異色な飲み会(1)
「絢、駐車料金は割り勘でいいからね!申し訳ないし…」
「いいよいいよ。どうせ600円だし。」
「でも…今度何か奢らせて!」
「遠慮しなくていいって…」
今日は飲み会当日。駅から近いこともあり、1人暮らしをしている高山さんの家で会が開かれることになった。5人は一旦駅で待ち合わせをすることになっている。
サークルが長引いたこともあり、絢が急遽車を出してくれて、なんとか待ち合わせ時間に間に合った。
「でも絢、車出してたら今日は飲めないね。」
「そうだね。でもどうせ飲まないつもりだったし、気にしないで」
「え!?そうなの?絢なら飲むと思ってたのに。」
「あたし明日ゼミの先生の付き添いあるし、遅刻したくないしさ。全く、せっかくの休日だってのに…。」
「え?絢ちゃん今日飲めないの?」
「あ、堂谷君!」
振り返ると、そこには堂谷君が立っていた。はじめましての私は、彼にぺこりとお辞儀をした。なるほど、茶髪のパーマがよく似合う塩顔イケメンだ。確かに雰囲気が高山さんに似てるかも。
「宮瀬さん?だっけ?よろしくね。」
は、はい…と返事をすると、堂谷君も微笑みながらお辞儀をした。こりゃ絢も好きになっちゃうよ。確かにかっこいい…もし付き合ったら美男美女カップルだ!
私が2人の様子を見ながらそんなことを考えていると、ふっと目の前に人影が現れた。
「さ、笹野さん!おはようございます!」
「外ではおはようございますじゃなくていいよ。」
そういって笑った笹野さんだが、少し表情が硬かった。照れ笑いのような表情をしながらもどこか遠くを見ていた。やっぱ緊張してるのかな…
「笹野さんこんばんは、優梨愛の友達の絢です。こっちは高山さんの弟の堂谷君です」
「ああ、高山君の弟さんか。よろしく」
笹野さんがそう挨拶すると、絢と堂谷君はお辞儀をした。時計を見ると、約束時間を過ぎているのに高山さんは来ないままだった。しょうがないので、私たちは彼が来るまでお喋りをしていた。
やっぱり笹野さんはなんとなく輪の外にいた。そりゃ2人も初対面の人が居たら緊張するよね。私は七夕の飲み会での自分のことを思い出した。
「笹野さん、今日もバイト終わりですか?」
「まあね、でも20時までだったからよかったよ。」
「そうなんですね、バイト直後ってきついですね。いっぱいご飯食べてくださいね!」
私がそう言うと、ははは…と笹野さんは笑った。また笑われちゃった…でもちょっと嬉しいからいっか。
「みんなお待たせー!シャワー入ってたら遅くなっちまったよ。」
「遅せーぞ兄ちゃん!」
「オウマイブラザー!すまんすまん。」
高山さんはそう言いながらわしゃわしゃと堂谷君の頭を撫でた。思ってたより全然仲良しだ。私は2人の様子を見てちょっと安心した。
「笹野くーん!バイト入ってる日になってごめんよ。二回連続だな。」
「いや、大丈夫だよ。」
「まあ、とりあえず行くか!」
そう言って高山さんは笹野さんと並んで歩きだした。その後に、絢と堂谷君、私が続いた。やっぱそうなるよね…本当は笹野さんと並んで歩きたいけど、無理な話だ。
こうして、5人でまずはスーパーに買い出しに行った。
「ここは女子たちに任せよう…と言いたいけど、俺たちも後ろからついてくか!」
「当たり前ですよ!あたしと優梨愛に任せっきりにしないでくださいね。」
絢はそう言いながらもカートを引きながら楽しそうだ。絢はすごいな。初対面の高山さんともう仲良くなってる。私なんてそこまで堂谷君と話せてないしそれに…
「絢、あたしおつまみと主食みてくるから、飲み物系お願いしてもいい?」
「うん、ありがと!じゃあお願い。」
そう絢に言われて頷いた。
私は、なんとなく居心地が悪くて一人になりたかったのだ。
「じゃ俺もそっち行こうかな、笹野君も好きなつまみあったよね?3人で行くか!」
え?高山さんの提案に少し驚く。高山さんの顔を見上げると、なぜかドヤ顔でウインクされた。
