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風邪っぴきの母

 父が持ち帰った風邪は瞬く間に家族全員に移ってしまった。家族の中で唯一風邪が治りかけていた父が家事をすることになったのだが、今まで母に任せきりだった家事が急に出来るはずもなく洗面台に汚れた皿がたまり、籠には洗濯するはずの衣類がたまり、ゴミ箱には鼻水をかんだちり紙がたまった。

 普段のずさんさからこのような事態になることは分かりきっていただろうに、母はため息をついては吐き出せないものを飲み込んで代わりにまたため息をついた。

 僕は風邪には体が引く方と心が引く方で二種類あると思う。母は今、体の方の風邪も心の方の風邪も引いているが、心の方はずっと前から引いてるんじゃないかと思う。心が風邪を引いていると体がそれに引っ張られて体も風邪になるような気がする。だから、母はすぐに風邪を引くのだ。

 父の良心からくるありがた迷惑に振り回されて疲れた母は今日も布団で寝ながら咳をしている。そうやって母が寝込んでいると、母くらい生真面目な人間が休むなら自分も休める、と時間までもが寝込んでしまったように感じられる。時間の感覚を失って食事時や就寝時間を錯覚する。早まり、遅れる。母は時計より習慣で時間の感覚を我が家にもたらしていた。

 母が間接が痛いと訴えていたので一時はインフルエンザかと心配していたが、ただの風邪だったようですぐに熱は引き家事に復帰、寝ていた時間は方々の店を回っては少しでも安いものを買う時間へと戻った。

 でも心の方の風邪が治る見込みは無く、風邪の間は鳴りを潜めていた父への文句も体と共に元気になったようで、風邪の間飲み込んできた分がこぼれた。母は、自分の愚痴が心の風邪を悪化させていることにいつになったら気付くのだろう。気付いていなければならないことでもない気がしたし、母は気付いた上でああなのかもしれないと思った。

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