Day5-3 ファーストデス
このゲームには、現実に存在する鬼ごっこと同名の鬼が何体かいる。
色鬼、増鬼、隠鬼、氷鬼など。当然だが、その鬼の能力は元の遊びのルールを参考にしている。
対処が面倒な訳では無い。寧ろこの中では氷鬼は楽な部類だ。何故かと言えば、コイツが高いのは「素の戦闘力」。訳の分からない搦め手を使ってきたりはしないからだ。
ただ今回は話が違ってくる。対処が容易なのはゲームだけ。現実に適用するならば「動きを封じてきて」「パワーがあり」「おまけに硬い」。最悪の三拍子だ。
だから逃げる。コイツの場合は見た目からしてパワータイプ。ビームタイプなら詰んでたけど、運が良かった。
背後から爆音が聞こえた。振り向くと、地面に衝突した氷鬼の拳から土煙が上がっている。
(何してるんだ?ゲームのアルゴリズムに則った攻撃モーションの継続?)
刹那、僕達が立っているこの道路が、氷に覆われた。
「っ!?」
「落ち着け理宮。この程度なら、俺のウェポンで溶かせ――」
拳が言葉に詰まった。再び振り向くと、そこには氷鬼がいた。
「なん……で……」
足元を覆う冷気で気が付いた。路面を凍結させることで、滑ってきたのだ。あのパワーなら、確かに多少の距離を一瞬で追いつくことも可能だろう。
……いや、そこじゃない。無駄に考えてる場合じゃない。
左手を構える「予備動作」。僕らがこいつの攻撃を食らえば、間違いなく身体が粉々になる。
(今滑っていた座標を“記憶”した。後は……)
「拳!避けて!」
「!」
拳の両足に光が宿った。
「Artsに回避技はねえ。だから代用する……“Arts3:跳躍”」
同時に僕は、さっき“記憶”した場所にワープする。当然その座標は通り過ぎているから、僕は後方から氷鬼と拳を追いかけるような形になった。
そして地を滑るように、握った拳で薙ぎ払う氷鬼。
「……バカ、上に跳んじゃ――」
確かに、一手先の攻撃を回避するだけなら、上への跳躍に問題は無い。
しかし、二手先――回避の隙を突かれて殴られる、という可能性を考えた時、これほどまでの悪手が存在するだろうか。
恐らく最適解は、薙ぎ払いの前に懐に飛び込んで殴る、或いは僕みたいに距離を取る、の二択。「近距離かつ」「空中で」「解除時に大きく隙を晒すArtsによる回避」なんて愚の骨頂だ。それを拳はやった。
「拳!!」
―――
俺には兄貴がいた。兄弟仲は良好、
俺も兄貴も、生まれつき身体能力が優れていた。だから、護身術を習いたいと親に言った時はすんなりと呑み込んでくれた。理由はない。ただ格好いいなと、二人揃って思っただけだ。
習い始めて数年後の夏、ある日兄貴が「勝負でもしねえか?怪我しないラインでさ」なんて言い出した。
「急になんだ?今暑すぎてそれどころじゃ」
「知ってるよ。だから今提案してんだ」
「はぁ?」
「お前、10年以上一緒にいるんだから察せよ。負けた方がアイスを奢るって賭けをすんだよ」
「ああ、なるほどな。分かった、受けて立とうじゃねえか」
で、負けた。自販機で買ったアイスを食べている最中に、俺は兄貴から言われた。
「拳なー……動きも悪くない、技術も悪くない……」
「じゃ何で勝てねえんだよ」
「決まってんだろ、頭が悪いんだよ。唯一そこだけが悪いせいで負けんだ。バカの一つ覚えみたく突進しやがって」
今なら兄貴の言ったことがはっきりと分かる。俺には先読み技術が足りなかった。
「拳!!!」
氷鬼の手が俺に近づく。だが何かがおかしい。
手が開いている。俺は氷鬼に殴られて凍結状態で吹っ飛ばされるかと思ったが、違う。これは――
「掴まれる!抜け出せ!」
後方から理宮の声が聞こえる。指示に従い、氷鬼の掌を蹴って三角飛び。
「ダメだ!その方法じゃ――」
俺の三角飛びは完璧だった。真後ろにある、分厚い氷の壁にさえ気付いていれば。
鈍い音が響き、頭に激しい痛み。超質量の物が、高速で移動中の俺に衝突したのだ。漫画的表現として100tのハンマーがあったりするが、実際に食らうとこんな感じなのだろう。
意識が途切れる寸前、俺を掴まんとする巨大な手が見えた。
―――【跳跳拳は、凍結したまま砕かれた】




