METAMORPHOSE-1 ボスバトル開始
「姿が変わった?」
意味がわからない。運営は何を思って、この地獄に新たな鬼を加えた?そもそも、この世界はどういうシステムで動いている?
「はい。僕が見たときは色鬼、それも重鎧体でした。でも今は力鬼にしか見えません。一応聞くんですけど、「変化鬼」みたいな名前の敵っていませんでしたよね?」
「うん、いないよ。いたら面白そうだとは思うけど」
嘘ではない。これがちゃんとしたゲームなら、僕は運営を大絶賛していたことだろう。
「ゲームなら良かったんですけどね、こんな状況じゃ……」
「……まぁ、細かいことは後で考えるとしよう。まずその鬼を倒すのが先決だ。君、名前は?」
「揺葉陽って言います」
「陽だね、よろしく。僕は理宮高助。ところで陽、君のウェポンは?」
「氷属性付与です。凍らせたりとか、気温を下げたりとか。理宮さんは?」
「僕は……なんて言ったらいいんだろうな、メモった場所にワープする、みたいな。今は二箇所まで設定できる」
「移動系ですか。分かりました。で、問題は……」
陽は振り向いて後方を確認し、鬼との距離を測った。
「……あれ、違う。まただ……」
「また?」
「今度は氷鬼になってます。しかもあれ、変異体じゃ…………」
陽の顔がみるみる青ざめていくのがはっきりと分かる。僕も振り向いてみると、そこに「見たくないもの」が佇んでいた。
「……ビームタイプの……重鎧体?」
極端な話、頭のてっぺんから手足の末端に至るまで、完全に武装した狙撃手に誰が好き好んで挑みに行くのか。被弾すれば行動不能、接近したとて攻撃が通らない。
僕は火力が足りない。FPS値が高いのは陽だから本来そっちに任せるべきだけど、彼のウェポンは「氷属性付与」。使ったところで火力の上昇は期待できない。
「変化の条件か、もしくは変化に要する時間が知りたい。そしたら確実に倒せるんだけど」
「……いいこと思いつきました」
陽は、乗っている何かを、かの有名なスライドブレーキで急停止させた。
「はぁ!?なんで止まって……」
「思い出して下さい。氷鬼のビームに物理的な破壊力はありません。接近すれば、倒すことは出来ませんが、倒されることはなくなります」
陽は、訝しむ僕を無視して話を続ける。
「ちょっと待って、まさか……挑むつもり?」
「はい。それ以外ありませんよ」
正気を疑った。不確定要素がいくつもある強大な相手に、今しがた会ったばかりの僕と挑むだと?
「考えてみて下さい。ほっといて巨神鬼とか、色鬼の無差別体に変身されたらたまったもんじゃありません。それに、これ以上死人を増やすのは御免です」
「…………」
「作戦を細かく言ってる時間はありません。理宮さんは僕の指示に従って下さい。別に危険なことにはなりませんから、そこは安心して下さい」
「わ、分かった」
「至って単純です。理宮さんは周辺のビルを片っ端からぶっ壊してって下さい」
「自分から遮蔽を崩しに?」
「違います。遮蔽を作るんです。あとは僕が突っ込むので、理宮さんはビル伝いであいつの背後に回ってください」
「会ったばっかりなのに、わざわざそんな危険を冒す必要はないだろ。第一、僕が逃げる可能性だって…………」
「無いです、絶対に。「誰かの役に立ちたい」って思いがとめどなく溢れ出しているその眼が、その心が、「逃げ出して迷惑をかける」なんていう真逆の選択をするわけがない。何があったのかは知りませんし、偉そうなことなんて言えませんが…………」
僕は。
僕は、どこまでいっても、主役にはなれないんだ。
「力を貸してください。僕達が死なないために、皆が死なないために。そして、生きて帰るために」




