第十話 見せること、見られること①
一部修正10月11日
目を覚ますと夜。と言うより陽が落ちたばっかでほんのりと明るさが残る感じだ。
頭を上に持ち上げ、キョロキョロと見渡すと、私は小屋にいるようだ。
あたりに人の気配がないので、少し不安になり、起き上がって小屋の周りの気配を探る。
遠くに複数人が集まっているような感覚がした──と思ったら扉が引かれ、翡翠の双眸がこちらを見つめてきた。ヴィル(ヴァインタ)だ。
「いや、かなり体が限界を迎えていたっぽかったけど、どれくらいか分からなかったから無茶させたみたいだね」
そう言うと、ヴィルは少し前までのヴァインタの形になり、私に木の器を差し出してきた。
『はい、これ、いのしし鍋よ。とりあえず食べてみなさい』
スプーンと一緒に器を受け取った私は、その肉を掬い、口に入れて、咀嚼する。
苦いし、臭い。なんかすごい癖がある。昨日のうさぎ肉のシチューもどきの方が美味しかった。
『ははは。苦かったわよね。ワタシはだから食べなかったのよ』
確かに。ヴァインタはうさぎ肉のシチューの時は食べてたのに、今は器すら持ってないぞ。
もしかして押し付けられたのでは?
『まあ、とりあえずそれは食べちゃいなさい。村の人たちもみんなこれを食べているから』
とりあえず、言われるがままいのしし鍋を食べる。野菜はすげえ素材の味が生かされている(つまり、不味い)。
『それで、ワタシがなぜいのししを仕留めようとした意図は大体わかったかしら?』
ええっと、まず村に入る時になんか円滑にことが進んだことか? もしいのししを持っていなかったら村に迎え入れてさえもらえなかったし。
だとしたら、村に入れてもらえた理由は?
「…力を示すことが出来たから?」
『それだけじゃないわよ。この村に入った時のことを思い出しなさい。あの時の村の状態は?』
大きな柵に囲まれていて、大きい生物の侵入を妨げるようになっていたっけ。あとは、二人がかなり警戒した状態で迎え入れていたことか。他には……。
『──あまりよく見えていなかったようね。じゃあ、明日一日はこの村に滞在するからその理由を考えなさい』
そう言って、ヴァインタは黙々と食べ続けて空になった器を私から受け取り、体に収納しては、また同じように守られた器を差し出してきた。
『ほら、しっかりと栄養を摂りなさい。肉は体を作る材料よ。シラホの倒れ方からして、肉が十分ついていないから倒れたみたいだから、たんとお食べなさい』
…………。
「─これってヴァインタが食べ『シラホがしっかりと摂りなさい。ワタシはマナさえあれば十分だから』」
二杯目はしっかりと私が食べ切りました。そのあと、体がひどく疲れていたので、そのまま寝てしまった。
いのしし肉は不味い。
◇◇◇◇
翌朝、陽が明けると、遠くから話し声が聞こえてくる。
早朝の小鳥の囀りと人の話し声により自然と目が覚める。
ゆっくりと体を起こし、前を見ると、ヴァインタはヴィルになって、その手には色々なものを風呂敷に包んでいた。
「目が覚めたようだね。そしたら朝食を食べて、村の人たちと物々交換をしに行こうか」
そういって、ヴァインタが差し出してきたのは、しっかりと湯気が出ている出来立てほやほやの状態のシチュー……これ昨日と同じじゃないか?
肉を一口──これ、いのししだ。
昨日と同じ、いのしし肉であるが、香辛料が入っているのか割と味の癖がなくなっており、美味しくいただいた。
「それじゃあ、早速村長さんのところに行こうか」
そういって小屋を出て、村長宅へと向かった。
────
村の所々で人が集まって話をしている。
話している内容ははっきりとは聞こえないが、内容的には昨日のいのしし鍋がどうだったかとか、旅人が村にやってきたとか言う話から、自分が育てる作物の生育状況や天気について話しているように聞こえる。
前者の内容は普通にゴシップなどを話すような感覚であるが、後者は常日頃共有している話のようで、あまり農作業に精通していない私は、おそらくしっかりと聞いても理解できないだろう。
村の人たちの様子は関係が密で、少し話しかけづらいといった感じだろうか(そもそも、私は話しかけようとも思わないが)。
少しだけ、ヴァインタの課題を解決すべく観察しているが、いのししを狩った理由がいまいち分からない。
よーく観察していても、村人に笑顔があるということぐらいか?
