Day1-4 記憶と適応のコンビネーション
……理宮の動きは、明らかに人間のそれじゃない。あの声は、このゲーム内では僕らの体は頑丈になるとか言ってたけど、身体能力の上昇には触れていない。
多分あの声は、意図的に不利益を隠していたことを追及されたときの言い訳として「聞かれなかったから言ってない」とか宣うタイプの性格な気がする。聞けば解決するだろうけど、そもそもアクセス方法が分からない。
「まぁでも瞬間移動してるしな……」
蹴りメインで、やたら瞬間移動を繰り返しながら戦闘している。現実世界じゃまだ実現のじの字も無い未来技術を易々と使っている様を見るに、やっぱり何かしらの特殊能力を得たと考えて間違いないだろう。
「…僕にも宿ったりしないのかな」
淡い希望を抱きながら、指を咥えて見ているしかない自分に嫌気が差していたその時だった。
脳内に、知らない声が響いたのだ。
〔…ようやく。ようやく我の出番が来た!〕
だ、誰?
〔我は主の憑者、凪と申す〕
ひ、憑者?
〔我ら憑者を持つ者…主のような依者を強化できる存在だ。ただし、認識しなければ力は得られないがな〕
凪と名乗る声は、訳の分からないことを次々と口にした。
憑者、依者、認識云々。それら全てが、僕にとっては意味不明な単語の羅列だった。
…で、何がしたいわけ?僕を乗っ取るつもりじゃないだろうな?
〔そんなつもりは毛頭ない。そもそも憑者は依者に尽くすもの、害を与えることなどあってはならない〕
へー、そんな奴が僕の体に宿ってたのか。認識しないとってことは、それ以前からいた可能性もあるけど。
〔流石主だ、鋭いな。少なくとも幼稚園の頃から、私は主の憑者だった。出てこれなかったたのは、あの世界がやたらと息苦しいからだ。だが、この空間は不思議と我々が息をしやすい。恐らくは〕
依者が集められてたりする可能性がある、とか?
〔その通りだ〕
じゃ、チーム組めば解決じゃん!スコア稼げば皆助かるわけだし!依者なら、一般人より全然強いわけでしょ?
〔当面の目標はその方が良いだろう…だが、ここで死んではそれすら達成できない。主は今、私をはっきりと認識している。つまり!〕
謎パワーを得られるわけでしょ?分かってるよ。
〔…察しが良すぎるな。まぁ、ウェポンについて軽く触れるとすれば――水だ〕
は?水?ってか、ウェポンって何?
〔ウェポンは能力、主に活用する能力の名前だ。主は攻撃に水属性を付与できるウェポン。基本は肉弾戦だが、やろうと思えば水圧で切り刻んだり、レーザービームの如く水鉄砲を撃ったりもできる〕
…どうせ鍛えないと使えないんでしょ?いいや、もう普通に肉弾戦で…
「潰す」
僕は飛び上がって、力鬼に空中でパンチを食らわせた。
「仙煌?」
「加勢する!今なら…」
理宮の顔が、少し悲しそうに見えた。
「理宮?」
「…なんでもない。ただ、やっぱりお前は主人公なんだなって」
屈託のない笑顔で、理宮はそう言った。
「あ…りがとう。じゃ、このまま続行で」
「ああ」
理宮は力鬼を駆け上って頭を踏みつけ空中から重力に任せて拳を打ち込む。そこから少し遅れて僕が腹部を殴り、続いて蹴り。
「仙煌!躱せ!」
力鬼の背面にいる理宮から指示が出たので、バックステップで回避。
「今だ!」
僕は振り下ろされた手にかかと落としを、理宮は背中を蹴りつけた。
「ΑΑθθφφΝππφφΟΟΟ」
「まだ倒れないの?」
僕は一度距離を取って、様子をうかがった。
〔…主よ。一つ、言っておくべきことがあった〕
何?
〔依者にはウェポンとは別に、スキルというものが存在する。まだ一種類しか使えないが、それでも威力は十分だ〕
へえ…そんな便利なものがあるなら最初に伝えてくれればよかったのに。
〔主が勝手に走り出したのだろう?まぁいい、ともかくだ。やり方は単純〕
僕は再び走り出した。
〔基本的にスキルは叫ぶことで発動する。高らかに叫べ。流河拳と〕
…恥じらったらダメな奴かな、これ。
「…りゅ、流河拳!」
何度も殴った腹部に、更に一撃を食らわせた。
―――
助けに来られてしまった。
「…ははっ」
ま、所詮僕はその程度の器だったってことだ。むしろ感謝するべきだし、仙煌はなんにも悪くはない。でも。
「ちょっと、早すぎるかな」
「り、“流河拳”!」
唐突に仙煌が訳の分からないことを叫び、色鬼を殴り飛ばした。
…あれ?全然威力違くない?
〔ああ、あれはスキルというやつだね。君にも出来るよ、特定の動作を踏めば〕
じゃ、教えてくれよ。むしろ教えない手はないでしょ。
〔…保存した場所にワープしたタイミングで対象の体が重なった場合、君の記憶時の体の向きに応じて吹き飛ばせるんだ。そうだな、ムーブバンパーとでも呼ぼうか〕
あんまりかっこよくない。そもそもダメージ入らないし。
〔まぁまぁ、モノは試しにってわけで、叫ぼうか〕
「はぁ…いや、あの位置には保存してないから、一旦――」
僕は仙煌のスキルで仰け反った色鬼の背後に近寄り、保存。そして色鬼を蹴って退避。
「仙煌!色鬼をもう少しこっち側に寄せられないか?」
「分かった!じゃ、もう一発!」
威勢の良い返事を上げて、仙煌はまた「“流河拳”!」と叫ぶ。
「ナイス仙煌!これで――」
〔重なったね。今、このタイミングだ…!〕
「“ムーブバンパー”!!」
一瞬だけ視界が真っ暗になった直後、色鬼が思い切り前方に――前方?
まずい、仙煌が巻き込まれる形で前方に吹っ飛んで――
「こっちに…来んなッ!」
仙煌は巨大な質量を回避して横から殴り飛ばし、脇にあったビルにぶつけた。
「ΦΞπΝΝΝΝΝΝΝ」
倒れ込む色鬼。
「…なるほどね、一つ思いついたんだけど…」
僕は色鬼に近づき、保存してから離れる。そして、起き上がってきたその瞬間。
「もう一発!“ムーブバンパー”!!」
ムーブバンパーで飛ぶ方向はおそらく、保存時の僕の体の向きによって決定される。先ほどのムーブバンパーで、視線の方向へ飛んでいったのが証明になってくるだろう。
つまり、体がビルの方向を向いていれば。
「色鬼は、ビルにめり込む!今だ仙煌!」
「分かってる。トドメは、僕が」
走って近づく仙煌。ちょうどそのルートに、僕が保存した位置が含まれていた。
「…どうせなら…“ムーブバンパー”」
僕は仙煌にムーブバンパーを発動して吹き飛ばす。
「え?なんで?」
「勢いがある方がいいだろ?スピードはパワーなんだから」
「いやそうだけど…まーいいや」
仙煌は、叫んだ。
「“流河拳”!」
この日、僕達は一歩を踏み出した。
「「色鬼…撃破だ!!」」
―――
「はぁ…はぁ…」
理宮は、息を荒くしている僕に近づき、無言で軽く手を上げた。
「ん?え?」
「いや、ハイタッチでもしようと思って」
なるほど。二人で倒したわけだしね。
「じゃ、タッチ」
パンッ、と、僕はすれ違いざまに手を思い切り叩いた。




