DETA ALPHA.072
「おい、ラジーム」
「言わなくてもいい。アルゲイトの態度は明らかに不審だった」
「上層部は何を企んでやがんだ?」
「分からんが、ともかくここは嫌な予感がする。隙を見て脱出するぞ」
「テメーが仕切んなって。分かってっから」
施設の内部構造は複雑怪奇であり、案内図を見たところで頭が痛くなるだけだった。上下だけならまだしも左右がある。階別の平面図の横に、90°回転した全く別の平面図がある様子を想像して欲しい。そして自分たちの現在地が、何故かその横になった平面図の上にある。
「ラジーム?地図の内容が全く分かんねぇ。何でこんなややこしいことになってんだ?」
〈推測だが、万一にでも依者を脱走させないためではないだろうか。脱出を目論む者がいたとして、どうにかして地図を入手したとしてだ。言語は分からず、おまけに図面は難解極まりない。憑者の能力を持ってしても脱出するのは困難だろう〉
「結果がこれなら本末転倒じゃねぇか?」
〈私達は部外者だから知らなくて当然だが、勤務していれば覚える。内部の人間は困らないのだろうな。内部の人間は〉
ラジームは最後の部分を強調して繰り返した。薄々腹立ってんだろうな。
「……なんだこれ」
〈どうした?〉
目の前にあったのは、煌々と輝くタイルだった。
「いや、何か一箇所だけ光ってる床があってな」
〈……ヒドロ、それに触れるな〉
「はぁ?心配しなくても触んねぇよ、どう見ても転送装置じゃねぇか。変な場所にすっ飛ばされちまう。お前、俺がそんな致命的な馬鹿だと思ってんのか?」
〈思っているが〉
平然と言い切りやがった。
はぁ……それにしても、どう脱出したものか。正面の出入口は塞がれた。あのシャッターを壊そうと思ったがアホみたいに硬い。おまけにこの施設には窓が全くと言っていいほど無い。外に繋がるルートが悉く塞がれている。
「……ああ、そういや」
〈どうした?〉
「何でもねぇよ、思い出しただけだ。集中したいから一旦切るぞ、そっちはそっちで頑張っててくれ」
〈はぁ!?急に何を……まさかお前―――〉
俺は通信を切った。嘘はついていない、俺は集中して作戦を練りたいから通信を切った。しかしもう一つ、ラジームには隠した事がある。恐らくバレかけているが、成功しさえすればこっちのものだ。
依者を解放する。無効化されているだけで、集団で閉じ込められている彼らにすれば、この施設の制圧など容易いもの。言語が通じないという点は、「フィルター」を介せば解決する。
「監視カメラの偽装、依者たちからの信頼の獲得、脱出後のための工作……運が良ければどうにかなるか。後は……」
俺は転送装置を見た。もしもの時のために、これを……




