第二話 大体ゲームで基本操作を教えてくれるチュートリアルがあるじゃん、あのキャラ結構コミュ力高くない?
白い光に包まれた私が降り立ったのは自然豊かな森の中だった。
耳を澄ませば、小鳥の鳴き声は…………聞こえてこない。
というか今、私はかろうじて一枚を布切れを纏っているが、風が少し吹けばすうっと涼しい風が私の体の周りを駆け巡る。
全身がスカートみたいな感じだ。
強い風が吹いたら、生まれたままの姿が晒されてしまいそうだ。
『ねえ、アンタ、アルウーヌス様が喚んだニンゲンでしょ』
…………。今、私は素足であるが、どういうわけか足裏が痛くない。アルヌーウス様がいたところでも似たような感じだった。土がサラサラしているのではないが、どうしてだろうか。神聖な力が働いているのかもしれない。
『ねえ、聞こえているでしょ。ねえ』
どうやら私は異世界に来て幻聴を聴き取るようになってしまったらしい。私は電波少女でもなかったはずなのに……。
『後ろよ、後ろ。ほら、こっちを向きなさい』
幻聴に従い、とりあえず後ろを振り返ってみる。するとそこには全体的にシダのような萌黄色の塊の中に白翠の輝きが二つ。
『ようやくこっちを向いたわね。ワタシの名前はヴィアンタ。上級精霊よ。アンタにこの世界のことについて教えるようにアルウーヌス様から仰せつかっているわ。しばらくの間、頼むわね』
そう言うと、上級精霊と名乗った目の前の塊は風を吹き出しながらゆっくりと地面へと向かい、人型を創り、私の目の前へと降り立った。
『さあ、とりあえずアンタの名前を教えなさい』
今時の中学生もびっくりの超特急での距離の詰まり方に驚いた私は、この危機を打破しようとアルウーヌス様から頂いた【星導の共鳴鈴】に手を伸ばそうとしたが。
『あっ、なにしてんのよ。それ、一度きりなのよっ』
目の前の存在に【星導の共鳴鈴】を奪われてしまった。
◇◇◇◇
『本当に何しようとしてんのよ。とりあえず落ち着いたかしら。これは本当に重要な時に使うのよ。とりあえず一ヶ月ほどワタシが封印したから、使えないようになったわ』
五分の攻防の末、目の前のヴァインタは【星導の共鳴鈴】を封印されてしまった。私の異世界の少ないチートの一つが……。
『ふう、それで名前を教えてくれないかしら』
「……ええっと、ナカノセ、シラホ、です」
声を出そうとすると少し緊張してしまうが、息が上がってか、程よく力が抜けていた。
『じゃあ、シラホね。しばらくの間、よろしく頼むわ。じゃあ、まずこれを着るといいわ』
そう言って、ヴァインタは自分の体の中をグニャリと歪ませ手を突っ込み、中からアースカラーの衣服や胸当て、靴を取り出した。
その中を漁っていくと、どうしてもあるものがないことに気づいた。
「……あの、ええっと、ヴァインタ様? パンツと、ブラジャーが、ないのですが……」
『え? なんだって? パンツ? それならすでにあるじゃない』
「その、ズボンのことじゃなくて、……股に当てる小さな布切れっていうか……」
『ああ、股布のことね。はい』
そう言って彼女が差し出したのは本当にただの薄い布だった。これをつけろと……。
まあ、しばらくこれで耐えるしかない、か。
「……あと、胸が、垂れてくるのは、どうすれば、いいんですか?」
『えっ、そんなことも知らないの? アンタ大丈夫? これを使うのよ』
彼女はそう言ってすでに出してあるものの中からあれを取り出した。
サラシである。
『こうやって、ぐるぐる巻きにして、はいっと、これで完成よ』
少し窮屈な感じがするが、ないよりはマシな感じだ。残りの与えられたものを全て身につけ、防具でしっかりと身を固めた。防具は全体的に3キロほどであろうか。たしか、日本の鎧が20キロほどであったことを踏まえると、かなり軽いように思える。
「……あのぉ、ヴァインタ様、準備が、できました」
『しっかりと着れたようね。あと、様付けはいらないわ。精霊の中にはニンゲンよりも上位にある考えているものもいるけれど、ワタシは別にそこまで考えていないし、案内するのに、敬語だとちょっとやりずらいっているか、ねぇ』
ねぇ、と言われても……。まあ、ヴァインタが望むならそうしよう。
『それじゃあ、まず最初に村に向かうわ。と言ってもここから一番近い村であっても、三日かかるから、その間に色々と伝えるわ』
そう言って進み出したヴァインタに遅れまいと、私は慌てて駆け足で後ろを追った。
◇◇◇◇
ヴァインタが歩きながら話し始めた。
『まず、どこから始めようかしら。私の存在から話し始めた方がいいわね。まず、周囲にマナがあるっていうのはわかっているかしら』
