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自己否定する年上美少女の正体を知らずに全力で肯定していたら、いつの間にか外堀を埋められていた  作者: じゅうぜん


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第18話 学内を巡ろう

 どうして紗夜さんがここに?


 大学見学はたしかに学生のボランティアが案内してくれるとは聞いていた。

 しかし、まさかそこに紗夜さんがいるなんて思わない。

 引率の先生が俺たちに向けて指示を出す。


「えー学生の皆様に集まっていただけたので、二人か三人のグループで案内してもらう事になりました。なのでひとまず二三人で纏まってください」

「だってさ遊太、一緒に行こうよ」

「あ、ああ」


 頷きながらも、どうしても視線は紗夜さんの方へ向かってしまう。

 どうして紗夜さんがここにいるんだろう。

 まさか、俺に会うためとか――。


(いや――そうかも)


 美人が俺に会うために来るなんて、普段の俺だったら妄想だと首を振るところだけど、紗夜さんならあり得る。


 だってうちの隣に引っ越してきたのだ。

 それぐらいはするのではないか。


 なんてほぼ確信を持っている俺のところに、すたすた紗夜さんが歩いてくる。それだけで他の面々がおもむろに顔をあげて紗夜さんのことを目で追っていた。周りの目を引き付けている。まるでファッションモデルが歩いているみたいだ。


 今日の服装は落ち着いた雰囲気の恰好だった。ゆったりとしたスカートとトップスを合わせている。本当に紗夜さんは何を着ても似合うなと思った。


 そんな紗夜さんがやってきて「ばあ」と両手を開いた。


「びっくりした?」

「……びっくりしました」


 いるかもしれないとは思ってたけど、ここで会うとは思っていなかった。

 周りの人はみんなちらちらこっちに視線を向けている。注目を集めてしまっているらしい。周囲の疑問を代表して、蓮司が挙手する。


「遊太、知り合いなの?」


 なんて言おうか悩んで、一番当たり障りがなさそうな回答を選んだ。


「バイト先の先輩なんだ」

「まじか……びっくりしたぁ……。なんか、仲良さそうでいいね」

「……仲良くさせてもらってる」


 仲が良いというのは間違いない。


 ただどのぐらい仲がいいのかという所まではちょっと言いづらい。この人はお隣に住んでいて、うちに食事を作りに来てくれて、家族全員から信頼を得てるくらい頻繁にお世話になっているとか。


(そんなこと言ったら質問攻めに合いそうだ)


 できればバレないようにしたい。こうなるに至った経緯を説明するのは大変なのだ。

 紗夜さんが蓮司に声を掛ける。


「良いこと言うね……私と浅海くん、仲良しに見える?」

「とてもそう見えますねー」

「お名前はなんて言うの? 私、九条紗夜って言います」

花房蓮司(はなぶされんじ)です」

「花房くんね、よろしく。浅海くんとは仲良いの?」

「そうですねー仲良しになりたいなーと思って引っ付いてますね」


 蓮司、お前そんなこと考えてたのか。


 俺はもう結構仲良しの枠に入ってると思ってたけど、蓮司的にはまだ足りないんだろうか。もうちょっと、蓮司に心を開いてもいいのかもしれない。


 紗夜さんは同志を見つけたような顔をしている。


「へーそうなんだ! なんか親近感湧くなぁ~」

「あはは。もしよかったら最近の遊太の話とかしましょうか?」

「えー! 聞きたい!」


 俺を置いて盛り上がっている二人。

 今日は大学を知るためのイベントなのに、代わりに俺のプライベートが晒されようとしている。


「……蓮司。その情報は出す前に俺に精査させてくれ。紗夜さんも、他のメンバーもう進んでるところもありますよ」

「精査はめんどいなー」

「あれ? ほんとだね……二人は私が案内するでいいのかな?」


 くるりと紗夜さんが周囲を見渡す。

 他のメンバーもそれぞれ纏まって話を進めているようだ。特に異論は無さそうである。


「よさそうだね。一応、大まかなコースは指定されてるからそれにそって回っていくけど、質問があったらいつでも聞いてね」


 ふわりと笑う紗夜さん。


「はーい」

「わかりました」


 気ままな蓮司の横で、ちょっと硬い声で返事をする。

 蓮司が訝しげな目で俺を見てきた。


「遊太、なんか緊張してない?」

「いや、そういうわけではないけど……」


 さらに怪訝そうに睨まれてしまう。紗夜さんが笑っているのだけが救いだった。


「じゃあ早速出発しよっか」



 ◇



 紗夜さんの案内を受けながら、三人で大学の構内を巡る。


「講義は普段こういうとこで受けるんだよ。講義によって建物がだいぶ遠いところにあったりするから、移動はちょっと大変だね」

「毎回けっこう長い距離を移動するんですか?」

「だいたいの講義は近い建物で纏まってるけど、物によっては遠いんだよね。私の場合は週に二回くらいは端っこから端っこまで行くかな」


 講義の教室を眺めたり……。


「ここが食堂。今は空いてるけど、お昼時は席を取るの大変かも。サークルの人がまとめて座ってたりもするからね。逆に今みたいな空きコマの時間に来ると座れたりするかな」

「紗夜さんも来るんですか?」

「うん。お弁当を作ってるから席だけ取って食べてたりもするよ。後は、たまに大学の外で食べたりもするかなー」


 食堂の話を聞いたり……。


「生協もあるよ。本とか文房具とかいろいろ買えたりする。学生なら割引も聞くから、ここで買うとお得かも」

「大学の水が売ってる……」

「中身は普通のお水だよ。説明会とか来ると貰えるかも」


 生協で大学のロゴマークが入った水に驚いたりした。


(広いな)


