第四話 ひいふつと
〜ある森の朝〜
息を深く吸い込み、吐き出す。
左足をそっと前に出し、八の字に開きながら、両足で大地を踏みしめる。
右手でそっと持ちながら、左手を鉛直に構え、張っていく。
目の前の目標を見る。
適度な緊張感が身を支配し、集中が極限に達した時──射──矢は【ヒョン】っと言う音とともにまっすぐに飛んでいき……と思いきやだんだんと落ちていき、対象の少し下に吸い込まれていった。
「……もう一度」
────
息を深く吸い込み、しっかりと吐き出す。
左足をそっと前に出し、八の字に開きながら、両足で大地を踏みしめる。
右手でそっと持ちながら、左手を鉛直に構え、張っていく。
目の前の目標をしっかりと見る。
若干上へと狙いながら、対象へと当てることを狙う。
適度な緊張感が身を支配し、集中が極限に達した時──射──矢は【ヒョン】っと言う音とともに若干上へと飛んでいき、途中からだんだんと落ちていき、対象のわずかに下に吸い込まれていった。
「………もう一度」
────
息を深く吸い込み、腹の底から吐き出す。
左足をそっと前に出し、八の字に開きながら、両足で大地を踏みしめる。
右手でそっと持ちながら、左手を鉛直に構え、張っていく。
目の前の目標をしっかりと見る。
先ほどのずれを考えてちょっと大袈裟なくらい高めを狙う。
適度な緊張感が身を支配し、集中が極限に達した時──射──矢は【ヒュゥッ】っと言う音とともに対象の上へ上へと飛んでいき、先ほどより進んだところでと落ちていき──間に合わない──対象の上へと吸い込まれていった。
「…………もう一度」
────
外から空氣を取り込み、腹の奥底から吐き出す。
左足をそっと前に出し、八の字に開きながら、両足で大地を踏みしめる。
右手でそっと持ちながら、左手を鉛直に構え、張っていく。
目の前の目標をしっかりと捉える。
先ほどのずれを考えて的の上の方を狙うが、さっきよりちょっと下を狙う。
適度な緊張感が身を支配し、集中が極限に達した時──射──矢は【ヒュゥッ】っと言う音とともに対象の上へ上へと飛んでいき、理想的なタイミングで落ちていき──風一陣──対象の右横へと逃げていった。
…………。
「……………もう一度」
────
腹の奥底から空氣を取り込み、その全てを吐き出す。
左足をそっと前に出し、八の字に開きながら、両足で大地を踏みしめる。
右手でそっと持ちながら、左手を鉛直に構え、深く張っていく。
目の前の目標をしっかりと捉える。
先ほどのずれを考えて的の上の方を狙うが、さっきよりちょっと下を狙う。
適度な緊張感が身を支配し、集中が極限に達した時──射──矢は【ヒュッ】という引き締まった小気味のいい音とともに対象の上へ上へと飛んでいき、理想的なタイミングで落ちていき、少しの風が吹き抜けても、ブレることなく対象へと突き刺さった。
「…よしっ」
私はもう一度深呼吸をして、腰にある矢筒から矢を取り出し、番えて、射る。【ヒュッ】という音とともに放たれた矢は先ほどと同じ軌跡を描きながら、対象へと突き刺さる。
なぜ朝からこんなことをしているのかは数刻前に遡る。
────
『まず朝から弓をやってもらうわ』
朝起きて、目が覚めたらヴァインタがそう告げた。
私は寝ぼけ眼でヴァインタとともに水源に行き、顔を冷たく澄んだ水で洗った。
ヴァインタは周辺をふよふよ漂いながら続けた。
『朝食を済ませてもらうわ。その間にワタシはちょうどいい練習場所を探しておくわ』
そう言って、ヴァインタは体の中から、パンと干し肉を出して、ふよふよと森の中にいってしまった。
これを食べておけってことか……。まずはパンを食べてみる。
「(ガリ・ゴリ・ガリ・ゴリ・ガリ・ゴリ)……」
うーんこれは味が全くないな。しかも結構硬い。幸いにも水源が近くにあるからちょっと水を飲みながら食べれば、いけそうかな。
とりあえず次は干し肉。
「(ガリ)」
あーこれビーフジャーキーの原木みたいな感じだ。薄くしないと噛めない……。いや、これ端の方から手で剥けるぞ。あ、こうすれば、食べられそう。
「(カミカミカミカミカミカミカミカミカミ)」
うん、ビーフジャーキー。噛めば噛むほど美味しいやつやん。あーパンが味なかったのはこれと合わせるためだったのか。
「(ガリ・ゴリ・ガリ・ゴリ・カミカミカミカミ・ガリ・ゴリ・ガリ・ゴリ・カミカミカミカミ)」