え?まさか、あたしが笹野さんのこと…
「とりあえずもう1個のカート取りに行きます!」
私は駆け足でカートを取りに行った。ちょっと待って、高山さんやっぱり知ってるのかな?あたしが、笹野さんを好きなこと…やっぱり絢が言ったのかな?なんか恥ずかしいな…。
私は困惑しながらも、カートを引いて二人の居るところへと歩き出した。
「おじゃましまーす!」
堂谷君を先頭に、私たちは高山さんの部屋へ上がらせてもらった。彼の部屋は、1人暮らしの男性の部屋とは思えないほどきれいに掃除されていた。
俺、綺麗好きだからさーっと言って、高山さんは得意げに私たちを案内した。
「さーてと!まずは食べるもの作んないとね!それと、とりあえず今呑む酒以外は冷蔵庫にしまうか!」
「あたしと優梨愛はジュースですよ!」
「え?絢ちゃんはいいけど宮瀬さんには今日は飲ますよ?二回目の飲み会だし、もう甘くは出来ないぞ~」
「え…あの、その…とりあえず何か手伝いましょうか?」
「すげースルーされたんだけど、年下の女の子にスルーされる屈辱…」
「宮瀬さんって、意外と面白いんだね」
堂谷君はそう言いながら私にお酒を渡した。ピーチ味の酎ハイを持たされて、私は思わず膨れ面をした。
「じゃ、じゃあ飲みます…あの、料理するの手伝います!食器とかある場所教えてもらっていいですか?」
「え?あ、ありがと。食器はこの下の棚にあって…」
私はとりあえず高山さんの料理を手伝うことにした。絢はお酒や取り皿をテーブルに並べてくれている。それに、しっかり堂谷君の横をキープして。笹野さんは、さっきからぼーっとテレビを見ていた。
やっぱ、楽しくないのかな、それとも体調が…
「宮瀬さん、餃子焦げちゃうよ!」
「え?あ!すみません…」
「ていうか優梨愛!あんたもこっち来なよ。笹野さんの隣座りな。」
絢が私の傍まで来て小声でそう言ってきた。絢は笹野さんの隣を指さしながら目で行けと言っているけ
ど…
「でも一人でやらせるのは、高山さんに悪いし…」
「いーや、甘いね絢ちゃん。宮瀬さんはあえてここに来たんだよ。」
私と絢がひそひそ声で話していると、いつの間にか高山さんが近くに来てそう言った。
「え!?」
私と絢は同時にそう言った。高山さんは私たちの様子を見て楽しそうだった。
「さて宮瀬さん、そろそろチャーハンが温め終わるころだから、大皿とってもらっていい?」
「は、はい…」
ご飯が出来上がり、全員が揃ったところで高山さんによる“始まりのおんど”がとられた。
「それでは、えー、今日はですね、てんでバラバラなメンバーによる飲み会となりました。でもまあ、そんなメンバーでも何だかんだ言って楽しく飲み明かせるでしょう。巡りあわせに感謝して、乾杯!!」
かんぱーい!っと言って私たちはグラスや缶で乾杯した。
初めて飲むお酒は、正直言ってあまり美味しくはなかった。
―これただのちょっと苦いジュースじゃん―
絢以外の皆さんは、グビグビとお酒を飲んでいる。笹野さんも苦手な割にはよく飲んでいた。あたし大丈夫かな…少し緊張しながらも、私もグイッと苦いジュースを口に入れた。
「兄ちゃんの部屋って、ほんとに何にもないよね。あるのギターくらいじゃない?」
「そんなこともないぞ!テレビの前の棚開けてみ?あそこに色々機材入ってるから。」
え?と言って堂谷君が棚を開けると、何やら見たこともない機材がたくさん出てきた。
「これ、何に使うやつ?」
「これは音響機材!俺、音楽関係の仕事に就こうと思てるから、音響にも興味あってさ、まあ、サークルも一応軽音だし?」
「そうなんだ!知らなかった。」
「笹野君には一回俺の作った音楽聞かせたことあったよね?」
「ああ、うん。」
「へー!すごいですね高山さん。私たちも聞きたいです!」
絢の発言に高山さんは笑いながら言った。
「いや~、俺の音楽聞くのには最低5000円はかかるよ?滅多に聞けないって有名だから。」