でも、そんなことは私たちが来る前からそうであっただろうし……。
考えを巡らせ、ヴィル(ヴァインタ)についていっているうちに、村長宅の前にやってきた。
「おや、昨日はよく休まれましたか、旅の方よ」
「ええ、小屋をわざわざ貸していただきありがとうございます。しばらく野宿続きだったので、とても落ち着きました」
「それはそれは。それでいて物々交換を望まれるのでしたかな」
「ええ、こちらからは昨日皆さんに振る舞わなかったいのしし一頭分の肉と、途中で手に入れたうさぎの毛皮と穀物の類、よければ布を数枚交換していただければと」
「ふむ。それでは少しこちらがいただき過ぎですな。……それでしたら、少しばかりですがこの先に向かう村への紹介状とあと、もう何か受け取っていただけませんかな」
あれ? 村に持ってきたのはいのしし二頭分だよな。私が食べた分を含めてもあの巨体だったら結構あるはずなのに、なんでヴィルは一頭分って言ったんだ?
村長はいただき過ぎだと思っているのであれば物々交換するんだったら相応の穀物を渡せばいいんじゃないか?
「そうですか。それでは、この子の推薦状を書いていただけませんか? 事情があって旅人であるのですが、推薦状を持っていなくて」
推薦状? 何それ。
「ああ、それぐらいなら構いません。この村から飛び出そうとするものもいないですし。そういえば、この国でも魔族の活動があるかもしれないと噂されているのは知っていますかな」
「いや、それは知らなかった。でも、おそらく可能性がある程度の話で、侵略を受けたなどの話は流れていないのだろう」
「それはそうですが、旅の方よ、注意された方が良いかと。実力と礼節を備えた方々ですから、無事に旅をしてほしいというお節介が出まして」
「なるほど。こちらもなるべく注意するとしよう。それと、この一日、村の様子を見学させていただいてもよろしいか?」
「ええ、構いませんよ。もしよければ子供たちに旅の話をしてくださると」
「わかりました。折を見て子供たちとも話しますよ」
そうして、村長との話し合いを終え、村長宅から出た。
────
「……ヴァイ──じゃなかった、ヴィル。推薦状って、なに?」
話し合いの最中に気になったことを聞いていく。
「この世界では冒険者という人たちが旅をしているのは知っている?」
もちろん知るわけがないので、首を横に振る。
「じゃあ、冒険者というのから説明すると、冒険者は特定の土地に定住しない人々のことで、基本的に常に旅をしている。そして全員国家に所属していないし、各国家でその身分は保証されているから犯罪者ってわけでなければ、基本的に自由に国家を移動できる」
国境に縛られずに旅ができるのか。
「全員が冒険者協会に所属していて、そこが各登録者を管理していて、各国家にその支部と訓練学校を設置している。そして、誰でも冒険者になれるっていうのは一昔前までで、いまは基本的に推薦を受けて、訓練学校に半年ほど通って冒険者になるってのが一般的だね」
学校かぁ。
「まあ、その推薦状を受け取っておくと、後で冒険者になりたいときに使えるかもと思ったから推薦状をもらったってわけ。別になりたくなかったらならなくてもいいし、しばらく旅をしているうちに決めたらいいよ」
完全に私の自由意志かぁ。世界を救うっていう使命はあるけど、どう救えとは言われてないし、魔王を倒せばいいのか、魔族を倒せばいいのか、何をしたらいいのか全く分からないし、しばらく保留だな。
「とはいえ、冒険者になるメリットは知っておいてもいいかもね。一つ目は、先ほど言った通り自由に国境を越えられることだね。今の身分だと何も保証する物がないから密入国をするしかないけどね」
あれっ? いま、私、日本人じゃない!?
いま、国籍無い感じ?
まじか。国家権力が守ってくれないぞ?
致命的すぎる。
「二つ目は、情報が手に入りやすいことかな。道の情報、魔物の生息や発生の状況、災害の状況とか色々な情報が手に入りやすいってことだね。だけど、その代わり依頼にいも応えて行かないといけないのがデメリットかな」
情報かぁ。重要だな。
依頼というと、異世界もののようにクエスト制みたいな感じかな?
とヴィルと話していると、ヴィルは立ち止まって言った。
「じゃあ、今からそこに立てかけてある槍を振り回せるようになっといて。ワタシが物品を交換してきている間に」
ああ、修行パート(唐突・強制)か。
来ると思ってたよ(諦念)。
なんか主人公は気絶が多かったですね。
【簡単に解説】
──ヴァインタの姿ってどうなっているの?
形が少しぼやけている、女性型の風の集まりのようなもの。
地面から数センチ浮いている。体のどこからでもものの出し入れをできる。
──ヴァインタがヴィルになるとどんな感じで変わるの?
女性型じゃなくて男性型になり、その輪郭が人間のようにはっきりとした好青年になる。
触っても、人間のような質感が返ってくるぞ。体の一部を女性型に戻すと、物を収納できるが、男性型のままだと収納できない。
詳しい説明(考察パート)はしばらく先にあるからそれまでお楽しみに!
10月18日追記
申し訳ありませんがしばらく休載させてください。
エタるつもりはないので、今後ともよろしくお願いいたします。
3月頃をめどに再開する予定です。




