連合
「ーー=皿=……ーー!!皿!!ーー」
奴隷は、思い出したように仮面に手を当て、力を入れて壊した。仮面は異音を立てながら粉々に割れ、中から溶けかかった顔が現れた。
「ーー◯皿>=<◯✕ーー」
どこで呼吸しているかは不明だが、ともかく荒い息をしながら奴隷は拳を握りしめた。
「ーー|?皿?……?《あれ、俺なんでこんな所いんだっけ》ーー」
奴隷はしばらく首を傾げた後、声を上げながら剣を振り回した。
「ーー|…!!皿=:::>:::>…《ああ、なんかガキを殺せとか言われてたな》ーー」
「ーー|>>’皿<:::皿<=>《殺しゃ帰れんのかな》ーー」
―――
「理宮……」
仙煌が暴れ始めてから5分が経過した。次々に斬られていった巨神鬼の死体はデスポーンせずに残り続け、その巨躯が街のあちこちを塞いでいる。いくつかの個体は倒れ込んでおり、下にあった建造物や人間を悉く潰していた。
「とりあえず一回逃げましょう。仙煌さんは屋外で暴れ回ってるので、ひとまずどっか建物の中に!」
上空を飛び回る仙煌を見て、陽は理宮にそう提案した。
「……いや、それだと屋内の僕らに気付かない仙煌が出した技で、巻き添えを食らう可能性がある。見つかる危険を加味しても、屋外の方が安全性は高いはず」
「……確かに」
陽は目を瞑り、指先でこめかみをトントンと叩いた。暫くの間を置いて納得した陽は、「ならさっさと安全そうな場所に行きましょうよ」と理宮を急かした。
「そう急ぐなって……あ、着信」
ポケットに入れていた端末が振動した。理宮が端末を引き抜いて画面を開くと、移っていたのは翼の名前だった。
「もしもし?翼?生きてるのか?」
〈こっちの台詞だ!生きてたんだな、良かった……〉
お互いがお互いの無事を知り安堵している。
〈能力使って情けなく逃げ回ってたら、仙煌が急に現れて巨神鬼をなぎ倒してくれたんだ〉
彼は仙煌の現状と心境を知らない。確かに、相手が巨神鬼という狂った強さの敵であるため、「守ってくれた」と認識しても仕方がない。しかしあれは紛れもない「暴走」である。不安定に揺れ動く感情が、彼らに牙を剥かないとは限らない。
「要件は?」
〈お前と合流したい。場所を教えてくれ〉
「悪いけどここに目印になるものはない。一番近いのは、少し前に巨神鬼がぶっ壊したタワーの跡地かな」
〈了解。じゃあ俺もそっちに行く。死ぬなよ〉
「ああ。君もね」
理宮は通信を切った。
「誰ですか?」
「心強い味方だよ。さ、行こう。あいつは足が速いんだ」
「よぉ、理宮。数日ぶりだな」
「そうだね、翼」
「まず無事に合流できたことを喜びたいんだが……そいつは?」
「……あ、僕ですか?僕は揺葉陽といいます。よろしくお願いします」
「そうかい。俺は朴牧翼だ、よろしく」
翼と陽は握手を交わした。
「さて、合流できたはいいんだけど、翼はこっから何するか決めてたりする?」
「決めてねぇ。ただ合流したほうが生存率が上がりそうだと判断しただけだ」
「そうかぁ。じゃ……この後の流れは僕が決めようか」
そう言って理宮はこの街の全体図を頭に浮かべた。
(仙煌が暴れてるのは街の南側。巨神鬼の死体は北側に大量にあって、そいつらを壁にすれば安全に移動できなくもないか……)
「……よし、北に行こう。まず仙煌から離れることを優先する。弱い鬼が出てきたら瞬殺できるくらいのメンツは揃ってる。巨神鬼が出てきたら……その時は逃げに徹するしか無いけど、それはどの方角でも同じだ」
「ちょ、ちょっと待ってください」
陽が理宮を止めた。
「理宮さんは仙煌って人に助けてもらったんですよね?僕らが巻き込まれるかもしれないから遠ざけようとするのは分かるんですが、なんで理宮さんまで?巨神鬼を単独で何体も倒せるような人なら近くにいた方が安全なんじゃないですか?」
「うーんと、その辺りを説明しようとするとややこしくなるんだけど……」
救出されたのは事実。しかしその後理宮の説明を聞き入れずに戦闘を開始し、挙げ句暴走した仙煌の近くに行くというのはいくらなんでも信頼より恐怖が勝つ。
「やむにやまれぬ事情があったってことにしといてほしいな」
「わかりました。それじゃあ、理宮さんに従って、北の方に――」
――突如、「ズガァァァン!!」と轟音が空間を駆けて、理宮たちの耳を裂いた。
「びっ、くりしたー……雷?」
「だとしたらどんだけ近くに落ちたんだよ」
「そもそも光って無くないですか?」
「光ってないけどさ、例えば能力なら……いや、無いか」
理宮は、雷を扱う鬼がいなかったことを何度か脳内で確認したうえで、音源があったであろう上空を見た。
「ん、あれ?見間違いかな……」
「どうかしました?」
「空に、穴が空いている」




