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新年早々のサプライズ

もーいーくつねーるーとー、おーしょーおーがーつー…


途中まで口ずさんで、私はため息をついた。


昔は、毎年お正月を楽しみにしてたっけ。小さい頃は父方の家にもいったりしてさ。


でも今は、そういうこともすっかりなくなり、正月が憂鬱で仕方がない。


今日は1月2日。家には、2人の兄が帰って来ている。


相変わらず、母は兄たちが帰ってくると嬉しそうだった。それは、とても素敵なことだ。ほんとに、素敵なこと。


でも、私だけがこの空間では異端者だ。


兄たちにびくびくしながら、どうしていればいいのか分からない私は、相変わらず何も喋れなくて、


何か言おうとしても変に硬くなって敬語になったりよそよそしくなっちゃって、


それが余計に兄たちの癪に触って怒られて、母を呆れさせて困らせて…。


ほんとは私にだって思ってること、感じてることはたくさんある。でも、それを口に出してまた自分を否定されるのが怖い。


私が言ったことで、今の母の幸せや、兄たちの幸せを傷つけるのが怖い。


今さら、歪みきった家族の人間関係を直そうとしてもしょうがないでしょ?どう頑張ったって父がこの家に帰ることはないのがいい例だ。


でもその歪みの中でもこの人たちは幸せそうなんだもん。それでいいんじゃない?


あたしだけが違和感を感じてて、あたしだけが不幸せで寂しいと思っている。


それでいいんだよきっと。私はひとり。ひとりでいるしかない…。


私は暗闇の中、自分の部屋でひとり膝を抱えていた。


自分にとっての幸せと、家族にとっての幸せは違う。


本当は経済的な面で、生活のためにも母の負担を減らすためにも父に戻ってきてほしい。


でも、今さら無理な話だ。あの人は家庭より自分の幸せとしての仕事を選んだのだから。


本当は兄たちに我儘じゃなくなってほしい。母を守るためにも、みんなが家を居場所だと思えるようになるためにも。


でも、今さらあの2人を変えるなんて無理な話だ。それを母が望んでいないのだし、私もこれ以上頑張れない。


本当は母に素直になってほしい。無理しないでほしい。もっと頼って欲しい。支え合うのが家族でしょ?


でも、それが母親としてのあの人の生き方を否定することになるのなら、無理することで自分を奮い立たせているのなら、私はなにもできないのかもしれない。


私はどうしたらいいの?どうしていれば家にいられるの?家族でいられるの?どうすれば…


自分の中に黒い感情だけが流れる。悪い面に敏感になりすぎた偏った価値観が、想いが膨らんでいく。


嫌だよこんなの。嫌だ嫌だ、逃げ出したい…


有紀も、一人きりの正月を過ごしているのかな。あの子も、寂しい思いをしているのかな?有紀、どうしてるだろ…


“あきー”


“んー?”


LINEを送ったらすぐに既読が付いた。ちょっとびっくりしてしまったけど嬉しかった。


“あのさー”


“元気―?”


“おう!元気だぞ笑”


笑われちゃった…やっぱ有紀は有紀だな。私は思わず口元を緩ませた。続けてLINEを送る。


“明日さー、もし暇なら”


“一緒に初詣行かない?”


またすぐに既読が付く。いきなりすぎるよねごめん有紀…


“行く!”


え、うそ?私は思わず口に出してしまった。いいの?こんな急なのに?


“わーいありがと!”


私は嬉しくてすぐに返信した。


“こちらこそ~”



