METAMORPHOSE2-1 巨神鬼
「ΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩ」
攻撃が当たったにもかかわらず、依然体勢を崩さず、再びさっきの鳴き声を繰り返す。
「へぇ、こういう変身の仕方か……」
「……!分析してる場合じゃないです!」
「はっ―――」
刹那、僕は宙に舞った。高度は街の中心にあるタワーの展望台付近にまで達し、真下には何者かの肩。
状況からすぐに、こいつが何なのか、僕は直ぐに分かった。これに関しては、記憶はあんまり関係ない。というか、こんなのプレイヤーなら僕に限らず分かって当然だ。
僕達プレイヤー……とりわけ高ランク帯のプレイヤーは、こいつに何度辛酸を嘗めさせられたか分からない。
「きょ、巨神鬼……!」
丁度肩の位置にいたから、変身と同時に吹っ飛ばされたのか。
こっからテレポートしたところで、さっき記憶した位置じゃ踏み潰されて死ぬ。この高さじゃ、多少頑丈に設定されてても間違いなく死ぬ。このままグダグダしてたら、至近距離にいた陽が死ぬ。もしかしたらもう死んでいるかもしれない。
「逃げろォォォォォ!!!」
陽の連絡先を知らない僕は、ありったけの声を振り絞って叫んだ。この高さから通じるとは思ってないが、それでも僅かな希望に賭けて。
巨神鬼――同試合内で変異体が二体以上倒された際に確率で、四体を超えるとその瞬間に確定で出現する。そもそも変異体が出現しない試合すらあるにも関わらず、変異体が出現しないければまず見られない激レア鬼。その戦闘力は紛れもなく、最強。
「れ、連絡……」
なりふり構っている暇はない。下手したらあと数分で、ここにいる全員が死ぬ可能性があるのだ。僕が落下しながら仙煌に連絡している間、巨神鬼は丁度目の前にあったビルを引っこ抜き、薙ぎ払った。子供がおもちゃで遊ぶように、軽々と。
「仙煌ッ!」
〈知ってる。今どこ?〉
「巨神鬼の背面!多分あと数秒で地面に……」
〈分かった。直ぐに行く〉
通信は切れた。
そうだ、僕が間違っていたんだ。大人しく、仙煌に頼って、変な意地を張らずに守られていればよかったんだ
僕が……僕が……出しゃばらなければ。
「理宮!手を!」
仙煌の声だ。僕は言われるがまま手を伸ばした。首だけ動かして確認すると、確かにそこには仙煌がいた。
「安心して……って、あれ、理宮……泣いてる?」
「いや、違う、そんなわけ……」
僕は目元に手を当てた。確かに、微かに湿っている。
僕の知らぬ間に僕は泣いていて、僕の知らぬ間に仙煌は強くなっている。僕は何も理解できていない。
鬼から離れたビルの屋上に、仙煌は僕を送り届けた。
「一つ気になったんだけどさ」
「……何?」
「何であの巨神鬼は、あんな訳の分からないところから唐突に出現した?アラートみたいなのも無かったけど」
「あいつは姿を変える。僕らは氷鬼:重鎧体と戦ってたのに、いつの間にか穿孔体、でアレに変わった」
「んー、巨神鬼より強い鬼なんていないし、流石にそこから変化してくることは無いだろうけど……」
「だったら最初から巨神鬼でいいだろ。そこに何か狙いがあるんじゃ…………」
「分かった。十分警戒しとくよ。理宮はそこで待っててくれ」
その言葉を最後に、仙煌は飛び立っていった。
「……はは」
結局、僕は仙煌に頼りっぱなしだった。湧いて出た強敵すら、自分の力で倒せない。
「う…………ぁ」
どうしようもない声が漏れ出した。やがて積もりに積もった声が僕の喉から決壊して――
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
虚しさが。無力感が。寂しさが。劣等感が。絶えず撹拌され続けた僕の心が、遂に限界を迎えたような気がした。




