第23話 イケイケギャル教師
翌日の放課後。
今日ついに、家庭教師になるかもしれない方と会う。
(……緊張するな)
今いるのは集合場所のカフェ。窓際の席。
バイト先ではなくて、チェーンのよく見るお店である。
今日は紗夜さんと俺と先生(予定)の三人で会う。
本来の家庭教師ならまず自宅に来てもらって親と話したりするのだろうが、今回はまず生徒と先生で会うらしい。
紗夜さんの知り合いということで、うちの母も話をしたらOKを出してくれた。
追加で『もし決まったら会わせてね』とは言われたけど。
(……まだ来なそうだな)
さっき紗夜さんから『ちょっと遅れるかも』と連絡があった。
いつ来るかわからないので、ガラスの壁から外の通りを歩く人をちらちらと眺めてしまう。
先生はどんな人だろう。
紗夜さんの知り合いということだから、穏やかな人だろうか。
(コーヒーでも飲んで落ち着こう)
ずずず……とだいぶ中身が無くなってきたコーヒーを啜る。
でもそういえばちょっと変な子だと言ってはいたな……と思いながらカップを置いた瞬間、急に横から影が差した。
「――――! ――――!」
びっくりして振り向いたら、なぜか見覚えのある女性が窓に手を付いて俺を指さしている。
(――えっ、この前の……!?)
バイト先の前で謎の挙動を繰り返していた美人……!?
分厚いガラス越しでめちゃくちゃ喋りかけられている。いや……それ何も聞こえないですけど!?
(あれ、紗夜さんもいる?)
謎の女性の奥に紗夜さんもいた。
困惑した様子でおろおろと謎の女性をガラスから引き剥がそうとしている。
(つまり?)
俺は今日、ここに俺と紗夜さんと先生、三人で会う予定を立てていた。
先生は紗夜さんが連れてくることになっていた。
(もしかして――この変な美人が、俺の先生?)
疑問形にするまでもなく、そんな予感はすぐ答えが出た。
◇
お店に入ってきた紗夜さんが謝っている。
その隣で明らかに動揺を隠せていない美人の女性。
「ごめんね浅海くん、遅れちゃって……」
「わぁ~……久しぶりぃ~……昨日ぶりだねぇ~……少年……」
前に座ってお水の入ったコップをガタガタ持っている。
水が零れそうだけど大丈夫だろうか。
紗夜さんが不思議そうな顔で俺達を見比べている。
「……二人、知り合いだったの?」
答えに困る質問が来た。
「いや、しりあ――」
「知り合いだよ! ね! 知り合いだよね!?」
答えようとしたら、謎の女性が食い気味に言ってくる。
何かバレたくない事情でもあるんだろうか。
「ま、はい……知り合いといえば知り合いです」
「そうそう! だから紗夜、先行ってもだいじょぶだよ!」
「そうなの……?」
不安そうに紗夜さんが尋ねてくる。
隣で謎の女性はずっとパチパチとウインクをしていた。
だいぶ挙動不審だけど……こんな人でも紗夜さんの友達だっていうからなぁ。
「……はい! 大丈夫です!」
「そっか。じゃあ、カナに任せて平気?」
「お、おっけ~! あたしに任せてよ!」
「そうする。浅海くんも、後でね。ちょっとくらい遅れても平気だから」
「すみません、ありがとうございます!」
紗夜さんとはこの後バイトで会うことになっていた。紗夜さんだけ先に出て、俺は一時間遅れでシフトに入る。紗夜さんがマスターに話をしてくれたのだ。何から何まで頭が下がる。
なので、それまでの間に色々話を聞きたいわけだけど。
「…………」
「……あはは」
二人きりになった途端、微妙な空気が流れている。
「……あの、まず一個聞きたいんですけど」
「な、なに?」
「先生……であってますか?」
「……あってますぅ……」
ものすごく沈んだ声で回答が返ってきた。
届いたアイスコーヒーをストローでちびちび飲んで、はぁと溜息を吐く。
「もーさいあく……まさか君だったなんて……。一応確認するけど、浅海遊太くんで合ってる?」
「あってます。先生は……」
「三栗叶絵。カナで、よろ!」
謎の女性――改めカナさんがしゅびっとピースを突き付けてくる。
しかしそのピースもすぐへにゃりと崩れた。
「紗夜がバ先の後輩って言うから、どんな子か下見したくて行ったんだよぉ~……まさかドーナツ少年だったなんてぇ~……」
俺、ドーナツ少年って呼ばれてたんだ……。
「イケイケギャル教師で行きたかったのに、もう予定崩れちゃったぁ~……」
ぐったりとテーブルに倒れこむカナさん。
たしかに何も知らずにカナさんを見たら、美人特有の迫力があって気圧されていたかもしれない。イケイケギャル教師も、まぁ無理ではないと思う。
けれど店の前で挙動不審だったり、ドーナツを小動物みたいに食べてる様子を見たり、こうしてへにゃへにゃの姿を見たので、もう無理だ。
「……なんでわざわざ下見なんて?」
「カテキョなんて久しぶりじゃん? それに紗夜の後輩だって言うじゃん? だから失敗しないように気合入れてたの!」
「……そうなんですか?」
「そうだよ! 大好きな友達の大事な後輩なんだからさ!」
ぐぃっと身を乗り出してくる。顔が……近い!
「ま~……過ぎたことは仕方ないか」
座りなおして、両手でぐっと頬を抑えてから目を開く。
その時にはもうさっきまでのへにゃへにゃは無くなって、イケてる大学生ギャルの雰囲気に戻っていた。
にーっと大きく笑顔を浮かべてノートにペンを取り出した。
「じゃ、カテキョの話しよっ!」




