Day5-2 決別
「うわ、理宮どうしたの?汗まみれじゃん」
ホテルに帰ってから開口一番、仙煌に言われたのがそれだった。
「僕も強くならなきゃって思ってさ」
「……理宮」
仙煌の顔がどんどん濁っていく。
「努力しているのは分かる……けどさ。お願いだ、これ以上、無理をしないでくれ」
「……は?」
「脱出にはポイントを稼ぐ必要がある。アシストなら、理宮は最小限の行動でポイントが稼げる。これ以上……戦おうと……」
「仙煌が僕の事を思って言ってんのは分かるけどさ、それはあくまで体だけだ。仙煌は、僕の心を無視している」
「理宮?」
「役に立ちたいって、そう思ったのにさ」
「そんなのいらない。僕が一人で――」
「仙煌ッ!」
思わず、声を荒げてしまった。
例えばの話。皆で分担して仕事をしようという時に、「デキる人」が己に仕事を多く振ったらどう思うだろうか。
そこには「仕事が減ってラッキー」となる人と、「何か手伝いたいな」となる2種類の人間がいるはずだ。普段の生活においても、この場においても、僕は紛れもなく後者だった。
今の仙煌の言動は確かに僕を思いやった物かもしれない。けど、僕にとっては遠回しに「役立たず」と言われているような感覚だ。
「確かに、クリアするだけなら仙煌一人でもなんとかなるだろう。でも違う、今は僕がいるんだ!一人で全部持っていかないでくれ……僕にも……」
「今そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!?命懸かってるのに――」
「他人の命まで勝手に背負おうとするな!僕は仙煌、君にもう頼りたくないんだ。一人でも戦えるって……」
「理宮が感情を押し通すなら僕も言わせてもらう。単純に、僕は君に死んで欲しくない。怒らすようだけど、はっきり言って理宮、君は弱い」
「だから強くなろうとしたんだろ!」
「分かってるよ……けど……」
口籠る仙煌。
「……僕は背負いたいから背負ってるんだ。君の人生も、拳の人生も、翼の人生も。全て背負いに行って、全て叶える」
仙煌に、黒いオーラが見えたような気がした。
―――
「おお、来たか」
「うん。間近で見せてもらおうと思ってね」
「しゃーねーな……目に焼き付けろよ?」
耳をつんざくような爆音でゲームがスタートした。
「つってもさっきArtsの技名は全部教えたからな……まぁ、見て覚えたほうが早いか」
拳はたまたまそばに湧いた鬼に近寄り、握りこぶしを赤く光らせた。
「手短にやっていく。まず“Arts1:拳撃”」
拳の軌跡に赤い光を残して、鬼が勢いよく吹っ飛んだ。
「ただ殴るだけだ。でこっから、ArtsP系統に派生していく。基本Artsはあと二つ」
拳が硬直し、赤い光が消えた。
「……どうしてかは知らねえが、コンボをやめると大きな後隙が生じる。だから基本的には、相手を倒すか自分が吹っ飛ばされるか、あるいは逃げるかしないとコンボを終わらせられない」
「それがデメリット?」
「そんなところだ。じゃ次、Arts2:蹴撃。派生系のArtsKは、下半身を使う行動全般だ。距離を詰めたりするのもこれだな」
今度は光を脚に移し、空を蹴ってから、さっき吹っ飛ばした鬼に向かって走った。
「ArtsK2:急襲、K1:転調・拳撃、P8:上方拳撃」
拳は目にも留まらぬ速さでコンボを決めていく。ますK2で接近、K1で光を足から手に移して殴り飛ばし、別の手でアッパーカット。
「……しぶといな。次Arts3:跳躍、F7:空蹴撃」
飛び上がって空中で蹴り。鬼は遥か遠くまで吹っ飛んで行った。
「……こんな感じだ。大体分かったか?」
「やり方はね……出来るかどうかは置いといて、理解はしたよ」
「そいつはよかった。じゃ、他の鬼を――」
周囲の温度が、急激に下がった。
「っ……寒っ……何だこれ」
「分からないけど……」
待てよ?温度を下げる?このゲームに冷気を使う鬼は1種類しかいない。そして、そいつは上級鬼の中でもすこぶる厄介だ。
「逃げるよ!拳!」
「はぁ?」
「氷鬼だ!パワータイプであれビームタイプであれブレスタイプであれ、僕らじゃ勝てない!」
僕が距離を測ろうと振り向いた視線の先。ほんの僅か先で、氷鬼は拳を振り上げていた。




