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自己否定する年上美少女の正体を知らずに全力で肯定していたら、いつの間にか外堀を埋められていた  作者: じゅうぜん


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第10話 妹は疑っている

「えっと……つまりお隣さんがお兄ちゃんのバイト先の先輩になったってこと?」

「和希は天才だな。理解が早くてお兄ちゃん助かるよ」

「や、別に難しいこと言われてないし」


 紗夜さんとマンションの前で会ってから、俺は部屋に戻って和希に説明をした。

 内容は今まとめてくれた通り。

 なんとお隣にバイト先の先輩が引っ越してきたのだ。


「っていうかさ」

「ん?」

「その人、本当に大丈夫なの」


 大丈夫とはどういうことか。

 和希の表情は心配というよりは、ゲテモノを食べようとする人を見る目に近い。

 いわゆるドン引きというやつである。


「なんか距離感近いっていうか……重すぎな気がするっていうか……」

「まぁ……そうかなぁ……」


 たしかにいきなりお隣に引っ越してくるのは結構すごい行動力だけど。


「でもお世話になってるからなぁ」

「お世話になってるで片付けていいの?」


 和希にツッコミを受けた後、ピンポーンとチャイムが鳴った。

 途端に和希が素早く立ち上がって玄関へと向かう。


「……平気な人かどうか、私がチェックする」

「お、おい和希」


 何か誤解されていそうだが、それを解く間もなく玄関に辿り着いてしまう。

 そして和希がドアを開けると、そこに私服姿の紗夜さんが立っていた。


「こんばんは……あれっもしかして、妹さん?」


 タートルネックのセーターにワイドパンツ。シンプルな恰好だけど、紗夜さんのスタイルの良さが強調されている。私服姿はバイト終わりにも時折見るけど、自分の家の玄関に紗夜さんがいるのはすごく新鮮な感覚がした。


 そんな紗夜さんに和希が愕然と目を見開いてる。


「……ど、どうしたの?」


 ぴたりと止まる和希。両手で抑えた口から声が漏れる。


「か、顔がつよすぎない……?」

「……えっ、えっ、つよ……? 浅海くんこれ怒られてる……!?」

「いえこれは褒められてます」


 相変わらずマイナスに受け取ろうとする紗夜さんに首を振って、玄関に手を差し伸べた。


「紗夜さん、あがってください。お茶ぐらい出します」

「ご、ご挨拶だけのつもりだったんだけど……」

「そういうわけには……和希もいいよな?」


 いきなり大人しくなった和希がぎこちなく頷く。

 そうしてひとまず、紗夜さんを家の中へと招いた。



 ◇



 簡単なお茶を並べて、リビングのテーブルに並んで座る。

 紗夜さんは感心するような顔でリビングをぐるりと見渡していた。


 ナチュラルなカラーの、少しくたびれたカーペットやソファ。年季の入った引き出しやテーブル。冷蔵庫のホワイトボードには母さんからの伝達事項が書いてある。特段目立つものがあるわけでもない、どこにでもあるようなリビングだ。


「……ここが浅海くんが住んでるお家なんだ」

「大したものはないですけど」

「ううん。そんなことない。素敵なお家だと思う」


 心からそう思っていそうな声音で呟く。

 褒めてもらえるのは嬉しいことだ。自分ではあまりわからないけれど、目に留まるものがあるのだろうか。


 そんな紗夜さんに、隣に座った和希が声を掛けた。

 

