祖母
文化祭の喧騒から少し距離を置くこの美術室で僕は受付をしている。見学人は少なく、特にすることもないので座っているだけでいい。隣に座る友人は既に眠りについており、僕も欠伸をかみ殺しつつ寝てしまおうかと考える。
その時、女生徒とその祖母らしき老婆の二人組が美術室に入ってきた。僕は黙礼して室内に促す。女生徒はすたすたとそれに従う。老婆は女生徒の分も含めて黙礼を返す。
僕は二人組を見送ってから再び欠伸をかみ殺す作業に戻る。
「えー、違うよお」
さきほどの女生徒の声だ。二人組は入り口付近にある版画を見ている。大方女生徒が老婆に版画の説明でもしているのだろうが、僕は声を聞いてすっかり目が覚めてしまった。別段眠りにつくのを邪魔されて苛立ったわけでも女生徒の妙に引っかかるような特徴的な声になんらかの嫌悪感を覚えたわけでもない。
僕は恐怖を覚えたのだ。おそらく祖母と思われる人物に違うと否定の語を発するということに。それは僕が祖母と会わなくなって電話に出ることもやめてしまった、あるいは幼い頃から祖母とどう関わればよいのか分からなかったことを鮮明に記憶しているからかもしれない。僕は女生徒の発言にやたらと気を揉んでいた。
しかし、老婆は女生徒の言うことをよく聞いている。事態が説得力となり僕を納得させる。考えるまでもなく当然のことだ。さっきまでの恐怖はなんだったのだろうか。何を心配することがあったのだろうか。まるで自分のことのように。
そこに至り、僕は自分の祖母への苦手意識と不自然からくる恐怖を十数年越しに認識した。
あの二人組のような会話が僕にできるとはどうしても思えなかった。漠然ともう二度と会わないと、そんな予感がした。