うん、これはなかなか美味しい。
しばらくして食べ終えると、ヴァインタが戻ってきた。
『はい、じゃあこれとこれね』
そう言って、ヴァインタは弓のケースと矢が10本ほど入った矢筒を渡してきた。とりあえず、ヴァインタの説明を聴きながら矢筒を腰に巻いていく。
『基本的に矢は回収して何度も使うのよ。作るのが大変だから。それと弓を一度丁寧に出してみなさい。ボウケースの中にフィンガーカバーがあるでしょう、それを付けないと指を痛めるから気をつけなさい』
私は少しゴワゴワするが、しっかりと右手の親指、人差し指、中指にフィンガーカバーを嵌めていく。フィンガーカバーは外側は革でできているが、内側はしっかりと布で覆われていて、しっかりと保護されている。
『付けられたわね、そしたら、左腕にはアームガードを付けなさい。弓を放ったときに弦が戻るときに腕を痛めないようにするためのものよ。しっかりと付けなさい』
そして、手際よくアームガードを付け終えた。
『それじゃあ、練習するところに行くわよ、とりあえず標的に二三回当たるまでは練習し続けなさい』
私がこくりと頷くと、ヴァインタは練習場所を案内してくれた。
────
『あら、しっかりと当てられるようになったのね。そしたら、その腕前を早速後で発揮してもらうから、矢の装備はしばらく持ったまま移動しなさい。あと、これも付けておきなさい』
そう言って、ヴァインタは小さなナイフ2本を差し出してきた。
『一応、一回出して確認しなさい。一回り小さいやつは刃は結構切れやすいから絶対に触れないようにしなさい。少し大きい方は刃が硬いけれど切れ味はあまりよくないからそこまで問題ないわ』
ひとまわり小さい方は刃が確かに鋭そうだ。大きい方は……これナイフの形しているけど絶対きれないでしょ、先が目で見えるぐらい太いし……。
『それじゃあその格好で今日は移動しましょうか』
そう言ってヴァインタが進んでいくのを私は初日と同じように追っかけながら移動が始まった。
◇◇◇◇
昼下がり。
『それじゃあ、一度休みますか。軽く食事もしましょうか』
そう言ってヴァインタが朝と同じパンと干し肉を出したので私は水筒の水とともにそれを食べる。
『今日は後もう少し移動したところに水場がポイントがあるからそこで休むわ。だけどその前に今日は狩りをして貰うわ。道中ある程度狩りができた方が都合がいいわ』
やはり弓は狩りのための練習だったか。
『というわけでちょっと移動したところで狩りをするわ。狩りをするのは村からよく離れたところにしておくのよ。じゃないと村と出会った瞬間から戦う、もしくは争うってことになったりもするわ』
旅も色々大変なんだな……。確かに友好度を最初っから下げて旅をする必要もないし、気をつけねば。
『まあ、それでここらへんは村が管理しているわけでもなかったみたいだから問題ないわね。大体管理してあると、こう言った道のところには看板が打ち付けられていたり、森の中だと一定間隔で杭を打ち込んでいたりするわね』
裏山はうちのものだみたいに主張するんじゃなくて村全体で森や山の所有を主張するのか。ちょっと面白いな。
『それじゃあ、少し進んだところで狩りをするからもう少し移動するわよ』
そうしてしばらく道に沿って行き、途中で道から逸れること少々、すると水場が見えてきた。
『シラホ、そこの水は飲んじゃいけないわ。沢と呼ばれるところだけれど、あんまり清潔だとは言えないわ。そして水が湧き出しているわけじゃないし、結構危険だわ。飲むと腹を壊すだけじゃなくて、最悪死に至ることもあるわ。まあ、もし飲まなきゃいけない時はしっかりと加熱したり色々工夫しなきゃいけないけど、わざわざ飲む必要はないわ。しばらくしたところに湧水の川が流れているし、飲みたければそっちの水を飲めばいいからね』
見た目はすごい綺麗に見えるけど……。
『まあ、この水を見分けるには水温とかを確かめたりすればいいけど、川の水とかは基本的に飲まない方がいいわね。ここは池みたいな感じだから絶対ダメってわかるけど、川だと一見するだけじゃわからないから、まあ、一番手っ取り早いのは近くの村で聞いてしまうのね』
あー、聞かないといけないのか……。
『まあ、ワタシはマナの流れで見分けているけど、ニンゲンのシラホには無理でしょうね』
マナ! そいつを見えるようになればいいのか!
