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さんてんいちよん

 算数の授業でさんてんいちよんが初めて出てきたのは小学三年生の頃だったと思う。まず、さんてんいちよんという中途半端な値である。それに加え、何故さんてんいちよんなのかという説明が一切なく納得できなかった。

 突如現れたさんてんいちよんは自分にとって理解ができない理不尽のかたまりであり、この頃を境に、納得できないけれど自分の及ばない公式やルールがあると思われる場合に限り明確な説明や理屈がなくとも信じて飲み込むことをおぼえた。

 それからまもなく算数は面白くないものになる。円周の求め方、円の面積の求め方、という具合に考えるというよりは覚えるものになってしまった。

 クラスのみんなは円周率という言葉とそれを表すさんてんいちよんという響きが気に入ったらしく、円周率、さんてんいちよん、にかけるはんけいかけるさんてんいちよん、はんけいかけるはんけいかけるさんてんいちよん、と飽きもせず唱え続けていた。頭のいいことを言っている気がしてくるし、格好いい気もしてくる。

 当然自分は唱えたりしなかった。式は覚えたけれどやっぱり納得がいかなくて、説明をしてくれない先生にイライラしていた。そして、聞く前からことのことは、さんてんいちよんのことは、聞いてもダメだろうと思っていた。だめもとで聞いてみた結果、円周率は円周率なんです、と答えが返ってきた。

 きっと先生もこんなこと、小学校にいる誰もが分からないこと、を聞いてくる生徒、つまり自分、にイライラしていただろう。しかも、自分は先生が答えられないことが予想できているのだ。もしかしたら声音が意地悪になっていて、それを先生は察知したかもしれない。

 さんてんいちよんを飲み込むことは簡単だった。飴玉を飲み込む方がよっぽど抵抗がある。でも、悲しくて、やりきれなかった。

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