次の日の8時過ぎ、私と有紀は市内でいちばん大きい神社で待ち合わせした。


やっぱ初詣はちゃんとしたとこに行きたいよね、ということになったのだ。


時計を見ていた私は、ゆりあーっと言う声に顔を上げた。


「お待たせ!それとあけおめ!」


「こちらこそあけましておめでとう!今年もよろしくね!」


久しぶりに会ったけど、有紀は元気そうでよかった。有紀に会ったら、家での寂しかったこととかもすっと飛んで行った。


「まずお賽銭入れに行こっか!あ、正しい作法分かる?」


「おう。二礼二拍手一礼だろ?」


「そうなんだけど、どのタイミングでお賽銭入れたり鈴鳴らすんだっけ?」


「え、えっと、…そ、そんなの誠意が込もってたらなんでもいいんだよ!」


「え?そうなの?」


「あーもー!めんどくさいやつだなお前は!」


「えーなんか怒られた」


去年は、本当にこの子に支えられた。


私が大学で孤立せずに済んだのも、体調を回復させられたのも、有紀のおかげだ。


本当に感謝でしかない。今年は、私も有紀のためになにかできたらいいな…


「よし!優梨愛はお願い事もう決めたのか?うちはもう決めたぞ!」


「え?あ、そういえばまだだったな。」


「おい!早く決めろよ!混んでくる前に済ませようぜ。」


「う、うんそうだね。」


私は歩きながら考えて、結局これにした。


―今年は大切なものを守れますように。色んなものとちゃんと向き合えるだけの強さを持てますようにー


初詣の帰り道、有紀の提案でファミレスに寄っていくことにした。


どうせ家に帰ってもね…という点でお互い共通していたのだ。


「あのさ、うち、本当は嬉しかったんだ。誘ってくれたの。ありがとね。」


「そっか!ならよかったよ。」


「てことでなんかおごらせろ」


「やだよ普通に頼もう!」


「全く、つまんねーやつだなお前は!ま、とりあえずなんか頼むか!」


「そうだね!あたし朝ごはん食べてないんだよね、おなかすいちゃった。」


うちもだよーっと言いながら有紀もメニュー表を眺めている。そっか、有紀もか…


有紀とはいろんな面で共通しているところがある。だからこそ何となくお互いが考えていることが分かるのかもしれない。


ほんとに、いい友達に出会えたな…私はしみじみそう思った。2人がオーダーを済ませたところで、有紀が口を開いた。


「で、笹野とはどうだったんだよ。」


「え、なんで呼び捨て!?なんでその話!?」


「お前、うちに電話してきておいてなんも言わねーんだもん。ずっと気になってたんだぞ!!」


そういえば晦日の夜に有紀にアドバイスしてもらったんだった。お礼も含めて話さなきゃいけないよね…。


「そ、そっか…そうだよね。うーんと…。とりあえず笑顔になってもらえたよ。それが嬉しかったかな。それから、仲良くなりたいですって言ったら、俺もって、言ってもらえた。」


「きゃあーー!」


「ちょっと!新年早々うるさいな!」


「仲良くなりたいってよく言えたな!頑張ったなお前。」


「なんか…タイミングっていうか言いたいなって思った瞬間に言ったよね。」


「くーっ甘いひと時だったわけですな。」


「ちょっと何それやめてよ。」


「でもお前、よくここまで好きになったよな笹野さんのこと。憧れが恋になって、それがここまで深くなってさ。」


「んー、確かにそうだよね。」


有紀に言われて改めて考えてみた。


あたしなんでここまで笹野さんのこと好きなんだろ…。私は少しずつ、自分の想いを口に出してみた。


「最初は、笹野さんのこと、ただ単にかっこいい人だなって思ってたんだ。切れ長の茶色い目とか、背が高いところとか。あとクールなところとか。


でも、バイト先で教育係になってもらって、ちゃんと目を見ながら真っ直ぐに話して下さったり、さりげなく優しくして下さったり、それを奢らず当然のことのようにする姿を見て、すごい人だなって憧れるようになって。


