階段
一億年か二億年だったかきちんとした数字は忘れてしまったけれど、太陽はそのうち膨張して燃え尽きてしまうらしい。僕はそのことを知って太陽と地球の未来を案じた。
でも、そんな先のことを心配しているのは僕くらいのようだった。家族に話してみても、そのとき生きてないだとか言われ、それで会話は打ち切られてしまった。
やがて僕は太陽が燃え尽きてしまうことを心配するのを忘れたが、すぐに別の心配事ができた。その頃僕はいつか死んでしまうことをやたら怖がり、一度は声を上げて泣いてしまった。後々その事実を受け止められるようになり、急に太陽が燃え尽きてしまう話を思い出した。そして、太陽の心配をしていたのは自分が死にたくなかったからなのだなあ、とそのときまで長生きできるはずもないのに一人で納得していた。
以来、自分の死と太陽が燃え尽きる話はセットになり一方を思い出せばもう一方を思い出すようになった。
そして、案の定自分が死んでしまう心配も時間と共に減っていった。その代わり自己同一性の証明にやっきになり始めた。そのことを家族に話すと、そんなものは気がつかないうちにされているのだ、と言われて理屈抜きの説得力に納得できたようなできなかったような不思議な心持ちになったがわだかまりは無くなった。
自己同一性の証明という問題が解決した後、死と太陽の話を思い出して、自分の存在がおびやかされるのが嫌だったんだなあ、とこれまでの自分にとって大きすぎる問題を結論づけた。
それから、今のところ新たな心配事が出来る様子はない。もし、それが再び出来たなら僕は自己同一性の話から死の話、太陽の話へとさかのぼって結論を改めるだろう。このことは生きている限り続き、終わることはない。