私は首を横に振った。そんなファンシーな物質は私が知る限り地球には存在していないはずだ。
『そこからね。マナっていうのは目に見えないそこらへんに漂っているものよ。すべての生き物はこのマナを吸収していて、活動とともにそのマナを消費しているわ。種によってその消費の仕方が異なるけれど、大抵の種は体内のマナを強化に使っているわ。他には体表を凍らせたり、燃やしたり、はたまた周囲と同化するようにしたり色々な使い方があるわ』
ほんとうに異世界らしい物質だ。
『そしてワタシ達精霊はそのマナを多く吸収し、マナのみによってその体を構成しているわ。だからほら』
ヴァインタは体の形を二メートル越えの超身長にしたり、はたまた一メートルほどの子供にしたりと変形して見せた。
『形は一つに定まっていないわ。強いて言うならアンタに最初に見せた形が一番元々の形に近いけど、特にこれと言った形は持たないわ。だからアンタと会話するみたいな明確な自我を持っているものの数は極めて少ないわ。だから『上級』って言っていたりするの。そして、『中級』は漫然とした自我を持っているもの、『下級』はただのマナの塊と言った感じね。ただ、普通にマナが一時的に固まることは多々あるから下級精霊っていうのはあんまり精霊とは呼ばないわね』
つまりヴァインタはファンシーな物質からできたファンシーな存在ってことか。
『そして、マナにもある程度種類があるわ。大まかに二つ、陽と陰よ。陽のマナを魔素、陰のマナを呪素と呼んだりもするわ。というのも、陽のマナは比較的多くの生物にとって有益であって、陰のマナは害を及ぼすことが多いからよ。ワタシたち精霊も、陰のマナが多い空間に居続けると自我を失って、『呪精霊』になってしまったりするわ。そうなると、世界を滅ぼそうとする衝動に従って、力の限り周囲の生物を滅ぼそうとし続けるそうよ』
何それ、ちょー怖い。というか出会ったらおしまいな感じがプンプンするな。
『一度呪精霊になってしまうと、二度と下の精霊に戻れなくなるのよ。だから私がアンタを案内できるのはしばらくの間だけ、そうじゃないとここら辺に僅かにある陰のマナを吸い込んで呪精霊になってしまうわ』
えっ、っていうことは今でもちょっとやばいのか? 少し離れておこう。
『いや、いま直ぐに呪精霊になるっていうわけじゃないわ。ただ私がここに存在する間、陰のマナを吸収していって、一定のラインを越えないと成れないわよ。まあ、少し余裕を持って帰るつもりだわ』
まあ、本人が大丈夫というのだから大丈夫、なのか?
『そして、まあ、あんまりお勧めしないけど、精霊を連れていくっていう方法もあるわ。マナを多く溜め込んだ鉱石である『精霊結晶』を加工して、自分の陽のマナを注ぎ込んで『精霊の宿木』を作ってあげて、精霊をそこに入れるようにして連れていくっていう方法ね。でも、これだと『精霊の宿木』を作るために多くのマナが必要だし、しかもこれで精霊が外に出て来れる時間はごく僅かしかないわ。だから精霊を連れているニンゲンは少ないのよ』
つまり、いま精霊が時間無制限で使えて、陽のマナの消費なしで使えるチート状況ってことか。このチートを活かさねば……。敵をやっつけてもらう? いや、いま敵はいないし……。う〜ん、チートを活かす手立てがないぞ。
『あと、ニンゲンは魔法が使えるから精霊を連れるメリットが無いわね』
魔法!待っていました。やっぱり異世界といえば、魔法でしょう。
『魔法は、マナを消費する手段の一つで火を起こしたり、水を生み出したりするわね。ニンゲンの中には雷を操るものもいるわね
夢が広がるなぁ。
『ちょっと近寄らないいでよ。ほら魔法のこと教えてあげるから。……だから離れなさいってば。……ふう。それで、魔法を使うにはこの道具、杖が必要なのよ。それを手に持って【心地よいそよ風を起こす魔法】と唱えてみなさい』
ヴァインタから杖を受け取った。なんの変哲もない木の棒にも見えるが、杖と言っていたので魔法が唱えられるのだろう。
「……【心地よい、そよ風を起こす魔法】っ」
私が唱えると、辺りを柔らかなそよ風が駆け抜けた。
『とまあ、こんな感じよ。ワタシがいる間に初歩的なことは一通り教えるつもりだわ。本格的なことになると詠唱やら魔法陣やらを使うらしいけど、知りたかったらニンゲンの街に行きなさい』
そういうと、彼女は上方へと飛び上がり、辺りをキョロキョロと見渡した。
そして降りてきて言った。
『近くに水源があるようね。今日はそこら辺で野宿をすることにするわ』
まだ物語は始まったばっかり……。




