METAMORPHOSE2-2 「最凶の技」
足に血液を貯めるイメージで、水を集める。それを土踏まずから垂直に噴出して――
「“流河脚:滝登”」
空中への爆発的な推進力を得る。
「“流河脚:爆噴空走”」
水を出し続ければ、決して速くはないが飛行できる。しかし今回は時間がない。
理宮が上空に投げ出された。体が液状化した僕ならともかく、物理的ダメージをもろに受ける理宮の体では落下死は免れない。
「……見つけたッ!」
理宮ら巨神鬼の背後、完全な死角にいた。
「理宮!手を!」
僕に気づいた理宮が、こちらに向かって手を伸ばす。足の向きを変えて逆噴射して勢いを殺し、理宮の手を掴む。
「安心して……って、あれ、理宮……泣いてる?」
「いや、違う、そんなわけ…………」
理宮の目元が腫れていた。不安か、死を覚悟したのか。どのみち、僕がもっと早く気付いていれば済んだ話だ。ともかく僕は、できるだけ巨神鬼の攻撃を喰らわなさそうな場所に理宮を送り届けた。
「一つ気になったんだけどさ」
「……何?」
「何であの巨神鬼は、あんな訳の分からないところから唐突に出現した?アラートみたいなのも無かったけど」
「あいつは姿を変える。僕らは氷鬼:重鎧体と戦ってたのに、いつの間にか穿孔体、でアレに変わった」
「んー、巨神鬼より強い鬼なんていないし、流石にそこから変化してくることは無いだろうけど……」
「だったら最初から巨神鬼でいいだろ。そこに何か狙いがあるんじゃ…………」
「分かった。十分警戒しとくよ。理宮はそこで待っててくれ」
僕はさっきと同じように、足に水を溜めて、噴射した。
「流刀・雫魚」
雫魚を呼び出し、抜刀……と言っても鞘なんて無いが、構えを取る。
「“流剣:調調溌始”」
刀を思い切り横に振る。ここから始まる一連のコンボの始動技となる、さほど威力の高くない攻撃技。
「ΦΦΦΦΦΦΦΦΦΦ」
「あれ、あんまダメージ入ってなさそう?」
巨神鬼の視線が僕に向く。
まずい、これッ――
力鬼:重力体にはミニブラックホールと超重圧砲が、氷鬼:穿孔体には貫通氷砲があるように、強い鬼は大抵技を持っている。変異体以外にも、例えば将軍鬼は宝刀一閃や名采配などの技を持っているわけだが、こいつらは基本的に多くて3つまでしか技を所持していない。
しかしこの巨神鬼は合わせて5つもの技を持つ。今放たれたのはそのうちの1つ、威圧。「視界阻害」「機動力低下」「攻撃力低下」「防御力低下」「攻撃モーション鈍化」「パッシブスキル無効化」というあらん限りのデバフをぶつけるクソ技だ。一度に1人までしか掛けられない制限こそあれど、これを食らうとまともな戦闘が困難になるレベルには害悪。
断言する、このゲームに於ける最凶の技は間違いなく、巨神鬼の威圧だ。
刹那、視界が文字通り二転三転。続いてやってくる例え難い激痛、そして吐血。
〔主!理由は分からんが、液状化が出来なくなっている!〕
「はぁ!?何で……」
ふと思い出す、威圧の効果「パッシブスキル無効化」。液状化がパッシブスキル判定を喰らったのだろうか。いずれにせよ、この状況は非常にまずい。ゲームならいざ知らず、液状化無しの僕でまともに太刀打ちできるなんて、到底…………
「違う。違う違う違うッ!」
甘えるな、僕が倒れたら、誰がこのイカれた化け物を倒す?
「凪!グレードを―――」
「そこまでだ。止まれ、センコウ」
聞き慣れない質の声が聞こえた途端、僕の意識は途切れた。




