Day5-1 Arts②
時刻は24時間制における4時。
「……え、出れるのこれ」
興味本位でドアの前に立つと、開いた。
「……大丈夫?これ出たら死なない?」
僕はChatを開いた。UIは普段僕らが使っているツールと殆ど同様の物で、仙煌のアイコンと……恐らく拳の物であろうアイコンが縦に並んでいる。名前はそれぞれ「仙煌」「Ken」。……クラスに何人かいるんだ、名前アルファベットにしてるやつ。
アイコンはそれぞれ、僕達がショッピングモールに行った時に撮った写真、空手の道着。パンチメインの戦闘はそこから来ているのかもしれない。で、まぁ問題はそこじゃなくて。
一番下に、真っ黒なアイコンがある。「質問受付箱」の名前のアカウント……運営の相談窓口だろう。ここに打ち込んだら、何が起こるか分かったりするのだろうか。
「じゃ、使ってみるか」
キーボードの操作性は変わってない。フリック反転もしてないし、背景画像もまさしく僕が使っていた物だ。辞書登録も生きてる。
「……よし」
外出可能時間についての質問を送信、即時返信。
「はっや!監視されてる?……って、あくまでゲームだもんな。そのくらいは出来るか」
返信を読んでみる。
〈外出パスさえ所持していれば、如何なる時間帯でも、それを利用して出ることが可能です。外出パスは、売店にてお買い求めいただけます〉
クソ物価のこの空間で買う外出パス……一体いくらするのか。
「1円=50C……で、外出パスが1枚10000Cと……200円?」
思ってたより断然安かった。これなら余裕だ。僕は無人のレジにスマホをかざし、ホテルを出た。
―――
「んでよ……Artsを教えて欲しいつったって、お前遊力操作まともにできんのか?」
僕は今、拳とジムに来ていた。
「遊力操作……って、何?」
「あっちゃー……」
拳が頭を抱えた。
「遊力操作ってのは名前の通り、体の遊力を操作することだ。例えば攻撃の時、腕に遊力を集中させれば威力を上げられる。防御の時、当たりそうなところにあらかじめ遊力を集めておけば、ダメージを抑えられる」
「で、Artsは?」
「俺が独自に編み出した、とにかくコンボを繋げるための技術だ。防御技はない、攻撃技と予備動作のみで固めた」
「フルアタ構成?脳筋じゃん……」
「知るかよ。……で、仙煌はいないのか?」
「ああ、最初から呼んでない」
見るからに疑問符を浮かべてそうな拳。
「……一応、理由を聞いてもいいか?」
「こんなの教えなくたって、仙煌はどうにかできる。教える必要なんてない……」
「お前……」
拳が形相を変えた。
「お前今、「こんなの」つったか?」
「あ、いや!Artsを馬鹿にするつもりとかそう言うのじゃなくて、ただ……」
僕はとっくに認めている。仙煌へのコンプレックスがあることを。
「仙煌に出来ないことをやりたかった……Artsを使えなくても、僕がいなくなっても、仙煌は一人でどうにかする。それが…………嫌なんだ」
「…………悪いが」
間をおいて、拳が口を開いた。
「既に仙煌は遊力操作を身につけている」
「……まぁ、そんなことだろうと思ったよ。手が光ってたのもそういうことでしょ?」
「ああ…………」
僕は膝をついた。
「…………それでも、いい。僕はこのまま……仙煌にくっつくだけの存在として終わりたくない。生き残るために…………僕に、遊力操作を教えてくれ!」
僕は、ついた膝から太もも、そして上半身でZの形を作るような、恐らく形としては理想的な土下座をした。「えーと…………だな」と、拳は困惑の声を漏らした。
「まず顔上げろ。お前は今、二つの間違いを犯している」
「お前は今、二つの間違いを犯している」
拳はピースサインを作り、2を示す。
「二つ?」
「まず一つ。Artsを教える、つったって、遊力操作ができねえやつに教えんのは無理だ。水に潜れねえやつにバタフライを教えられるか?」
「泳ぐ以前の問題だった……」
「悪い、水に潜れねえは言い過ぎた。……なんつーか、簡単に言うとArtsは、「遊力を一点に集める」ってのを高速で繰り返してるんだ。スキルツリーで例えるなら、お前は必須スキルを解放していないんだよ」
「前提となる能力が欠けてる……」
「そういうことだ。そんで二つ目、俺は誰かに物を教えたことがねえから、初めから聞く相手を間違ってる。仙煌ならそこんとこいい感じにどうにかしてくれんじゃねえのか?」
…………拳は、大きな勘違いをしている。
「仙煌は……」
「ん?」
「仙煌は、教えるのが下手なんだよ!大抵のことは気付いたら出来てるんだ!感覚に頼ってるから、理論的に説明が出来ないんだよ!」
「あー……」
心当たりがありそうな顔。僕も「なんでそんなに記憶力がいいのか」と言われると答えることができない以上、仙煌を責め立てることはできないけど。
「つったって俺も感覚派だからな……なんつーか……手に血液を集める感じ、とでも言えばいいのか?」
「手に…………血液を…………」
「そうだ。遊力は血液みたいに体中を満遍なく循環し、覆っている。その血液を場合に応じて、適切な部位に集めるのが遊力操作だと、俺は思っている」
「集める、ね」
僕は右手を逆手で突き出し、目を瞑って力を込めた。心を鎮めて、深呼吸しながら。
「最初はゆっくりでいい。とにかく意識を逸らすな」
手に、何かが上ってきた。僕は再び握り拳に力を込めた。目を開いて右に目を移すと、僕の拳は緑色に光っていた。




