第15話 ほにいひゃんのばか
ネットカフェで過ごした後、俺たちは呆然としながらお店を出た。
それもこれも、寝すぎて今日の予定が全部潰れたからだ。
睡眠時間、脅威の四時間。
爆睡である。
「……すみません紗夜さん。途中で起こせばよかったです」
「ううん! 大丈夫! 私が寝すぎたせいだし……」
俺は一時間くらいで目覚めたのだけど、その時に紗夜さんはまだすうすう寝ていた。起こすのも悪いと思ってまた目を閉じたら、三十分後ぐらいに今度は紗夜さんが
起きたらしい。
そして紗夜さんは俺が寝てると思ってまた寝て、今度は俺が起きて……と交互にしてたら四時間が経っていた。
初めから一時間とか一時間半とか、せめて時間を決めておけばよかった。
「行きたいところ行けなくてすみません」
「平気だよ。私もあんなに寝れると思ってなかったから」
お互い想像以上に眠りが足りなかったようだ。紗夜さんはともかく、俺は起きてるべきだったのに。
時刻はもう昼過ぎ。
これから電車で移動してもいいが、時間の余裕は減っている。
何よりも長く寝た気怠さが残っていて、あまり移動してはしゃぐという感じではなかった。
「……家、戻ろっか?」
紗夜さんが提案してくれる。申し訳ないけどその方がいいのかもしれない。
「すみません本当に……じゃあ今日は解散に」
「あっ、待って。違くて。帰るというか、帰りはするんだけど」
慌てて手を振られる。どういうことか?
「浅海くん、お腹空いてない?」
「……言われてみれば、空いてます」
昼ごはんを食べずに寝てしまった。お腹に入れたものはネットカフェのドリンクバーで少し眠気覚ましのコーヒーを飲んだくらいだ。
「一緒に何か買って、家でご飯食べない?」
「え? いいんですか?」
「和希ちゃんはもう食べたかな……」
「そうですね、聞いてみます」
家に戻るなら和希も一緒の方がいい。
昼食を食べたか和希に聞いてみる。『なんで?』『お菓子食べた』と返ってきた。食べてないらしい。
「じゃあ和希ちゃんがよければ一緒に食べようか」
「場所はうちの方がいいですよね?」
「できれば……」
母さんは昼から出かけると言っていた。家には今のところ和希しかいない。
料理をする時は毎回我が家なのでそっちの方がやりやすそうだ。
「じゃあ和希にもそう伝えておきます。買い物しましょうか」
「うん!」
ということで駅から離れる方へと歩き出した。
◇
「で本当に帰ってきたの?」
家に帰ったら、和希から嘘でしょみたいな目で見られた。
「ただいま」
「おかえり……じゃなくて、せっかくのデートなのに普通ネカフェで寝ただけで帰ってこないよ」
「いや別に、デートってわけでは」
「男女二人のお出かけがデートじゃないわけないじゃん」
思想が強い妹に詰められている。
そういう見方もあるかもしれないけど。
「浅海くんキッチン借りちゃうね~」
「はい、お願いします!」
紗夜さんが買ってきた材料を台所で並べている。
もう我が家の調理器具がどこにあるか完全に把握していて手慣れた様子だ。
「……せめて紗夜さんの家で二人でいたらいいのに」
「それだと和希が一人になるじゃん」
妹を置いてそんなことはしない。
台所から話を聞いていたらしい紗夜さんも頷く。
「そうだよ。私も和希ちゃんと一緒がいいなぁって言ったんだ。もちろん邪魔なら帰るけど……」
「……む」
多数決では二対一。劣勢を察した和希がむすっとした顔で黙る。
そうそう。俺と紗夜さんは別にお付き合いをしているわけでもないのだ。変な勘繰りや、気遣いなんかも必要ない。まぁお隣さんってだけとは言い切れない、だいぶ変な関係性ではあるけど。
ようやくわかってくれたかと頷いていたら、和希が無言で急に突進してきた。
「ぐえ!?」
「和希ちゃん!?」
勢いあまってソファに倒れ込む。腹の上に和希の頭がずしんとのしかかり、俺はもう一回「ぐえ……」とうめき声をあげた。
「ほにいひゃんのばか……!」
「和希……重い……」
「へっはくほつぎょうひようとほもったほに……」
「なに……なんですか……」
卒業と聞こえる。そういえばこの前もそんなことを言っていた気がする。
とお腹にぐりぐりと突き付けられる妹の重みを感じながら思い出した。
和希は何か遠慮していたのだろうか。
ハグくらいまだいつでも構わないのに。兄妹なんだし。
「よしよし……和希も一緒にカレーたべような……」
「はべる……」
頭を撫でていたら和希のぐりぐりが落ち着いてきた。
そんな様子をじ……っと紗夜さんが見ている。
「それいいなぁ……」
何かの選択肢が生まれてしまったかもしれない。
でもそれより、まずは助けてくれませんか。
その後はみんなで紗夜さんが作ってくれたカレーを美味しく食べた。




