恥のしるべ
結局先輩はどこまでも面倒な人だった。先日のだましうちにはさすがに閉口した。呆れた旨を直接伝えても、まあまあ直接体験したほうが早いだろうと思ってね、なんて言って飄々としている。本当に図太い人だと思う。
そのだましうちというのはその言葉の響きほどの残酷さを持ってはおらず、それどころか自分の知識不足と判断の誤りを指摘するもの、なのだがいかんせんやり方が気に食わないので自分はだましうちと呼んで敗北感を必死に隠している。
自分と先輩はよく持参した小説を批評し合ったりする。だましうち以前は有意義な批評ができていると思っていたのだが、実際はできていなかった。
自分は先輩が持ってきた小説を読んで珍しく酷評した。しかし、その小説というのが超有名な作家が書いた小説であって、先輩が書いたものではなかったのだ。
自分の批評を最後まで聞いた先輩はまず最初に大笑いして、その後はもうなんでも言いたい放題に言ってくれた。自分の批評に対する、酷評だった。自分は恥ずかしくなって消え入りそうだった。先輩はとどめとばかり、君は価値が分からないやつだな、と言った。むっとしながら何も言えず、どうしてこんな仕打ちを受けねばならないのかと思った。
なによりも、と先輩の話はまだ続いていた、どうして作者の名前で批評の内容を変える、そう先輩は言った。
何、顔色を窺いながら批評しているんだか。
自分はすっかり打ちのめされてしまったが、先輩は追い討ちをかけてくる。
ちなみに今まで君に見せてきた小説、全部作家たちの小説だからね。
そこまでして先輩は何が言いたかったのか、それは自分の恥の量とぴったり同じだ。その恥をしるべに自分はより正確な見る目を養っていくことだろう。先輩の小説を読むのは、それからだ。




