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ほんとの友達なら

有紀が帰った後、しばらく私は保健室で一人きりになった。


時計の秒針の音だけが聞こえる。私は静かに目を閉じた。


有紀がくれた優しさの一つ一つが脳裏に浮かぶ。あたしにはあんな風に思ってくれる友達がいる。ずっとそばにいてくれる友達がいる。それだけで、もう十分だ。私は心の中でそう呟いた。


私は間違っていた。ほんとにバカだった、情けなるくらい。だから、もう同じ間違いはしないでおこう。本当に大切なものまで見落とさないように、失わないように。少し、強くならないとな…。


そんなことを思っていると、がラララっという音がしてドアが開いた。視線を向けると、ちょうど藤野先生が気分はどう?っと声をかけながら入ってくるところだった。


「はい。なんとか大丈夫です。」


「そう、良かったわ。まだ無理しなくていいから、ゆっくり休んでって頂戴ね。」


先生にそう言われ、私もはいと返事をした。


「もう12月になるものねー、すっかり冷え込んできたわ。」


先生に言われて、はあっと返事をした。


あ、シフト表取りに行かなくちゃ…


私はまだバイト先からシフト表をもらっていないことを思い出した。


「でも先生、私バイト先に行かなきゃいけないので失礼します。色々とありがとうございました。」


「え?あらそうなの?バイトには入らない方がいいと思いますが…」


「いえ、バイトは1週間ほど入ってないんです。ただそれだと来月になってしまうので、シフト表だけ取りに行こうかと。」


「そうなのね。安心しました。それじゃあ気をつけて行って来て下さいね。」


私は先生にお辞儀をして保健室をでた。ふう、なんとか歩ける。もう大丈夫。もう大丈夫。


「優梨愛?もう動いて大丈夫なの?」


声をかけられて顔を上げると、有紀と一緒に、絢と夢美が立っていた。みんな…私は驚いて固まった。一番最初に口を開いたのは絢だった。


「あたし、やっぱり優梨愛と一緒に居たい。また4人で過ごしたいから。」


絢がはっきりとした口調で言った。私はただ黙って、うんっと頷いた。


「優梨愛…」


夢美は泣きそうになりながら、私に歩み寄って手を握った。そして夢美は、ひっく、ひっく…と喉を鳴らしながら泣き始めた。


それを見たら、一気に今までのことなんてどうでもよくなった。


夢美にされて悲しかったことや、傷ついたことも、もうどうでもいい。お互い様だし、もう過ぎたことだ。私は夢美の頭をなでてから、静かに言った。


「みんな、来てくれてありがとう。あのね、私も、やっぱりみんなといたい。この気持ちに嘘はないよ。」


そこで一旦言葉を止めた。私は深呼吸してから言った。


「夏休みに、家族のことや、元カレとのことで、辛いことがたくさんあった。それで、精神面でも体調面でもボロボロになちゃって…。


そのせいでみんなにも迷惑沢山かけちゃったね。ほんとに、ごめんなさい。」


私が頭を下げると、夢美と絢は首を何も言わずに首を振った。有紀は、私のことをただじっと見つめてくれていた。それに支えられ、私はまた口を開いた。


「みんなから離れてみて、みんなの大切さがほんとによくわかった。もう、離れたくなんかないって思った。


そのために、あたしもみんなに言わなくちゃいけないこともあるし、強くならなきゃいけないと思う。


それでも、もしかしたらみんなに迷惑かけちゃうかもしれない。


こんなあたしでも、みんなと一緒にいさせてもらっていいかな?」


「ねえ。」


私は言い終わると同時に絢が口を開いた。


「優梨愛、あんたそんなふうに思ってたの?ほんと、遠慮しすぎなんだから。」


絢にサバサバした口調で言われて、ええ?と動揺してしまった。


「だからさ、気を遣い過ぎて離れるくらいなら迷惑かけられたほうがましってこと。それだけ。分かった?」


美人な絢からほっぺたを両サイドからつねられながらそう言われて、思わず照れながらうんっと言ってしまった。


「ならオッケー!よかった。」


絢のとびきりスマイルに、私も思わず笑顔になった。


「それに、ほんとの友達なら、辛いときは辛いって言ってほしいし、寂しいなら寂しいってちゃんと言ってほしい。どんなときでもそばにいたい。あたしら、優梨愛が大好きだから。」


絢のその言葉に、思わず目の前が滲んだ。ありがとう、ほんとに、ほんとに!!


「さーってと、んじゃ久しぶりにみんなでぱーっと遊びに行きますか!」


有紀の提案にみんな賛成した。


「あでも、その前にバイトのシフト表もらいに行ってもいいかな?」


私がそう言うと、みんながほうっと声を上げた。


「では噂の笹野さんに会いに行きますか。」


「あらいいこと言いますね絢さん。では笹野さん拝みに行きましょうかみなさん。」


「ちょ、ちょっと待ってみんな!しかも今日は笹野さんいないし。」


「なんだ~つまんないの!」


「全くだね夢美さん。」


「とにかく優梨愛のバイト先に行きますよみなさん。あたしの車乗りな!」


絢がカ―キ―を指で回しながらそ言うので、みんなでついて行った。


とんっと後ろから背中を押されて振り返ると有紀が笑ていた。


有紀、みんなありがとう。私は微笑みながらそう小さくささやいた。



「いらっしゃいま…ゆりちゃん!おはようございます。」


「岡田さん、おはようございます。今月のシフト表取りに来ました」


「そっかそっか!今シフト表取りに行くからね。あそうだ!せっかくなら店でゆっくりしていきなよ!


