表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/24

鴨と男

 男は毎晩の悪夢に辟易していた。悪夢を見るようになったのはこの仕事に就いてからまもなくのことだったと記憶している。

 男は飼育員をしており鴨に強制給餌を行うのだが、悪夢では立場が変わって自分が強制給餌をされる側になっていた。鴨が人間である自分に強制給餌を行うのだ。自分が鴨にするように鉄パイプを口に入れられ、蒸したトウモロコシが流し込まれる。

 鴨は自身が抗うことのできない現実の復讐を悪夢という形で果たす。男は悪夢に対する意趣返しを現実で行う。すると鴨はすかさず反撃してくる。悪循環だった。

 男は鴨の飼育員をやめることにした。次の勤務が最後になるので十二分に仕返しをして逃げてやろうと決め込んでいた。男は実際にそうして万事うまくいったように思えた。

 しかし、悪夢は終わらなかった。屠殺を迎えずに飼育員をやめてしまったので、悪夢の中の鴨が頃合いを逸してしまったのだろうか。あるいは、やり逃げの仕打ちを恨み、それを何倍返しにもして晴らそうとしているのだろうか。

 気が滅入る毎日だったが、ある日、悪夢の中の鴨はただ一匹であって最初から同じ鴨だったことに気付いた。それは今まで悪夢だと思っていた自分の考えを覆した。鴨が自分の口に鉄パイプを入れるときの挙動は、自分がするよりもずっと丁寧で、思い返せば口腔が傷ついたことは一度もない。それに、どうもトウモロコシの流し込み方がおかしい。一気に済ませればいいものを、何故かおかしなリズムを刻んでいる。そこまで思考が至ったときリズムが語り始めた。

「誇りを与えてくれてありがとう」

 リズムは繰り返す。何度も繰り返す。

「誇りを与えてくれてありがとう」

 それから悪夢を見ることはなくなった。

 そして、男は再び飼育員となりすぐに揺らぐことのない誇りを得た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