼狽えるような沈黙の後にチェーン店のファミレスの名前があがるとか。

 しかもその名称の最後に『……とか?』となんだか曖昧な語尾が付くとか。

 それ以外にもやけにその青年の事情に詳しいなと思うことがあるとか。


(ちょっと後ろめたいって思ってたってこと~?)


 いやまだわからない。いったん結論は保留。


「と、というか! カナ!」

「え?」

「あの写真、何!?」


 そういえばさっきもすごい通知が来てたなと思い出す。

 ベッドでゆーたくんと座って『紗夜見てる~?』とメッセージを送ったこと。


「何って言われても……記念写真だけど~?」

「い……いかがわしいこと、してないんだよね?」

「しないよぉ」


 こっちは家庭教師で来てるのだ。というかお母さんもいるのにそんなことできるわけない。

 この友人はよく気にしなくていいことを気にしてしまうところがある。

 自分も似たようなものではあるけど。


 手を振ると紗夜はほっと肩を落とした。


「てかそれより紗夜さ~、ゆーたくんにやってあげてるのはさっき言ったくらいなの? 夜ご飯作ってあげてるぐらい?」

「…………ええと」


 曖昧なお返事。

 これはたぶん、まだやっていそうだ。


「でも別にそんな、大したことはやってないけど」

「どんなことしてるの?」

「お弁当作ってあげたり……」

「……おお~」

「あと大学の見学会に来るって言うから私が案内してあげたり……あと最近は家事とかも……」

「……おぁ~」


 おわぁ〜〜……。

 これは〜〜……。


「めっっっっっちゃ……」

「?」

「いいね……」

「……ねえカナ、何か言おうとしたこと飲み込んでない……?」


 言うのは野暮な気がして飲み込んでしまった。

 しかし、ゆーたくんならば仕方ないかもと思える。

 自分はまだあったばかりだが、彼が良い子であることはわかる。


(どちらかというとあたしより紗夜のがいかがわしくない?)


 いかがわしいというか、いじらしいというか……。

 とそこでドアの開く音がして、もう一人がやってくる。


「ただいま~……って、あれ?」


 見覚えのないウルフカットの女の子がやってきた。中学生らしいけど、雰囲気が既になんとなくお洒落に見える。すぐにわかった。この子が妹ちゃんだ。


 妹ちゃんはこちらを見て、次に首を傾げている紗夜を見て、何か思いだすように上を見上げ……、そして、ぴーん! と音がしそうな勢いで顔をあげた。


「家庭教師の方ですね?」

「そう! 三栗叶絵って言います! カナって呼んで!」

「お兄ちゃんの授業が終わって帰る前に紗夜さんと出くわした感じですか?」

「あってる! すごい!」


 状況の理解が早い。


「で、紗夜さんから話を聞いて『おぁ~』ってなったんですよね?」


 早すぎるかも。

 そこまでわかるのはもうテレパシーの領域かもしれない。


「んん~~! 私はこれ一旦見守りんぐって感じかなって思っててぇ……!」

「なるほど……でも私はもうさっさと行けやって感じで」

「そっかぁ~~~」

「……なんで二人は通じてるの……?」


 誤魔化しながら状況を共有する。

 紗夜は気づかれていないようだ。

 妹ちゃんと私が、同じ前提の下で話しているということには。


(――紗夜って、明らかにゆーたくんに気があるじゃん!)


 もう気づかれてもいいのでほとんど隠す気はないけど、そういうことだ。

 思い返せば、前々からもよく話題に出る男の子がいるなぁ~と思ってはいた。

 引っ越したんだ、という話も聞いてはいた。

 でもまさか知らない間にこんなことが起こっていたなんて。


(――しかも外堀埋めまくってんじゃん!)


 思っても口には出さず、にっこりと微笑みを浮かべる。


「そろそろゆーたくん起こす? 妹ちゃんも帰ってきたし」

「お兄ちゃん寝てたんですね。そうですね起こしましょう」

「……二人ともなんでそんなに綺麗な笑顔なの……?」


 なんてことを話していたところに、丁度ゆーたくんの部屋のドアが開いた。


「え?」


 紗夜を見てびっくりしているようだ。


 カナは笑顔で手を振って、ひとまずは「よく寝れた?」と声を掛けるのだった。

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