「嘘!?じゃあ何で笹野さんには聞かせたんですか?」
絢がさばさばした口調でズバズバと質問していく。絢はこういう時すごいよね…私はスルメイカを噛みながら尊敬のまなざしで絢を見ていた。
「だってそれはその、笹野君が、新作のバイオハザード一緒にするの付き合うって言ってくれたから。」
高山さんが恥ずかしそうに言うと、私たちは思わず吹き出してしまった。
「だって笹野くんくらいしかやってくれる人いなくて…」
そんな高山さんの様子を見ながら、笹野さんは楽しそうに笑っていた。
「逆にする人そんなにいないもんなの?」
そう質問する笹野さんに、高山さんはわざとらしく落胆してみせた。
「そうなんだよー。謎だよねほんと、あんな面白いゲームなのに…てことで今日はみんなでバイオハザードするぞ!」
「ええ!?」
高山さんの提案に、私は思わず今日の中でいちばん大きな声を出してしまった。
「え?嫌なの宮瀬さん」
「だって、あれ、怖いゲームじゃないですか…」
「あんな甘っちょろいゾンビなんて怖くないよ」
高山さんにそう言われても、私は素直にうんと言えなかった。
「優梨愛がんばろうよ!もしあたしらがバイオハザードするって言ったら高山さんの演奏聞けるかもよ?」
「おい!!」
高山さんがツッコんだが、すかさず堂谷君が口を開く
「するって言ったらせめてギター演奏くらいはしてくれるんじゃない?」
「…全く、かわいくねーやつらだなっっ」
苦笑いしながら高山さんがそう言うと、絢と堂谷君はいたずらっぽく笑い合った。
なんか、すごい仲良しだな、絢と堂谷君。私は、自分の情けなさに思わずため息をついた。
今日、笹野さんとまともに話せたのは、最初の方に駅でいたときくらいだ。笹野さんも、何となく元気ないみたいだし、自分でもやんなっちゃうよ…。
「ったく、しゃーないからギター弾いてやるよ!ああそうだ、どうせならイントロクイズするか。有名どころは何曲か耳コピしてるし。」
「さすが!楽しみです」
絢はノリノリで耳を澄ませている。イントロクイズか…ちょっと楽しそうかも…
「じゃあ、第一問!」
ジャンジャン、ジャラジャンジャン、ジャラ…
―あ、これ確かー
私ははいっと言って答えた
「ドロスのワタリドリ」
「宮瀬さん、正解!」
おおーっとみんなに言われて少し恥ずかしくなった。有名どころだからかな、すぐわかっちゃった…
「第二問!」
ジャラ・ジャ・ジャ・ジャ・ジャ・ジャ・ジャジャラ・ジャ・ジャ・ジャ・ジャ・ジャ…
―これあのアニメの…―
「SPYAIRの現状ディストラクション」
「宮瀬さん二連続正解!じゃあ第三問!」
ジャンジャンジャンジャンジャンジャンジャンジャンジャンジャンジャンジャン・ジャラジャ・ジャララ…
「BUMPのray」
「何ですぐわかるの!宮瀬さんに全部取られちゃいそう。」
堂谷君そうに言われて、私はごめんごめんと言って下を向く。みんなでしてるんだから自分ばっか答えちゃダメか…でもなんであたしこんなに分かるんだろ…
「みんな宮瀬さんに負けるな!第四問!」
ジャン・ジャン・ジャラララジャン・ジャン・ジャラララ…
―これはエストの…―
笹野さんの方を見ると、彼も分かったようで、ずっと手を挙げて言った。
「エストのwreak」
「お!!笹野君正解!!ようやく宮瀬さんの独り相撲が終わったね。まあ、俺の弾ける耳コピコレクションはこれくらいで終わらすけど。」
「うそ!?俺と絢ちゃん一問も正解できなかったのに。」
「まあ、今回は宮瀬さんが大活躍だったもんね。宮瀬さん、音楽関係で何かやってたの?」
「一応、ピアノは6年間してました。だから、リズム感あったり音程の聞き分けはまだできる方で。まあ絶対音感とかは持ってないと思うんですけど…」
ピアノってそういう力もつけられるものなのかな…私は話しながらふとそう思った。
「へー、ピアノできるんだ。そしたらコードとかも分かるんじゃない?宮瀬さんせっかくだからギター弾いてみる?」
