堂々、超然、颯爽、個室にて
僕はトイレで用を足している。狭い個室にある種の居心地のよさを感じつつ全行程を終え、個室から出ようとした段になったとき誰かがトイレに入ってきた。普段ならありえないことなのだが、何故か僕は外に出ることを躊躇した。
そのとき僕は戸惑った。というのも、外へ出るのに躊躇う理由など一つたりとも無いはずだからだ。いつもどおり堂々と外へ出て、ジャバジャバと音を立てつつ超然と手を洗い、颯爽とその場を後にすればいいだけだ。
それができない。その理由を考えた結果、外にいる人間が自分の苦手な体育会系の人間であると決め打っていることに気づいた。しかも、自分はそのことに絶対的な自信を持っている。トイレに入ってきたとき扉が立てた音。わずかな時間であるが聞こえてきた歩いたときの足音とそのリズム。そして気配。これらを総合して僕は体育会系だと判断した。
しかし、このまま体育会系が出て行くまで個室に潜伏し続けた場合、僕の堂々と超然と颯爽は嘘になってしまう。どうせ体育会系は僕のことなど気にしない。体育会系なんて見たくもないが、失いかけた僕の堂々と超然と颯爽の輝きを取り戻すために僕は個室から出る。君の試合はそりゃあスポーツやってるときなんだろうけど、僕の試合は今であってやることといえば外へ出るだけである。
そうして僕が外へ出たとき、体育会系はまもなく外へ出ようとしていた。その後姿、長身にジャージ。
バタン。
乱暴に閉じられる扉。その音がつまらなさを僕の元へと運んでくる。
体育会系が出て行く前に僕は個室を出るべきだった。僕の堂々と超然と颯爽は、たとえ体育会系が見ていなかったとしても彼の前で行うべきだった。
言い得ぬ敗北感。
僕は負けたのだ。