それからバイトで一緒になるごとにつれ仲良くなっていって、あんまり表情は変わらない人だけど、話しかけてみたら楽しそうにしてくれて、屈託のない笑顔を見せてくれて。


いつの間にか笹野さんが笑顔になってくれることがすっごく嬉しくて幸せで、もっと一緒にいられたらなって思うようになって。」


「溢れんばかりの笹野愛だな。」


「っっっ!!からかってるの!?」


「なわけねーだろ!素敵なことだなーって思っただけだよ。」


「ほんとかな…」


私が眉をひそめながらそう言ったところに注文した品が届いた。


さて食うかー!!有紀は1人満足そうな顔をしていた。まあ、有紀が楽しいならそれでいっか!私は、頼んだチキンドリアをフォークでほぐしだながらふっと笑った。


それからぐだぐだと色んな話をした。有紀の彼氏さんのこともちょっと聞いた。


どうやら彼氏さんは有紀の尻に敷かれるタイプの男らしい。ちょっと会ってみたいな、というか2人でいるところが見たいかな…


そんなことを考えていると、突然LINEの通知音が鳴った。見てみると、勝手にトークが組まれていた。


そのメンバーは、北川絢、宮瀬優梨愛、堂谷裕大、高山和樹、笹野諒人


「え!?」


私は思わず口に出してしまった。どしたどした?と言って有紀が携帯を覗き込む。


すげーメンバだなっと言って有紀は楽しそうに笑った。また通知音が鳴って、絢からメッセージが来た。


“こんにちは!北川絢です。このメンバーで飲み会がしたいと思い皆さんをグループにお誘いしました”


「いやいやいやどうして!?何でこうなったの!?」


私が1人でツッコンでいると、絢から電話がかかってきた。


おもしれーからスピーカーにしてっと有紀から言われたのでスピーカーにして電話に出た。


「もしもし絢?ほんとにちょっとどうなってるの!びっくりしちゃったよ!」


「優梨愛が、さすが絢!大好き素敵アイラブユーだってさ」


「え?優梨愛と有紀一緒にいるんだ。もう2人まとめて聞いてよ!ほんとに色々あってさ…」


絢の話によると、クリスマスに堂谷君の家に遊びに行った絢が、家にあった家族写真に高山さんが映っているのを見つけたらしい。


何で知ってるの?と聞かれて、絢が高山さんは優梨愛っていう友達のバイト先の先輩だからだと説明すると、堂谷君も安心して、高山さんのことを話してくれたそうだ。


その話によると、高山さんと堂谷君は、異父兄弟らしい。


「あたし、それ聞いたときほんとにびっくりしちゃって。


優梨愛の飲み会の時の写真で見たときにはそうは思わなかったけど家族写真の中の高山さんは何となく堂谷君と似てて、2人して塩顔イケメンだし。」


「確かに驚くよね…そんなことってあるんだ。」


「何か、高山さん、今は家族と離れて暮らしてるらしくて、それで堂谷君もあんまりお兄さん?に会えなくて寂しいんだって。


2人で会うのも何となく気まずいらしいから、どうせなら大人数で楽しく会おうってことで、あたしと堂谷君、高山さんだけじゃなくて、笹野さんと優梨愛も誘おうってなったわけ!


同じバイト先なんだし、気まずさとかないでしょ?」


「いや、確かにそうなんだけど、やっぱり緊張するっていうか、その…」


「なに言ってるの!これはチャンスだよ!もっと仲良くならなくちゃ!」


絢にびしっとそう言われて、私は素直にうんと言うしかなかった。でも、プライベートで集まって飲むなんて、そんなの緊張しないわけないじゃん…それに、なんというかその…


「てことで、ちゃんと空いてる日教えてね!グループの中で言ってくれればいいから。


ちなみに笹野さんにはもう聞いてあるって高山さんが言ってたよ!9日と13日が都合いいらしい。


優梨愛も確認よろしく!」


「え?あ、うん分かった。」


「じゃよろしく!有紀、優梨愛のこと勇気づけてあげてね!」


「おう!任せとけ。」


「うん!じゃ連絡待ってるね。」


そう言って絢は電話を切ってしまった。はあ…なんか、もう、なんなんだ…


「恋するゆりちゃんはもやもや中ですか?」


「べ、別にそんなわけじゃ…」


「まあ、お前はなんにせよ笹野さんとの2人の時間を大切にすればいいって。本当はそうしたいんだろ?」


「う、うん…まあ…」


「だったらそうすればいい。飲み会に行くからって周りに合わせたり気遣わなくていいんじゃねーの?


せっかく二人の距離が縮まってきたところなのにって思うなら、飲み会でもずっと笹野さんの側にいればいいだけの話だし。」


「そ、そうだね。でも、普通に飲み会は嬉しいことだしね!高山さんもきっと盛り上げてくれるだろうしそれに…」


「高山さんと笹野さんが仲良くしてても焼きもちやくんじゃねーぞ?」


「ちょっともう、うるさいなー!」


有紀はいつものようにがははと笑った。もう、この子はほんとに…


私は、顔では膨れ面してるけど、心の中では素直に感謝していた。



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