「え!?無理ですよ!できないできない。」
「そんなことないって!あ、笹野君もギター弾けるし、俺は言葉で教えるから、笹野君に指の位置とか技術面のこと教えてもらえばいいよ。」
「俺、高山君みたいに耳コピもできないし、第一上手くないよ。」
「いいからいいから、絢ちゃん、このギター宮瀬さんまで回して。」
高山さんに言われて、絢が私にギターを渡した。ええ、嘘でしょ…私はドキドキしながらギターを持った。
「そしたら最初はコードを覚えようか。まずは簡単なGコードだな。宮瀬さん、たぶん小指の押さえる力とかまだないと思うし、1弦を薬指で押さえてみて…そうそう。
で、中指と人差し指はこんな感じで置いてみて。」
「ええっと…こことここか…」
言われたとおりに指を置き、ピックを持った右手で弦を恐る恐る撫でてみる。すると案の定いい音とは程遠い音が奏でられた。その音は、突っ張ったような、まるで響きのない音だった。
「はははは、初心者あるあるだね。」
「やっぱり難しいですよ!」
「宮瀬さん、指が寝てるから弦にうまく振動が伝わらないんだよ。もっと指先を立ててフレットの近くを押さえて…」
笹野さんが私の背後に回って指の位置を直してくれる。え…ちょ、ちょっと待って、近いくない?それに指…
私はドキドキしてしまってただひたすらギターの弦を見つめるしかなかった。後ろを振り返るなんてできるわけない。だって真後ろに笹野さんがいるんだもん…
「よし、弾いてみて」
「はい」
ジャラーン…さっきよりも、まだ響きのある通った音が出た。おおおーっとみんなに言われて少し照れくさくなった。
「宮瀬さんできたじゃん!ギターって意外と弾きやすいでしょ?」
「いや全然難しいです!ピアノとはまた違う感覚で弾くものなんですね。同じ和音を持った楽器なのに…」
高山さんに聞かれて、私は改めてギターの難しさを感じた。思ったよりも奥が深いし、上達するのに時間がかかりそうだ。
「まあ、ギターとピアノは違うよね。俺は逆にピアノの方が無理だわ。ふつーに一本の指で引いちゃうもん」
「ええ!?」
私と笹野さんは同じタイミングでリアクションをとってしまった。2人の声が被ってしまって、高山さんは爆笑した。
この感じ、何か久しぶりだな。バイトに入りたての頃はこんな感じでよく三人でしゃべってたっけ、懐かしいな…
「じゃあ、ここで笹野君のお手本ターイム!笹野君もせっかく弾けるんだからちょっと弾いてみてよ。」
「ええ、嫌だよ。」
「何でだよ笹野君!宮瀬さんだって聞きたがってるぞ!」
「えっとあの…すみませんちょっと聞きたいです。」
「いや謝らなくていんだよ宮瀬さん!」
ははは…と笑いながら、笹野さんはさりげなくギターを持った。そして、何も言わずに静かに弾き始めた。
「…普通にうまいですね!」
堂谷君が素直な感想を述べた。いくつかのコードを組み合わせて曲っぽく演奏してくれたのだが、聞きやすくて響きのある音が奏でられていた。私の音と比べたら違いがはっきりと分かった。
「高山さんも笹野さんもすごいですね!!あたしも練習したくなりました!」
絢は拍手をしながらそう言った。いいね~また遊びに来なよ、と言って高山さんはギターをもとの位置に置いた。今の時間、すごく楽しかったな。もうちょっとこの時間を楽しみたかった…
ギターをしまう高山さんを見ながら、私は少し残念な気持ちになった。
「さーてと!みなさんお待ちかねのバイオハザードのお時間にしましょうか!」
「ええええ待ってませんよ!」
絢がすかさずツッコむ。私もそうだそうだーと小さく拳を挙げた。
「うるさいな女子ども!!!いいから早くこのくじ回せ!!」
そう言って高山さんは白い紙を小さく切って作ったくじをみんなに回した。この人いつの間に作ったの…私は驚きながらもくじを笹野さんに回した。
「早くこの時間終わんないかなー」
思わず本音がぽろっと出てしまった私の頭を、高山さんが軽くはたいた。




