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自己否定する年上美少女の正体を知らずに全力で肯定していたら、いつの間にか外堀を埋められていた  作者: じゅうぜん


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第11話 お食事はいかが?

 ごたごたした話し合いをしていたところ、和希のお腹がぐうとなった。


「あっ……」


 和希が慌てて手で押さえる。

 ふと時計を見れば、たしかにいつの間にやらそろそろ夕食の時間だ。和希は年ごろなのでお腹も空くだろう。


「さっ……そろそろご飯だな……!」


 この場を切り抜けるチャンスだと思って急いで呟く。逃れられるならなんでもいい。

 すると紗夜さんが椅子を引いた俺に口を開いた。


「ご飯はいつも浅海くんが作ってるの?」

「そうですね、時間がある時は作ってるんですけど……」


 視線を逸らしたところで、和希がぼそっと呟く。


「お兄ちゃんはレパートリーがだいたい同じ」

「……そうなんです」


 実を言うと、俺はあまり料理が得意ではない。

 ややこしいレシピを作ると失敗するので、カレーとか親子丼とか鍋とか、そういう手軽なレシピに落ち着いてしまう。


 別に和希も美味しく食べてくれはするのだが、できればもう少し凝った料理をとってほしい。けれど手間の多いレシピだと俺は失敗しがちだ。まずい料理をわざわざ食わせるのは違う。


 そう思ったタイミングで、紗夜さんが手を合わせて言った。


「よかったら私が料理を作ってみてもいい?」

「……えっ!?」


 紗夜さんの突然の提案に、兄妹二人して驚愕する。


「嬉しいですけど……でも流石に紗夜さんに迷惑じゃ?」

「ううん。さっきも言ったでしょ。ちょうど私に何かできることが無いかって思ってたから。むしろご飯を作りに来たと言っても過言ではないよ」


 それは本当ですか?

 紗夜さんは立ち上がって既に腕をまくり始めている。準備が早い。やる気みたいだけど、こちらからは本当に何もお礼が渡せないのにいいんだろうか。

 なんて悩んでいたら、和希が俺の袖をくいくいと引いて小声で言ってきた。


「……作ってもらおうよ、お兄ちゃん」

「和希?」

「これで味が微妙だったら帰ってもらおう」

「いや、やめなさい」


 和希が嫌な姑みたいなことを言い出す。

 聞こえてない紗夜さんは腕をまくり終えてからくるりと振り向く。


「浅海くん、今日は何を作るつもりだったの?」

「決めてなくて……いろいろと食材が送られてくるので、材料はあるんですけど」

「送られてくる?」

「祖父が農家で、いろいろ野菜とか送ってくれるんです」


 冷蔵庫の中には冷凍している物も含めて、割といろいろな材料が揃っている。これは祖父が折に触れて野菜なんかを送ってくれるからだ。


 できれば俺も消化したいのだけど、不器用であまりうまく消化できていない。どのレシピでも玉ねぎは万能なので使うくらい……。使えない具材は適当に鍋にぶち込むか、母が休みの日にまとめて消化している。


 紗夜さんが材料を眺めて、俺たちに向き直った。


「わかった。二人とも苦手な食べ物はある?」

「俺はないです」

「私も」

「そうしたら……もしかしたらお気に召さないかもしれないけど、作ってみるね。ご飯だけ用意してもらっていい?」

「あ、はい。わかりました」

「ありがとう。……後で材料分のお金は払うね?」

「いやいや受け取れないです」


 そうして紗夜さんに夕食を作ってもらうことが決まった。



 ◇



 ぐつぐつ、ことこと。

 台所から良い音と、良い匂いが届く。

 紗夜さんの動きはてきぱきとしていて淀みない。


 たまにネガティブになって頼りなく見えるけど、実態はハイスペックな人なのだ。

 俺が思っていた以上に、ずいぶん料理に手慣れていそうだ。


 さっきまでは監視員のような目で見ていた和希も、だんだんとすんすん鼻を鳴らして視線が和らいできている。

 そろそろ落ち着いてきたかと思って、小さく声をかける。


「和希、急にお兄ちゃんのお客さんを呼んでごめんな」

「……む」


 そう言うとまたむっつりとしてしまった。

 けれどこれは不機嫌じゃなくて、ひねくれている時の顔だ。

 兄なのでなんとなくわかる。


「紗夜さんのこと、どう思う?」

「変な人」


 それはそうかもしれない。

 俺も今日、けっこうそう思った。


「……でも悪い人ではなさそう」

「そっか」


 和希が微かに付け足す。

 そう思ってくれたら俺は満足だ。


「……でもまだわかんない。ご飯まずいかも」

「いい人にご飯のおいしさはあまり関係ないだろ」


 笑いながら頭を撫でる。むっつりしながらも、和希はされるがままに撫でられていた。


「……心配しなくても、俺の一番はいつも和希だよ」

「……なに。そんなこと心配してないし」


 ふいっと顔を背ける。照れてる時の癖で思わず笑ってしまった。


「そっか。和希は今日も偉いな」

「……ちょぉ……」


 口では文句を言いながらも、本気で手をどかそうとはしてない。いつも通りの兄妹のやり取りである。


「…………」


 そんな俺たちを台所かチラチラと羨ましそうに見つめる視線があることには気づかないままだった。

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