第22話 変な美人にドーナツ
散歩の帰り道、バイト先のカフェの前に変な人がいた。
「う~ん、今はいないかなぁ~……?」
変、と断言できたのは、見た目が明らかに怪しいからだ。
たぶん女性ではあると思う。それもかなりスタイルのいい長身の女性だ。
ただ、顔をキャップとサングラスとマスクで隠している。それに黒のダウンジャケットを着て、足も黒い細身のスキニー。唯一、キャップから零れている髪だけは金髪だった。
そんな謎の女性がカフェの入り口から中を覗き込んでいた。
全身黒で目立ちたくなさそうな服装だけど、めちゃくちゃ目立っている。
隠れてるつもりなのかもしれないけど、怪しすぎてまったく周囲に紛れてない。
(な、なんなんだあの人)
今は休日のお昼過ぎ。
普段だったらマスターが出てきて声を掛けるのだろうけど、店内がそれどころじゃないくらい忙しい可能性もある。だったら声掛けくらいはしてもいいかもしれない。ここなら明るいし、変な人でも助けをすぐ呼べるだろう。
そう思って、ひとまず謎の女性へと近づいた。
「あのぉ……」
「へっ!?」
ぎゅるんと振り向いてくる謎の女性。
やっぱり背が高いので少し見上げる恰好になる。
「店に何か用ですか?」
「えっ、あっ……んーっと! 君、このお店のこと詳しい?」
「どちらかといえば詳しいですけど……」
怪しい人なら声を掛けたら離れそうなものだけど、謎の女性は逆に質問してきた。
声は明るい感じで、あまり後ろ暗そうな雰囲気はない。
「そうなの? ねえここでバイトしてる高校生の子いない?」
「いるかもしれないですけど……」
このカフェで働いてる高校生は、俺含め二人。
俺ともう一人マスターの娘がいるけど……たぶん娘さんの方?
「だよね! し、シフトいつかわかる!?」
勢いのままに次々質問をしてくる女性に、首を傾げた。
「……なんでそんなこと聞くんですか?」
「えっ!?」
なぜか虚を突かれたように目を見開く。
「いや知らない人には教えられないですし……もし知り合いを探してるならこそこそしないで連絡すべきでは……?」
「な……っ」
数歩しりぞき、そのままへにゃりと路地に膝を付く。
「せ、正論だ……年下に正論で抑え込まれてる……」
口論が絶望的に弱い。
本当になんなんだこの人。
ふと周りを見ると、通る人が何事だろうかと目を向けているのがわかる。
(店の前でこれはまずい……)
項垂れてる女性に声を掛ける。
「あの、一旦離れませんか? 店の前だと迷惑になるので」
「……そだね……うう、あたしまたやらかしたぁ……」
(なんか紗夜さんに似てるな……)
そんな変な女性を引きつれて、一旦その場を離れた。
◇
お店の傍にある公園のベンチ。
謎の女性はサングラスとマスクはもう取っている。顔が見えても、やはり見覚えはない。顔立ちは整っていて、特に目がぱっちりとしていた。一度見たら覚えていそうだけど、見覚えはない。お客さんでもないだろう。
「ごめんね。変なことしちゃって」
そんな謎の女性はベンチでがくりと項垂れている。
不審者ではあるけど、すごく反省している気配はあった。
この人、一体何をしてたんだろう。
「……君、あのお店の常連さんなの?」
「あ、はい。まあ、そうです」
常連と言っても間違いではない。
一応、週に何回かは確定で通っているわけだし。
「そうなんだぁ……今日はお客さんとして来たの?」
「いやたまたま通っただけですけど……というか、お姉さんは何を?」
「えっ? あたしはえーっと、ちょっと初めてのカフェで戸惑った的な」
(絶対、嘘だ)
めちゃくちゃ目が泳いでる。
人の嘘を見破るのが得意なタイプではないけど、これはわかる。
「高校生がどうとか言ってませんでした?」
「そ……それは忘れて?」
「はぁ……」
一応は頷いておく。今度マスターに報告しようとは思いつつ。
「あたしね。今度すごい大役を任されちゃって」
「そうなんですか」
「それでちょっと下見……じゃなくて。様子見……でもなくて」
……なんか出てくる言葉が怪しいなこの人。
「じゅ、準備! 事前準備で、心構えが必要だったの!」
「へぇ……」
よくわからないけど、この人は何か大役を任されてて、その下見のために高校生のバイトを探していたらしい。……犯罪じゃないですよね?
なんて思っていたら、ぐう、と大きい音がした。
音の出どころは目の前の女性。
服で隠せてないお腹を抑えている。
「そうだぁ……朝から何も食べてないんだぁ……」
「……なぜ?」
「今日の下……準備に気を取られちゃって、忘れてた」
また下見と言おうとしてる。
もしかして、お腹が空いてるからおかしな行動に出たのではないか。
脳みそにエネルギーが足りてないのだ。だから方向に考えてしまうのだ。
「あの、ドーナツでよければ食べますか?」
「え? そんな悪いよ」
「いえ。お腹が空いてると良くない方向に考えちゃうって言うので」
袋から紙に挟んでドーナツを差し出す。
和希の分は残してあるので大丈夫だ。
「え~ありがとぉ~! 君すごい良い子だねぇ~!」
はぐはぐと小動物みたいにドーナツを食べ、笑顔を浮かべた。
結局この人はなんなのか、よくわからないけど。
「今日はもうあそこで下見したらだめですよ」
「んむ。ほうふる」
なんとなく、悪い人ではなさそうだ。
だけどあんまり関わらない方がいいかもしれない。
もう離れた方がいいだろう。お金は貰ってないけど、このぐらいは勉強量だ。変な人に関わってはいけない。
「……では、これで」
「ん!」
……なんだか、変な人だったな。
その後は家で和希と喋りながら勉強をして過ごした。
そんな謎のお姉さんに再会するのは翌日のことであった。




