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自己否定する年上美少女の正体を知らずに全力で肯定していたら、いつの間にか外堀を埋められていた  作者: じゅうぜん


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第24話 先生(仮)

「なるほどぉ。予算と日程的には、あたしでもいけそうだね」

「大丈夫ですか……? たぶん相場よりは低いような……」

「そこはお友達価格ってことでおけ!」


 カナさんが笑顔でピースする。なんだか申し訳ない気もしてしまうけど。

 俺の微妙な内心が顔に出ていたのか、カナさんが首を振った。


「全然気にしないで! あたしもほぼ初心者だからさぁ~。こっちもちょっと練習って感じで……あ、無理なら断ってもらっても大丈夫だけど」

「いえ、そこは平気です」


 紗夜さんの知り合いなら、俺は誰でも無条件で信頼できる。


「あたし、将来は先生になろうと思ってるのね」

「……はい」

「だから人に教える経験を積みたいな、って紗夜に話してたんだぁ」


 カナさんの動機の話。

 緩い喋り方ではあるけど、先生をやりたいというのは本当らしい。


「普通に大手の家庭教師とか塾講師とかじゃだめなんですか?」

「前までは家庭教師のサイトに登録してたんだけどぉ……体験授業してもあまり受け入れてもらえなくて~……」


 カナさんはこんな感じでも東央大生だ。

 ある程度、頭の良さは担保されていると思うけど……。


 はぁーと溜息を吐いたカナさんのジャケットがずるりと落ちて、肩がむき出しになる。


「……もしかして、そんな感じの恰好で行ってました?」

「流石に違うしぃ~。できるだけ真面目なカッコしてたしぃ~」


 じゃあ違うか……露出が多い恰好だから保護者に止められたのかと思ったけど。


「なら俺の時みたいにバイト先に張り付いたりとか」

「…………」


 え? ほんとに?


「……それはしてた、かも」

「じゃあそれじゃないですか」


 目を逸らしてるカナさんに微妙な目を向ける。

 近所に怪しい女性がいると噂になって、実は自分のところに来てる家庭教師だとわかったら即刻クビだろう。


「なんでそんなことするんですか?」

「だってぇ……どんなことしてるか普段の様子も知っておきたいじゃん……」

「雑談とかして聞けばいいじゃないですか」

「百聞は一見に如かずでしょ」

「いや、この場合は百聞の方がいいです」


 サングラスにマスクでうろうろしてたら、通報されてもおかしくない。


「待って。なんかあたしの話ばっかりしてない?」

「ツッコミどころが多いからです」

「いいのほら! ゆーたくんの話しよ! 君はなんで東央大に行きたいの?」


 強引に話を変えられてる。ひとまずはいいけど。

 なぜ俺が東央大に行きたいかといえば……。


(ヒモになることを避ける……そのために)


「少しでも自立するために自信を付けたいからです」

「おー……それって紗夜と関係ある?」

「えっ」


 口には出してないはずなのに、指摘されて思わず手で口を押さえる。

 カナさんがにんまりと笑顔を浮かべた。


「やっぱそうだぁ~!」

「ち、違います!」

「の割には顔赤いけどぉ~?」

「帰りますよ!?」

「え!? 待って待って! それはストップ!」


 立ち上がるフリをしたら慌てて止められた。


「も~ずるいなぁ~。うかつなこと言えないじゃん」

「うかつだと思うなら言わないでください」


 ちょっと暑くなってしまったのでほぼ中身のないアイスコーヒーに口を付ける。

 カナさんが頬杖を付いてにやりと笑った。


「まぁいーけど。でも紗夜はライバルいっぱいだよ?」

「……なんの話ですか?」

「大学でもあんな綺麗な子いないんだから!」


 それはある程度は想像できる。

 この前、大学に行ったのだ。紗夜さんが周りにどう見られているのか、すれ違う人が振り返っているのを見ただけでもなんとなくわかる。紗夜さんは手の届かないところで咲いている。


「黙ってたら世界で一番可愛いんじゃないかくらいあるからね」


 褒めてるのか貶してるのかわからないな……。


「……でも、別にそれがやめる理由にはならない」


 俺は前に進むしかないのだ。

 そのための手段の一つが大学受験である。

 改めて自分の目標を噛み締めるように口にすると、カナさんはきらきらと目を輝かせて手を合わせた。


「わぁ~~なるほどねぇ~~!」

「……はい?」

「なんでもな~い! 紗夜が君の話すると嬉しそうにしてる理由がわかるなぁ~って」

「……え。紗夜さんって俺の話するんですか?」

「あ。黙っててって言われてたんだった」


 両手で口を抑えてるけど、もう遅い。


「……なんて言ってました?」

「それは内緒じゃん? あたしだって分別はあるし~?」


 縋る思いで見つめてみるけど、カナさんはぷふっと吹き出すだけだった。


「でもカテキョ中の休憩ならちょっとだけ教えてあげようかな~」

「……取引ですか」

「これ、君の集中が切れそうなときにご褒美として出したらめっちゃがんばれるんじゃない?」


 ちょっと想像してみたけど、気合の入る自分が容易に頭に浮かんだ。

 俺は、実はかなりちょろいのではないか。


「……紗夜さんに迷惑がかかるようなことは承諾しかねますが!」

「大丈夫! ちゃんと事前に紗夜に許可はとっておくから! だからあたしを先生にどう!?」


 すごいアピールしてくる。 


「お安くしておくけど~……?」


 手をもみもみしてゴマをすっている。

 そんなに下手に出なくてもいいのでは?


(でも悪い人ではないんだよな……)


 空回りはしてるけど、がんばろうとしてるのは伝わってくる。

 紗夜さんの友達だからというのもあるけど、いい人だとはわかる。


 そもそも俺だって選べる立場じゃないのだ。

 ここはありがたくお願いするべきではないか。


「では今度、体験授業からお願いできますか」


 そう言うとぱぁっと顔が明るくなって、俺の手を掴んでぶんぶん降り出した。


「え~まじで~! やったぁ~! よろしくね~!」

「ちょ! 声が大きいです!」


 というわけで、俺に家庭教師の先生(仮)ができた。

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