『まあ、一応言っておくと、湧水は陽のマナでも地に属するマナが多い感じね。時間が経つと地に属するマナが抜けていって水に属するマナが増える感じね』
あれ? マナって陽と陰に分類するだけじゃなかったっけ。
『あー、あまり説明していなかったわね。ニンゲンは基本的に陽と陰しかマナを分類できないけど、私たち精霊はもっと別れて見えているわ。それぞれのマナは土、水、風、火とそれに加えて何色にも染まっていない真という色に見えているわ。マナでも変換されやすさがそれぞれ異なっていて、ニンゲンも火のマナをよく浴びていたら火の魔法を唱えやすくなるわよ』
属性みたいなものか。
『まあ、精霊は大体マナで構成されているけれど、真のマナが比較的美味しいわね。でも、この世界にそんなマナは基本的にないし、大体は土、水、風、火に染まっているわ。大体のマナは土から水へ、水から風へ、風から火へ、火から土へと巡っているわ。そして、それぞれの精霊はその由来するマナが一番取り込み易いわ。私だったら風ね』
ヴァインタは風の精霊だったのか。
『とはいっても、上級精霊だと別にどのマナを取り込んだからって、問題はないわね』
ふーん。まあ、精霊ってマナでできている不思議ちゃんだからそんなもんか。
『まあ、ここで本来の話に戻ってくると、この水は水の色が強くて、若干風も含んでいるから湧き水じゃないから危ないってわけね』
マナマナマナ、見えろ見えろ見えろ! はぁぁぁぁぁあああ。
うん。見えるわけないよね。
『まあ、そんなことを知っても何もならないけど、今重要なのはその沢は動物の水場になりやすいのよ。だからその周辺を探すと比較的獲物が見つかりやすいわ。だからここら辺を中心に森の中に動物の痕跡がないか探していくわよ』
そう言って、ヴァインタは森の中をよく見ながら進み始めた。
【軽めの余談】(''◇'')ゞ
氣は気の旧字体です。米を略記してメに変わっているだけで、どちらも同じ意味を示しています。本文では少し見た目でイメージが伝わるようにちょっと変えてみました(巷では読める人が多いみたいなので)。
空気という言葉は、蘭学者が翻訳する際に生み出したそうです。
空(空白・虚空)の【気(目に見えないが満ちているもの)】という意味ですね。
この【気】の考え方は中国の思想や東洋医学に見られるような【気】の考えが染み付いているように思えます(気になる人は調べてみてね)。
私たちが何気なく使っている言葉の中に中国の考え方が入っていることを象徴している感じがしますね。
(でも空という考え方も混じっている感じがして純粋な中国の考え方を受け継いでいるかと言われたらそうじゃない感じもする……)
たまにこうやって本文で気になったことをあとがきで挙げるかもしれません。(読みたくない人は読み飛ばしてね。指摘がある人はどんどんしてください、反映させるかもしれません)
【軽めの余談2】(''◇'')ゞ
ちなみに弓は英語でボウ(bow)です。虹をレインボウっていいますよね、あれは雨が弧状に広がったものですね。




