運命が重なる一点
――仙煌が眠りに落ちてから2時間。
「……」
仙煌は無言で目を開けた。先刻倒した巨神鬼の死体はデスポーンせず、その上新しい巨神鬼がまた一体増えている。
「……理宮」
錯乱状態から抜け出した仙煌は、生まれて初めて理宮への疑念を抱いた。
(あいつは誰だ?何故理宮と一緒にいた?何故理宮はあいつを庇おうとした?何故僕は……)
転、それは自分への疑念と変わる。
(何故僕は、こんなにもあいつに殺意が湧いている?このどうしようもない感情は何なんだ?)
巨神鬼に踏み潰され、荒らされ、焼かれる街を、空っぽの精神でただ呆然と見つめながら只管に仙煌は思案する。
(……理宮は?)
満身創痍で落下し、理宮がそれを受け止めたところまでは覚えている。
(……巨神鬼に挑んだ?勝てるわけ無い。僕ですら敵わなかったのに。弱者が、僕より劣っている存在が勝てるわけ無い。誰かが僕に勝つ筈がない。僕が。僕が。僕が。僕が。僕が。僕が。僕が。僕が。僕が。僕が。僕が。僕が。僕が。僕が。僕が――)
誰かのために戦うというプライドが歪み、誰かから守られる――自分より強い誰かに敵を倒される事に、酷く屈辱を感じるようになってしまった。それに加えて理宮への執着……合わさって生まれたのは、理宮を自らの庇護下に永遠に置くという選択だった。
―――
強いという事は、逆に弱さにもなり得る。誰も油断せず、対等になろうとする人間は誰一人として現れない。表面的なコミュニケーションに問題がなくても、彼はずっと疎外感に苛まれていた。
「あの時っていつ?何時何分何秒、地球が何回回った時?」
小学3年生になったばかりのある日の昼休み。同じクラスにいた校内でも有名な悪ガキが、大人しそうな別の少年に絡んでいたのである。
「3日前の昼過ぎ……1時23分52秒」
少年は一切動じること無く、冷静に答えてみせた。
「地球が何回回ったか答えてないからノーカンでーす!」
悪ガキは頭を人差し指でトントンと叩き、少年を煽った。
恐らく何かの約束を反故にされたのだろう。哀れに思った仙煌は、悪ガキに近づいて肩を持った。
「……自転か公転かによって話が変わってくるけど、君はどっちの回答を想定していた?」
「は?訳わかんねぇ事言ってんじゃねえよ」
「自転と公転。知らないのか?」
「知らねぇって!つか何なんだよお前さっきから!」
頭に血が上った悪ガキが、仙煌を振りほどいて殴ろうとする。しかし仙煌はそれを軽くいなして背後に周り突き飛ばした。
「定義できないなら何で聞いたんだよ。質問の意味がないじゃん」
「うるせぇ!変なことばっか言いやがって!」
完全に逆上した悪ガキは、椅子を持ち上げて仙煌の方へと突進した。否、進路上に仙煌がいただけで、本来の目的は――
「その子は関係ないだろ!」
発端となった少年だった。勝てないと踏んだ悪ガキは、見るからにヒョロい少年を標的にして八つ当たりに走ったのである。
「ひっ……」
少年もここまでくれば冷静さは崩れ、目に涙を浮かべながら腕で顔をガードした。仙煌は理宮の前に立ち、彼にかかるダメージを少しでも減らそうと真正面から勢いを相殺する覚悟を決めた。その時だった。
「白山くん!何してるの!」
騒ぎを聞きつけた担任が急いで教室に駆け込んできた。白山と呼ばれた悪ガキを見るやいなや、鬼の形相で椅子を取り上げて腕を掴み何処かへ連れて行った。
「……あ、ありがとう」
「いいよ全然。寧ろごめんね、僕が余計な事しなければ、あいつがあんなに怒る事は無かったのに……」
仙煌は頭を深く下げ、小学3年生とは思えない謝罪をした。
「そ、そんな事ないよ。あのままじゃ謝ってももらえなかっただろうし」
「いやいや、何かお詫びでも……」
「いらないって。助けてくれただけで十分だから!」
「あれを助けたって言えるのか?首突っ込んでややこしくしただけじゃん」
「いやだから……」
少年は拒否するが、仙煌は一向に譲らない。数十秒ほど押し問答が続いた後、ついに諦めた少年は少し恥ずかしげに言った。
「そこまで言うなら、1つだけ……」
「何?」
「ぼ……僕と友達になってよ、仙煌くん」
「……そんな事でいいの?」
「いいよ。僕、昔から記憶力が良くてさ……気持ち悪いくらい物事を覚えちゃってるんだ。そのせいで、誰がいつ何をどうしたとか、全部頭の中に残りっぱなしで……それで、段々友達が離れてくんだ」
「……」
「でも、仙煌くんって確か運動も勉強もできるし友達も多いんでしょ?僕みたいな人間が友達でも、何も言わずにちゃんと……「人」として見てくれそうで……」
(人として、か……)
完璧であるが故にぼんやりとした疎外感を覚えていた仙煌。覚えすぎるが故にはっきりと疎外感を覚えていた理宮。彼ら二人に落ち度はなく、ただ周りが正常に認識を下せない。周囲の人間を狂わせる「チート」である者同士、彼らはどこか惹かれ合う物があった。
「君、名前は?僕まだクラス全員の名前覚えられて無くて」
「理宮高助。よろしくね!」
「!……ああ」
屈託のない笑顔に当てられて、仙煌も思わず笑顔が出てしまった。