 というのが大学を見回って第一の感想だった。当然だけど、高校とは比較にならないぐらいに敷地が大きい。授業……ではなく講義を受ける教室もデカい。建物も数が多い。覚えるまでは地図が必須になりそうだ。


 ちらほら見える学生の姿も垢抜けていて、一段以上は大人びて見える。

 大学という場所はやはり高校とは違うのだ。


(紗夜さんはいつもこんなところで過ごしてるんだ)


 高校にいる俺の小ささを思う。

 今、のほほんと過ごしている俺でもこんな所で過ごせるんだろうか?


「――で、ここが図書館。本当は学生証が無いと入れないんだけど……今日は臨時でカード作ってあるから、ちょっと入ってみようか」

「いいんですか?」

「もちろん。けど中では静かにね」


 わかりましたと頷いて、カードを受け取る。

 駅の改札みたいなセキュリティゲートにカードをタッチして中に入った。


 図書館も当然、高校の図書室とは違う。ずいぶん広くて、背の高い本棚が至る所にある。入り口の近くには各地の新聞や海外の雑誌が立てかけられているところもあった。


 紗夜さんが階段脇の案内板を指で示して、小声で説明をしてくれる。


「この階は雑誌とか新聞とか、あとはソファとかで作業できるスペースがあるかな。上の階はPCとか使える教室が幾つか。普段読むような小説とかはその上の階にあるよ。絶版になった本とかもあるし」


 最後の説明で、蓮司が軽く反応した。


「へー……面白そう」


 蓮司はたしかによく本を読んでいる印象がある。面白い本を見つけるのがうまいので、俺も蓮司から借りて読んだりしていた。


「早めに回ったし、よかったら少し自由行動にしてみようか」

「いいんですか? ありがとうございます」

「じゃあ……三十分後にここ集合で」


 時計を見る。先生に終わりと言われていた時間ともちょうどよさそうだ。


「じゃ遊太、俺は四階見てくるね」

「了解。俺はもうちょっとこの辺にいようかな」

「おけー」


 蓮司が意気揚々と階段を登っていく。

 紗夜さんに目を向けると、カウンターの人に丁度何やら声を掛けられていた。邪魔をしては悪いと思い、そのまま目についた海外の雑誌に近づいて手に取ってみる。


(……なんだこれは)


 当たり前だけど、何が書いてあるのか全くわからない。

 わかるのは表紙がお洒落だということぐらい。


(紗夜さんなら読めるのかな)


 流石に海外の雑誌は無理なので、学術系っぽい日本語の雑誌にした。


 見知らぬ学生が近くの雑誌を取ってソファに持っていくのを見て、俺も同じように持っていって空いてるソファに腰を下ろす。……うわ、ソファがふかふかだ。


 ぺらりとめくって、文字を目で追う。お洒落な空間でソファに腰を降ろして、インテリっぽい雰囲気の雑誌を読む。

 そうするとなんとなく頭が良くなっているような気はするけど、


「……気がするだけだな」


 内容は全然頭に入ってこない。周りにいる学生は、顎に手を当てつつ真剣な表情で読んでいる。俺には真似できそうにない。


「浅海くん、なに読んでるの?」

「……紗夜さん」


 顔をあげると紗夜さんが対面のソファに座るところだった。

 俺が持っている雑誌の表紙を眺めて、興味深そうな顔をする。


「ずいぶん難しそうなの読んでるんだね」

「いや……全然です。読んでたら眠くなりそうでした」

「ふふ、そうなんだ……安心した」


 紗夜さんの言葉に首を傾げる。


「安心、ですか?」

「あ……気を悪くしたらごめんね。だってそんなの簡単に読んでたら、私なんかじゃ何も助けられないくらい頭良さそうだもん」

「……紗夜さんはここの本はあまり読まないですか?」

「うん。そんなに読まないかな……レポートで使うからたまに海外の論文とか頑張って読んだりはするけど」


 たしかに言われてみれば、遠くで読んでる学生はずっと眉間に皺が寄っている。さっきまでは気にしてなかったけど、もしかしてあれは読み解くのに苦労してるからなんだろうか。


「俺……大学生ってこういう難しいのも読めるのかと思ってました」

「まさか」


 抑えた声でくすくすと笑われる。


「大学生なんて、高校生とあんまり変わんないよ」

「そうなんですか?」

「年齢も二つ三つくらいだし、だいたい同じ。周りからちょっと大人に見られるけど、内面はほとんど高校生だから」


 内面は高校生。

 そう思って見てみると、なんだか周りの学生が身近に思えてくる。


(大学生もあまり変わらないんだ)


 さっきまでよりどこか霧の薄まった視界で周囲を見回していると、紗夜さんがそっと顔を傍に寄せてきた。


「ところで……浅海くん」

「はい?」

「自由時間がまだあるから……少しだけ抜けだしてみない?」

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