Day2-1 カモフラージュ
「ん……あ〜〜」
伸びをしながら目を少しだけ開けると、カーテンの隙間から差し出す陽光が僕を突き刺した。
「眩しッ……光度間違えてない?」
スマホを確認する。表示は8:00。いつもより早めの起床だが、寝たのも早かったから睡眠時間は長めかもしれない。
ねぇ凪、ゲームの開始時刻って何時か分かる?てか起きてる?
〔……まず一つ、憑者に睡眠の概念はない。二つ、私は万能ではない。そして三つ、起きて一言目にする話ではない〕
……まぁ、そうだね。
〔というか、長らく主を見てきた我が言うことでも無いのだが……順応が自然すぎないか?〕
え?
〔こんな訳の分からない空間で迎える二日目、「夢じゃなかったの!?」など言うかと思えば……まさか一言目が「眩しッ……」だと?〕
う、うーん……それを僕に言われてもね。このゲーム、怯えた先から負けるんだから。
「さてと……ん?」
ベッドから起き上がったところで気付いた。昨日、シャワー浴びてない。
「うっわ最悪だ、てかなんで浴場もないんだこのホテル」
意識したら痒くなってきた気がする。僕は急いでシャワーを済ませ、とりあえず夕食の席で聞いた理宮の部屋に行くことにした。
彼は小3の時に僕の近所に引っ越してきた。修学旅行でも部屋が同じだったのだが、僕はその時地獄を見た。
端的に言うと彼は。
「はーあ。絶対こんなことだろうと思ったよ」
絶望的に寝相が悪いのだ。
「……何がどうなったらこうなるんだよ」
まるで漫画のように、口を大きく開けながら腹を出し、手は頭を中心に点対称となっている。そして何故か割れているテレビ、その原因を示すように床に落ちている枕。シーツはベッドの上でのたうち回ったとしか思えない程に乱れ、掛け布団はベッドの下に潜り込んでおり、そもそもベッド自体が初期位置と90度ズレている。この部屋は現代アートか何かだろうか?
理宮は布団に縛り付けないと眠れないのか?
「う……ぁぁ……あれ、仙っ……」
片目を開いて眠そうに伸びをした理宮は、僕に気付いて名前を言おうとした所で硬直。
「……やっちゃった?」
「うん。やっちゃってる」
「……はーあ。これに関しては僕を知らない運営側に不手際があるってことにならない?勝手に参加させられてるし」
「まぁ、理宮がいいならいいんじゃない?」
「そうだな」
―――
昨夜と変わらず食事は無料だった。説明し忘れていたが、このレストランはバイキング形式である。
「理宮」
「はひ?」
「……いや、何でもない。うぅ……」
前回は夜だったからまだ分かる。だが、幾ら何でも朝から食べ過ぎではないだろうか。
「……んっ……あー。仙煌、少食すぎじゃないか?今からどうせ地獄が始まるわけだし、死ぬ前に食べまくるのもいいと思うけどな」
言われてみれば確かに、戦いの前にしては食事の量が少ない気もするが。するが……!
「理宮には言われたくない。なんだその魚の量は」
「僕は記憶に割くリソースがえげつないんだよ。運動用のエネルギーも含めたらまぁ、このくらいが適量適量。あと、魚を食べると頭良くなるって言うしね」
「DNA?」
「DHA。遺伝子って食べるもんなの?」
「単体じゃ食わないでしょ、食べ物に入ってたりすんじゃない?」
こんな会話を繰り返していた。一つ一つの行動が生死を分ける場に放り込まれると、人は逆に冷静になるのかもしれない、と少しだけ思いながら、僕らはレストランを後にした。初めに言っておこう。今日と明日はかなり簡単な日だった。明後日に起こる惨事を覆い隠すためのカモフラージュだろう。いずれにせよ、このゲーム自体が碌なものではないが。




