第九話 さいしょの村
う〜ん、体がきつい。
どれくらいかっていうと、全身の筋肉を引き裂いて、そのまま詰め込まれた感じ。わかりやすく言うならば、すごく痛いし、体動かない…(笑)。
なう、私はヴァインタによって村の近くまで空輸してもらっています(爆)。
いやぁ、風の精霊ってすごい。もう、タ◯コプターだよ、タケ◯プター。空を自由に飛◯でいるよ。
ヴァインタが緑じゃなくて、青だったら、もう完全に日本の有名アニメのタイトルみたいな存在だよ。だって◯次元ポケットもあるし(ドラ◯もん)。
あの後、一回倒れたけど、すぐに痛すぎて目が覚めて、でも私の体が一切動かなかったから、ヴァインタが肉の諸々の最初の処理をして、あとは村まで届けちゃおうって話になった。
いやぁ、快適、快適。揺れもなければ、風もない。車の中にいるよりも楽かもしれない。
ただ難点を挙げるとすれば、足場が何もないことと、周りをいのしし(死体・血抜き済)に囲まれていることだろうか。
まじまじと巨体を見つめる。
……よくもまあ、私はこんなやつに殴り掛かったな。
あの時は少し冷静じゃなかったからなぁ。
おっ。ようやく遠くに村っぽい何かが見えてきた。
『村まであと少しのところまで飛んで行って、そこから歩くわよ。村に飛んで行ったら、最初から警戒されて取引きどころじゃなくなっちゃうわ』
確かに、いのししと一緒に人型の何かが空から飛んできたらビビる。日本だったら、間違いなくUFO扱いされてその日のうちにT◯itterのトレンド入りしてしまうだろう。
『そもそも、なんで村に向かうかわかっているかしら?』
う~ん、物資の補充とか? 確かヴァインタは無制限に私についてこれるわけじゃないからとか、なんとか言っていたような……。あと何かあったっけ?
『その顔は、すっかり忘れている顔ね。一度言ったと思うけど、近くの情報を得るためよ』
あっ……。
『途中の道が整備されてないってこともよくあるわよ。あとは、道が綺麗に踏み固められていて、分岐していたとしても、獣道だったりしたら、さっきみたいないのししと真正面からばったり遭遇なんてことも起こるわよ。結構馬鹿にできないわよ。とにかくこれだけは絶対に忘れないで』
どうしよう。私コミュ障って言ったら、どうなるだろう。
いや、ヴァインタはあの戦闘の時、私が語らないことに少し距離を感じてるみたいなことを言っていたし、今こそ言うべき時だ!
「……ええっとヴァイ『そういえば、ワタシも村に着くにあたって姿を少し変えるわ』」
これはデジャヴ? いや、ここで致命的な認識の違いは問題になるっ!
「……ヴ『ニンゲンでいう、オスの姿になるわね』」
ヴァインタの周りを緑色の光が渦巻く……ってそんな場合じゃない! 私は! 言うんだっ!
「……v『そうそう、この姿の時はヴィルって読んでね。あっと、違ったわね。ヴィルって呼んでくれ(声色のよい男声)』」
Oh〜wwww(失笑)。神は悉く私のことを邪魔しようとするのか? あと、ヴァインタじゃなかった、ヴィル結構がっしりとした形ででも、身長が170cmぐらいだからちょうどいい大きさかな?
「それじゃあ、村に近いし、そこの開けた場所に降りるからじっとしておいて」
声が空間を響いた。脳に響く感じがなくなったぞ! これもしかしてヴァインタじゃなくて、ヴィルの肉声か?
「あー、いま、実体を持たせているからこの世に干渉する力を持っているよ。だから声は響くし、こうして触れることができるわ」
そう言って、ヴィルは手を掴んできた。
ん? なぜ掴んだ?
「ちょっと衝撃がくるからしっかりと構えなさい」
構えなさい、だと? 体が一ミリも動かないのに?
「はい、さん、にー、いち、どーん」
グアアアアアアアアアア! 筋肉に響くぅぅっ! マジで痛い。
顔を顰めながら、ふと隣にいた死闘を繰り広げたいのししをみると、小さなクレーターを作っていた。
「いつも空飛ぶと、こうなんだよね。こうして衝撃が来ちゃうんだよ」
あの快適さとこの着地の手抜き具合は釣り合ってねえぞ?
