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【完結】俺の幼馴染♂の距離感がバグりすぎているーコタツと蜜柑と、 ――と。 終わりがちょっとズレた冬休み  作者: 新堂凪×TAU


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其之拾弍  1月7日 ジェンガとカシャカシャと ー死中求活ー

 押入れで遊んだ日から、ヤスはなんだか様子がおかしい。

 凄く機嫌がいい時もあれば、何か考え込むようにコタツでぼんやりしている。

 俺は気持ちが沈む。

 数えたくないのも原因だけど、罪悪感があったから。


「ソウ。今日は気分変えて、ボードゲームでもしねえか?」

「そうだね。じゃあ俺は、ジェンガがいいな」

「相変わらず容赦ねえな! いいけどよ」


 ヤスの機嫌が良さそうだったから、俺の得意なジェンガを提案してみた。

 家は和菓子屋で、古い木型がたくさんあったからね。

 積んだりしてよく遊んでたんだよ、ヤスも一緒にね。


「ほれ、お前の番だぞ」

「はいはい、ちなみに勝ったらどうなるの?」

「そうだな。ここは定番の。何でも言うことを聞く、とかでいいんじゃねえか」


 ポロッ。


 あっぶな。ヤスが怖いこと言うから、取ったジェンガ落としちゃったよ。

 取った後でよかった。

 あの時、俺は。

 本当に何もしていないけど。

 でも考えがよぎらなかった訳じゃない。

 だって、よく言うでしょ。

 幽霊は生者の気を吸うって。

 そうすれば、俺は消えずに済むかもしれないって。そう、思ったから。


「そんな罰ゲーム、設定して大丈夫? 俺が勝つよ、たぶん」

「ああん? まだ分かんねえだろうが。今日こそジェンガで、オレはお前に勝つぜ!!」


 ポコッ。ポコッ。ポコッ。


 一回も勝ったことないのに、強気だなあ。

 ヤスはもしかして、して欲しいのかな。

 それとも。

 俺の秘密を守ってくれた、あなたはどう思う?

 ヤスが何考えてるか、聞いていない?

 ああでも、あなたは口がかたいから、もし知っていても言うはずないか。

 あなたにもヤスにも失礼だし、ダメだよね。そういうの。

 ごめんね、変なこと聞いたりして。


「何してもらおうかなあ。迷うなあ」

「そんなにあるのか? やって欲しいこと」

「たくさんある訳じゃないよ。迷ってるだけ。ヤスはもう、決めてあるの?」


 俺が取ったジェンガの穴の隙間から、ヤスの乾いた口もとが見えた。

 今ドキは男子でもリップクリームを使うのも珍しくはないけど、ヤスはそういうタイプじゃない。

 使った方がいいよって言ったけど、どうせすぐ失くすからいいってさ。

 ヤスらしいよね。

 寝癖だって平気で、そのままだしね。

 他にもね、中学の時のジャスをそのまま着てたりするんだよ。

 俺の財布にずっと文句言ってきたくせに、そっちはどうなのさって言いたくなるよね。

 え、ジャスが何か知らないの?

