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自己否定する年上美少女の正体を知らずに全力で肯定していたら、いつの間にか外堀を埋められていた  作者: じゅうぜん


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第19話 目標を立てる

 紗夜さんに連れられていった先は、隣の建物。

 テーブルと椅子が沢山並んでいる。さっき案内された食堂のような雰囲気だ。


「空いてるから座ろ。ちょっとだけ待っててくれる?」

「え? はい、わかりました」


 にこりと微笑んで紗夜さんがどこかへ去っていく。

 何をするのだろうと思いながらその背中を目で追った。


(紗夜さんは遠目でも目立つ……)


 眺めていると、紗夜さんは周囲からも視線を向けられているのがわかる。

 見学で回っていた時もそうだったけど、やっぱり紗夜さんは目を惹く。


(……やっぱり、ヒモに甘んじるわけにはいかない)


 俺では釣り合わないんじゃないか。

 昨日から浮かんだそんな思いはまだ胸につかえたまま。


 そうしてぼんやりと窓の外を眺めていたら、紗夜さんが戻ってきた。

 何やらトレーを持って、気まずそうな顔をしている。


「……浅海くんって甘いもの平気だっけ」

「はい、平気ですけど」

「そっか、よかったぁ……もしかしたらだめかもって不安になっちゃった」


 はい、これ。とはにかみながらトレーに乗せたものを差し出してくる。

 持ち手だけ紙に包まれた細長い揚げ菓子。

 チュロスだ。


「浅海くんにだけ、特別ね」


 紗夜さんがふわりと微笑む。


「そ、そんな」

「今日、なんだか元気なさそうな気がしたから」


 思わぬところを付かれて固まってしまう。


「……もしかして、気のせいだった?」


 ふるふると首を振る。

 悩んでいるのは紗夜さんにはお見通しだったのか。

 何を言うべきか悩んでいたら、紗夜さんがくすりと笑った。


「浅海くんがそうしてるの、なんだかちょっと嬉しいかも」

「へ?」


 変な声が出てしまった。


「そ、それはどういう意味でしょうか」

「あっ……ごめんね。悪い意味じゃなくて」

「いえもちろん、わかってますけど」


 けれどどうして、俺が悩んでいることが嬉しくなるんだろう。

 紗夜さんが少し言葉を探すような間を置いてから、口を開く。


「いつも思ってたの。浅海くんってしっかりしてるから、私が何かしてあげられる隙が少ないんじゃないかって」

「……そ、そんなことないですよ!」


 思わず大声を出してしまった。

 そんなわけはないのだ。夕食にお弁当も作ってくれる。和希とも仲良くしてくれている。今の時点でも恩がどんどん膨れてしまいそうなのに。


「浅海くんは私の、中身のところを助けてくれてるでしょ」


 紗夜さんが目を伏せて、胸を抑える。


「でも、私は浅海くんに物でしか返せてない。……これも、私がしたいからやらせてもらってるだけで」


 手に持ったままのチュロスに視線を向ける。


「本当にこれって釣り合うのかなってずっと思ってたから」

「そ、そんなことないですよ!」

「そうかなぁ……? 今日も浅海くんに話を聞いて、何かできないかと思って見学のガイドに応募してみたんだけど……」


 そういえば、バイトの時に何かを考え込むようにしていたことを思い出す。

 あれは俺が大学見学に行くことを伝えた日だった。


(もしかして、あの時に決めてくれた?)


 紗夜さんが困ったような笑みを浮かべた。


「でも、難しいね。結局チュロスを買ってあげるくらいしかできないし」

「いや――っ!」


 違うと思って、俺は勢いよく首を振った。

 勢いよく首を振ってから、なんで違うんだろうと考えた。


(――そうだ)


 チュロスを買ってくれたことはたしかに嬉しいけれど、チュロスそのものだけが嬉しいわけじゃない。


 紗夜さんが俺のことを心配して、行動してくれたことが嬉しいのだ。


「……うっ!」

「……えっ、えっ!? 浅海くん!? 泣いてる!?」

「ないでないでず」

「す、すごい鼻声だけど?」


 いけない。急に泣けてきて紗夜さんを混乱させてしまった。

 顔を隠しながら呼吸を整える。


 紗夜さんが悩みながらも俺のために行動してくれた。

 それだけで俺はこんなに嬉しい。


「すみません……チュロスが嬉しすぎて」

「そ、そんなに?」


 恩ばかりが増えていく。

 だから悩んでいる暇はない。


 大きく深呼吸して顔をあげたら、心配そうな表情の紗夜さんと目が合った。


「紗夜さん。俺、もっと自信をもって紗夜さんの隣にいられる人になりたいです」

「……え?」


 必要なのはたぶん、相手に何かを返せているという実感なのだ。

 言葉だけじゃ足りない部分。


 そこを埋めるには、俺自身がもっとできることを増やせるようにならないと。

 そうして、紗夜さんの傍に自信をもって立っていられる人にならないと。


「俺、ここ受験します」

「……うちの大学に?」

「はい」


 別に、大学に入ったとして何かが解決するわけじゃない。

 俺自身のためにそうしたいだけ。

 高い目標を定めて、達成できれば、少しは自信を付けられると思うから。


(紗夜さんと俺には差がある)


 だからこそ悩んでいるだけではだめだ。

 前に進むことを考えなければ。

 紗夜さんがくすりと笑った。


「浅海くんが来たら、楽しくなるなぁ」

「……がんばります」


 二人で笑い合って、チュロスを食べた。


 ……それで集合にちょっと遅れて、蓮司に後でニヤニヤと肩を叩かれた。



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