「いやね、空飛んでいる時は空気の抵抗を減らすために薄く空気の膜を敷いているんだけれど、着地はどうもうまくいかないだよ」
そんな翡翠のかっこいい目つきでてへぺろなんてしても、かわいくなんか……ちょっといいな。
「まあ、空での移動は障害物があまりないからすごいスピードで進んでいるからかなぁ」
原因はっきりしているじゃん。って言うかこんなに衝撃があるってことは、すごいスピードで進んでたってことでしょ? こんな空の旅は嫌だ。さっきの快適だという言葉は取り消させてほしい。
「それじゃあ、早速村の方に行って今日の宿場を決めたり、いのししを振る舞ったりしますか」
ヴィル(ヴァインタ)はそう言って巨体二つを精霊の不思議パワー(物理)を使用して、軽々と持ち上げて歩き出した。
私は歩きいっったぁぁぁぁ(自分の筋肉の痛みを忘れ、歩き出した者の末路)。
────
村は木の柵で囲まれていたが、その木の柵は吉野ヶ里遺跡のように人の侵入を完全に防ぐように細かく巡り周された者ではなく、少し大きな隙間があっても、大型の生物、例えばヴィル(ヴァインタ)が持っているサイズの生物を防ぐほどの効果はありそうだった。
全身の筋肉の悲鳴を聞きながら一歩一歩ヴィル(ヴァインタ)に遅れずについていくと、村の前に弓を持った男、ショートソードもどきを抜いて構えている男、そして髭をたくわえたいかにも村長と言った見た目の老人の全員がこちらに鋭い目を向け続けている。
しかしヴィル(ヴァインタ)は歩みを止めることなく、村にどんどん近づいていく。私の筋肉は泣いている。
村まで残り20歩といったところか、ヴィル(ヴァインタ)は徐に止まり、私もそれに合わせて止まった。筋肉は休ませてと言わんばかりにぷるぷると震え出したが、村長らしい老人とそれを険しい顔で見つめるヴィル(ヴァインタ)の状況を見て、私は立ち続けた。
老人がヴィル(ヴァインタ)に向かって話しかけてきた。
「旅の方か?」
「ああ、そうだとも。そしてあなたはこの村の村長であっているか?」
「そうだ。ワシがこの村の村長である。何用でこの滅多に人が訪れない村を訪れた? ことと次第によってはワシらも全力で抵抗させてもらう」
老人は私の予想通り村長であったが、好戦的すぎない? なんかいきなり喧嘩腰なんだけど。後ろに控えた男二人のそれぞれ構えをとる。
……私、筋肉、限界、近い。
「いやぁ、少し色々と物と物の交換をしたい思って寄らせてもらったよ。これはほんの手土産みたいなものだよ」
なるほど、こうしていのししが効いてくるのか。
村長がまじまじとそのいのししの顔を見つめ、ハッと気づいたようにぴくりと跳ねると、隣の男たちと二、三会話し、改めてこちらを向いてきた。
「そのいのししはどこのあたりで?」
「村の近くだよ」
「その二匹は番であったか?」
「そうだ」
「じゃあ、これが最後の質問だ。そいつは好戦的であったか?」
「そうだ。こちらを見るなり襲ってきた」
見られるように移動したのは私たちなのではと思ったが、ヴィル(ヴァインタ)の言葉は間違っていないし、話がまとまりかけているのでいちいち訂正はしない。
筋肉が笑い始めた。すごい面白いことでもあるのかなぁ(逃避)?
「そうかそうか、旅の者よ。それはご苦労であった。それであなた方は何を求めてこの村にやってきた?」
「それは物々交換と二日ほどの休息を」
「そうか。それでは村の方に歓迎しよう」
ようやく話に決着がついたのか、老人が圧を解いて、村へと案内を始め、ヴィル(ヴァインタ)が肉を持ち、歩き始めた時。
私は、動けなくなった。
私の筋肉たちが一斉に爆笑したのだ。
本日はもう数話更新します。