 それはね。

 あれ。

 何だろう、急に。

 胸、が。

 苦しい。


「ソウ!? どうした、大丈夫か!?」

「……っ。何でも。ない、よ」

「何でもなくねえだろ! どっか痛えのか? どこだ!? さすってやる」


 ガシャーン。


 ガラガラガラ。


 ヤスが心配してこっちに飛び込んできたから、俺の右手がジェンガに当たって、全部崩れちゃった。

 もう、勝ちたかったのに。

 何でなんだよ。


「そんなこと、しなくていいよ。だって。

俺は、もう」

「言うな!!! お前は負けたんだから、その先は絶対言うな! 分かったか!!」


 ヤスは俺の両肩を掴んで、言い聞かせるみたいに揺さぶった。

 不機嫌そうな時とは違う、真剣な目つき。

 ずっと一緒にいたけど、ヤスのこんな顔。

 近くで見たのは初めてかもしれないな。

 ほら、剣道やってる時は面を被っているからね。

 目はそれほど大きくないけど、鼻筋が大きくて全体的には整ってる。

 基本的にはよくある顔立ちにも見えるんだけどね。

 癖っ毛で膨らみやすい髪が、なんだかヤスらしい気がする。

 もし似顔絵を描くなら、わざと怒った顔にして、爆発させる感じ。

 伝わるかなあ。


「おい、ソウ聞いてんのか!?」

「……ごめん、聞いてるよ。わかったよ。もう、言わないよ。

でもさ、今のゲームは無効じゃない?」

「……まあ、そうかもな。オレが急に立ち上がったりしたから。悪かったよ」


 へへへ、怒られちゃった。

 ヤスに掴まれたままの肩が熱い。

 そのことに気付いたら、胸の息苦しさも一緒に少しずつほどけていく気がした。

 俺はまた、ヤスに言っちゃいけない一言を言うところだった。

 危なかった。

 幽霊になってからもそんなんじゃ、ここにいる意味がないよね。

 俺が足を引っ張ったら、ヤスが立てなくなっちゃう。

 ただヤスの隣にいるだけじゃ、ダメなんだ。

 俺が本当に、ここにいる。

 そのためには。


「……ねえ、ヤス。前から気になっていたんだけどさ。あのチラシの壁の穴、どうしたの」

「……あれは、だな。素振りしてたら。

間違ってあけちまったんだよ」

「ああ、『六三四の剣』ね」

「そうだよ。じいちゃんが好きだったから。

オレは剣道始めたんだ」


 じいちゃんもばあちゃんも時代劇が好きだったから、よくチャンバラごっこしたんだよね。

 俺はヤスほど熱心じゃなかったけど、楽しかったな。

 今でもヤスが剣道を続けているのは、もしかしたらじいちゃんに見せたいのかもしれないね。


「そっか。一人稽古、たくさんしたんだね」

「……進学校で部員が少ねえのに、経験者のオレが弱かったら恥ずいだろ。

勉強はついてくので精一杯なんだから、これくらいはな」


 ヤスは俺と距離が近いのに気がついたのか、引き技を繰り出す時みたいに後退した。

 速い。

 もう剣道部じゃない俺には、追いつけなかった。

 だからせめてと伸ばした右手が、ヤスの手を掴んでしまった。


『……ソウのばかやろ』


「頑張ってるんだね、ヤスは。えらい、えらい」

「ガキじゃねえんだから、子供扱いすんな!」


 ポコッ。ポコッ。ポコッ。


「ねえ、ヤス。ゲームじゃなくてさ。たまには映画でも見ようよ。どうせなら、スカッとするやつ」

「お、おお。その手があったな! 何にするかな」


 息苦しさはもう、感じなかった。

 ヤスは右手でカシャカシャを操作して、テレビをつけると動画配信サービスに接続した。

 ジャンルから、時代劇に絞ってタイトルを追っていく。

 ヤスはどれにするのかな。

 『水戸黄門』か『剣客商売』か。『暴れん坊将軍』とかかな。

 えっ、カシャカシャって言わないの!? 本当に!?

 リモコンなんて言い方したら、ヤスに笑われちゃうよ。

 コタツの前に座り直したヤスの隣に、俺は肩を寄せるようにして座った。


「何だよ、ソウ。お前がそこにいると狭いじゃねえか」

「俺はこの角度で観たいんだよ。嫌ならヤスが、移動すれば?」

「オレもここで観てえんだよ! まあ、お前は。肘掛けにちょうどいいか」

「へへへ。じゃあ、肘掛けが動いたら。困るもんね」


 ギュッ。


 俺は自然と、繋いでいたままのヤスの手を握った。

 ヤスもふりほどこうとはしなかった。

 俺に体温はないはずだけど、温かかった。


「思ってたより悪くねえな。明日もなんか見ようぜ」

「いいね、明日は何にしようか?」

「オレは『プリズン・ブレイク』が観てえな。長えけどまあいいだろ」


 ギュッ。


「あはは、ヤスらしいね。俺はせっかくだから、違うジャンルでいくつか観たいな。

SFとかミステリーとか。アニメもいいかも」


 ギュギュッ。


「そうだな。じゃあ明日は『インセプション』。その後はそうだな。

『約束のネバーランド』にでもするか」


 ヤスが選んだ時代劇のタイトルは『信長協奏曲』だった。

 戦国時代にタイムスリップしてしまった高校生サブローが、織田信長の身代わりを頼まれる映画だよ。

 入れ替わりものってコメディとしてはありふれているんだけど、笑えるから飽きずに見ていられるんだよね。


 ねえ、ヤス。

 俺もちょっと頑張ってみるよ。

 ヤスに助けてもらうだけの俺じゃ。

 きっとダメだと思うから。

 でもうまくいくかどうかは、まだわからないけどね。

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