「……どうしてそう思うんですか?」

「和希?」


 少し険のある言い方だ。


「……適当言ってるかもしれないじゃん」


 俺にだけ聞こえる声でそんなことを言う。

 そんな試すようなことをするのはよくない……そう言う前に、紗夜さんはこっちに気づいた様子もなく周囲を見渡して一つ一つ指で示す。


「えーとね。例えば、棚の上に家族写真があって、埃をかぶってないでしょ。だからちゃんと掃除して、丁寧に扱われてるんだなってところとか……」

「…………」

「それとカレンダーに二人の予定が書きこんであるよね。だから……家族仲が良くて素敵だなと思って。……うちはこういうの、姉のことばかりだったから」


 紗夜さんがわずかに羨ましそうな声で、ぽつりと呟く。

 昨日の話を聞く限りだと、紗夜さんの家族はお姉さんにばかり目を向けているようだ。

 だからそういう意味でもうちの光景が良く見えているんだろうか。


 そんな風に優しい気持ちで紗夜さんを見つめていると、和希がむ……っと口を引き結んだ。


「お兄ちゃんは……この女に絆されてる……」


 なんだか小声で物騒なことを言っている。

 そんなことはないんだぞと言いたかったが、その前に紗夜さんが「あっ」と口を開いた。


「そういえば自己紹介がまだだったね……。私、九条紗夜って言います。お兄さんの遊太くんとはおんなじバイト先で一年くらい一緒で、よく助けてもらってます」

「浅海和希です。質問してもいいですか?」

「うん、いいよ」

「お兄ちゃんのこと好きなんですか?」

「へっ!?」


 和希!?


「あ、あのな和希。紗夜さんは俺のお世話になってる先輩ってだけで別にそういうのでは……」

「そ、そうだよ。浅海くんには私なんかじゃ全然……」

「……じゃあなんでうちの隣に来たんですか?」


 和希は紗夜さんをじっと見つめる。

 視線が鋭い。この場では誰よりも年下なのに気圧されてしまっている。


「それは、お隣が安心できる人なら助かるなって」

「それだけですか?」

「え?」

「別に安心が欲しいだけなら、もっとセキュリティが強いところとかいっぱいあると思うんですけど。普通のアパートでしかないのに、お兄ちゃんがいるってだけで選んでますよね」

「そ、それは……」

「でも九条さんはお兄ちゃんのこと好きじゃないんですか?」 


 詰め方がすごい。

 あまりにもズバズバ言うせいで呆気に取られてしまった。

 紗夜さんは意外にも落ち着いた様子でゆっくりと首を振った。


「……違うの。本当はね。浅海くんに何かお返ししたいと思って、ここに来たんだ」

「……お返し? それは好きとは違うんですか?」

「違う、と思うよ。もちろん浅海くんのことは好き。けど好きって言葉は幅広いじゃない? 安心と信頼だって好きの範疇になるけど、和希ちゃんの言ってる好きはきっと恋愛のことだよね。恋愛って対等を望むものでしょ? 私は対等は望んでないから……」


 紗夜さんが喋るについれて和希が眉を寄せて首を傾けていく。

 怪訝そうな顔のまま口を開いた。


「……つまり、お兄ちゃんが何かして、そのお返しのために引っ越してきたんですか?」

「そう、なるかな」

「……うちのお兄ちゃんってそんなすごいことしてたんですか?」

「してた」


 深く頷く紗夜さん。

 いや、俺は褒めてただけだからたいしたことはしてない。

 たいしたことをしてたのは紗夜さんだ。

 和希が俺を見上げてきた。


「……何してたの? ヤバいことしてない?」

「……してないって。一緒にご飯食べてちょっと話したくらいだって」


 紗夜さんが大げさに言うから。


「浅海くん。そんなことはないよ。私は君のおかげで救われたんだよ」

「……ちょっと待って、話変わってきたんだけど。お兄ちゃんが騙されてるんじゃなくて、まさかお兄ちゃんの方が話術か何かで騙してたの……?」

「いやそんなことできないって……!」


 本当に紗夜さんが大げさに言うから……!


 和希が目線で紗夜さんを示す。


「じゃあなんでこんな風になってるの?」


 こんな風、と言われてる紗夜さんは真顔で祈るように指を組んでいた。

 ややこしくしないでほしい。


「……事情があるんだよ色々」

「なにその誤魔化し方」


 説明が難しいのだ。小説家であることの話とか、紗夜さんのメンタルの耐久値がマイナスに振り切ってるという話を信じてもらわないといけないこととか。


「ほんとになんなの……? 悪い人ではなさそうだけどさぁ……」


 そうして和希が困ったように腕を組んだ瞬間。

 ぐぅ、と可愛い音が和希のお腹から聞こえてきた。

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