うちお酒以外でも出せるし、お友達が一緒ならなおさらさ!社割するからゆっくりしてって。」


「いいんですか!?ありがとうございます!」


私はお礼を言ってみんなを席に案内した。


「今の人、すごいいい人じゃない?夢美びっくりしちゃった!」


「ほんとそれだよな!しかも美人!」


「だよね―!あたしもそう思う」


みんなで岡田さんのことを褒めながら席に着いた。


それにしても、みんな揃ってどこかに出かけたのなんて久しぶりだな。私がそんなことを思っている間にも、みんなからの質問が次々と飛んできた。


「ねえ優梨愛!このノンアルカクテルってほんとにお酒入ってないの?」


「うん。当たり前じゃん!」


「ねえ優梨愛、このシンデレラっての飲んだら王子様みたいな人と結婚できるかな?」


「いや知らないよ!!」


「夢美お酒が飲みたいなー。」


「いや駄目です!!」


みんながやっとオーダーをし終わって時には、私はもうクタクタになっていた。


そしてこの時間帯はオープンしたばかりで人が少なかったこともあり、みんなでおしゃべりしているとあっという間にドリンクが運ばれてきた。


「お待たせしました。あ、それとゆりちゃん、これシフト表ね!」


岡田さんにシフト表を渡されて、私はお礼を言った。


「よし、じゃあまずアリス頼んだ人…」


「さ―て、宮瀬のシフト表でも見ますか!!」


「え?ちょ、なんでみんなに見せなきゃいけないの!?」


「何でって、決まってんじゃん!いいから貸して!」


絢にシフト表を取られてしまう。あたしまだ見てないのに…


「…やべえ…これ奇跡だ…。」


「これはほんと…すごいね。」


「なになに?めっちゃ気になるんだけど!」


あたしは耐えきれなくなって絢の手からシフト表をとって見てみた。


「なんだ。普通のシフトじゃん。12回は丁度いい回数だしなにが…あ…。」


私は思わず目を丸くした。


「笹野さんと、クリスマスと大晦日シフト被ってる。しかも笹野さんその2日しかシフト入ってないのに…。」


「ふううう!!」


みんながよくわからない奇声を発する。全く、これだから女子は…


「これは奇跡?偶然?いや、運命でしょ!!」


「ほんとそうだよね!とにかくおめでとう優梨愛。」


「ちょ、ちょっと、みんないったん落ち着いて!」


私は盛り上がるみんなにくぎを刺した。


「っていうか、これはチャンスだよ。こんなチャンス滅多にないって。しかも被った日がどっちも特別な日だからね…。」


「そうなんだよねー。ほんとに貴重な2日間って感じ。」


「頑張りなよ優梨愛。後悔しないようにってあたしとも約束したでしょ?それに…」


絢は私の手を握った。


「いまの優梨愛には隣で支えてくれる人が必要な気がする。」


絢の言葉にみんなが頷いた。


「そうだね。辛い時こそ、そっと寄り添ってくれる人がいてほしいよね。」


「ほんとそうだよ。甘えさせてくれる人っていうかさ。」


「だよね…てことで!ちゃんと頑張りなよ優梨愛!うちらはお前の味方だぞ!」


「ちょ、ちょっと待ってよみんな!話が早すぎるって!それに…」


私はいったんそこでため息をついた。


「あたしまだ、元カレとまだ別れきれてないんだよね…てか夏休みに一回会いに来られてさ、それで色々あって…。」


そうだったんだ…みんなが一瞬のうちに静かになってしまって、私は慌てて口を開いた。


「と、とにかく、あたしの好きな人は笹野さんだし、あたし自身が弱いところもあるから、ちゃんとしなきゃね!


すぐには出来ないけど、いつかはしなきゃって思ってる。」


「そっか…いつでも相談に乗ってね優梨愛!夢美たちがついてるんだから!」


シャーリーテンプルを飲みながらそう言った。


「うん。ありがと。私も頑張らなきゃ!


あ、もう8時じゃん。みんなもそろそろ帰んなきゃだよね!今日はほんとにありがとう!」


私は改めてみんなにお礼を言った。いいのいいのっとみんなは笑いながら言ってくれた。店の外に出ると、12月の鋭い冷たさを持った風が私たちに吹きつけた。


「おおさみー。そろそろ帰るとすっか!」


「そうだね。みんなバイバイ!また明日」


みんなで手を振り合って、解散した。


それぞれに別々の方向に歩き始めた。私の胸は、少し痛んでいた。


今から、またあの冷たい家に帰るのか…ママに今日はなんて言われるのかな…うまくママと話せるかな…怖いな、憂鬱だな…どうしよう…


「おい!お前はこっち!」


え?っと思いながら振り返ると、そこには有紀が立っていた。


「お前どうせ家に帰りにくいんだろ?また体調崩したらどうすんだ。今日くらいうちに止まってけ!


洋服とか洗面用具も貸すから。あ、歯ブラシは貸せねえけど優梨愛持ってんだろ?」


「まあ、持ってるけど…でも、申し訳ないよ…迷惑かかるし。」


「うるせー!いいから行くぞ!」


ああちょっと…有紀に手をグイグイ引っ張られて、私は仕方なく有紀について行くことにした。


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