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どんなことが起きても前向きに克己するための一冊

 気が向いたので、なんとなく心理学の本を手に取ってみる。いわゆる冷やかしだ。

 題は、どんなことが起きても前向きに克己するための一冊。慌てて自分のいる本棚のジャンルを確認する。宗教系でも倫理系でもない。こういう本があるから心理学は誤解されるのではないかと思う。それに大学の図書館にこんな本があるなんて驚きだ。この本を読んでレポートを書いたりする人がいるのだろうか。

 心理学のことなんてちっとも知らない自分でも読めそうだという理由から手に取ったのがいけなかったのかもしれない。しかし、少し興味があったので中身を見てみる。

 内容を一言にしてしまうと、何か大変なことが起きたとき、まあいいか、と呟けば克己できるというようないい加減なものだった。大変な事態としていくつもの例が挙げられていて、それを克己するための方法、考え方がそれぞれ挙げられていた。火事で家が焼けてしまったとき、愛する人を失ったとき、その他色々。

 なんという詐欺だろう。こんなことがありえるはずがない。心理学なんぞ一生誤解されたままでいればいい。頭がいいふりをした実はないだけ雄弁なんだと気付くときがいつか来る。そのときが心理学の終わりだ。

 立ち読みしながら暗い気持ちで心理学そのものを呪っていたとき、大変なことに気付いてしまった。

 財布がない。確かに尻ポケットに入れていたはずなのに。手には、どんなことが起きても前向きに克己するための一冊。

 挑戦的な気持ちでもって、まあいいか、と呟いてみる。克己なんて起きやしないと強く念じながら。

 するとどうだろう。ゆっくりと体全身に何かが染み渡っていき、やがて落ち着く。これこそ克己。心理学の凄みを知った。実践的な学問であることをその身で思い知った。

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