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後輩の本気?

 それから仕事を探して顔を青くするようなことはなくなり、私も一息ついた。しかしユイネの指導を任せられたのは私なのに、部長が一番活躍していると思う。


 新しい作業を目にして感心するユイネに、キリのいいところで説明に入る。長々と話されてしまうと、信号のない横断歩道みたいに突っ立っていることになるけど。


 ユイネは細かくメモを取るほど真面目に覚えようとしてくれる。やっていくうちに覚えていくだろう、なんて楽観的になっていたけど、ユイネは出来るだけ早く、そして確実に覚えたいらしい。自分の仕事だけに関わらず、他の部署のことでも気になった言葉があればメモを取っていた。


 私も他の人もそのメモの細かさや頻度には感心していた。

 ただ些細な出来事でユイネはメモを取ることをやめてしまう。それは昼休みの時間になってすぐのことだった。


「いちいちメモ取ってるんだ。大変じゃないの?」


 営業部のリンダは大らかな性格で、気にしないが口癖の人だった。リンダは自分が面倒だなと思うことを継続できるユイネに、尊敬混じりの疑問を浮かべて聞いただけだ。


「え、メモを取ることは一般的ではないのでしょうか……?」


「うーん、そうだね。携帯のカメラでパシャっと撮ったら早いし、あとみんな優しいから教えてくれるから大丈夫ーみたいな?メモを取る人は真面目だなって感じ」


 自分のことを話しただけだ。わからないことは躊躇なく聞き、先輩との距離を縮めるのも早かったリンダをよく表していると思っていた。


「……やっぱり、ヒナタは技術が遅れているというのも、人々が親切でないというのも本当だったんですね」


 力なく笑ったユイネはか細い言葉を残すと、背を向けて部屋を出た。

 リンダはよく聞き取れなかったようで、首を傾げているところに、気にしないでと肩を叩いた。何を言ったか詳しく説明すれば、リンダは落ち込んでユイネに謝りに行くだろう。


 リンダを落ち込ませてしまった、ユイネはそう考えてまた気分が沈むかもしれない。


 ヒナタノクニのことは全然わからないけど、落ち込むほど悪いところでもない気がする。おじいちゃんの話を聞いている分にはだけど。


 ヒナタノクニの人々は話すことが苦手で、鎖国状態が続き新しい技術を取り入れるのに時間がかかった。

ユイネはそのことを過度に気にしている。


 住んでいたユイネには、私の知らない事情があるのかもしれない。けど、そんなに低く見なくてもいいと思う。


ユイネはヴィクトリックのことを知って、感心したり落ち込んだり、いろんな感情を見せてくれた。


私もヒナタノクニのことを調べてみよう。比べて落ち込まなくてもいいって言えるように。


それに、ヴィクトリックでは『一般的』ではないことを気にしなくてもいいんだから。


 ユイネが昼休みから戻ってくると、いつもメモ帳を入れて膨らんでいたポケットが平らになっていた。いつも見ていたものが失われ、寂しさを覚えた。



 少し寂しいこともあったけど、発表は完成。トラブルも起きず、完成した画面を眺めて喜びを沸き上がらせていた。


 発表の日、プロジェクタが青い光を放つのをなんとなく見ていた。緊張する……ユイネはどうかな。

 横に連れてきたユイネを見ると、いつになく険しく沈んだ顔をしていた。


 何と声をかければいいのか……。


 私たちの順番はこまめに休憩を挟んでも中だるみするころで、注目も集めすぎないから大丈夫、と考え続けた。

 始まる前は楽観視できたって、自分たちが呼ばれると崩れ去るんだけどね。


 それでさっきから何!? 同期のヨハンくんの強い視線とかち合うんだけど!

 ばっと顔を逸らしたけど、ヨハンくんの灰色がかった青い目が忘れられない。


 緊張状態に追い打ちをかけられ、気を紛らわすためスクリーンを見ると……。


 なるほど、設定中にとりあえずと置いたコードがしなだれかかって大きな影になっている。さっとコードをしまうと、ヨハンくんの視線は部長に移った。


 笑われなかったのはいいけど、凝視されるのも恥ずかしい……。


 緊張しながらも自分の言葉は言い終え、大きく息を吐きたかったけど我慢。

 次はユイネだけど、いつも以上にたどたどしく、なんども噛んでいる。

 どうフォローしようか……戸惑っていると、ヨハンくんの視線がユイネに向いているのを見てしまった。真面目に聞いている証拠なんだけど……緊張させてしまうんだよね……。


 最悪の場合は選手交代というところまで追い詰められていたけど、ユイネの力不足のせいではない、と方向転換する。


 ユイネ、気を抜くのもヴィクトリック流。


 ユイネが息を整える隙に紙を渡す。すると肩の力を抜いて、再開する。


 滑らかでよく通る声だった。最前列からうっすらと驚きが浮かんだのを見逃さなかった。


「ドラゴンの髭が岩に着く前に……」


 台本にはなかった言葉に私は目を見張る。龍の髭が岩に着く前に、は強力なライバルより先に行動を起こす……というようなことわざだ。いつの間に覚えたのか……。



 不安だらけだった発表も、今は満足している。自分はもっとできるんじゃないか、と根拠のない自信まで湧いてくる。

突然のことに弱い性格だと思っていたのに、いいアドバイスができた。やればできるんじゃ、私……!



 そんな上昇中の気分を邪魔する声が……。


「口無しはまともに喋れたのか?」


「午前の部だったら大変だな。耳障りなヒナタの訛りを聞くことになるからな」


 午後の部にあいつらはいたらしい。

 まだそんなことを言えるの!? ああ、さっきのユイネの実力を聞かせてやりたい!訛るどころか綺麗な発音ででパッとことわざが出てきて……!


「先輩、お疲れ様でした! 発表中、教えてくださりありがとうございます!」


 怒りに震えていると、ユイネはいつもの明るい声で横に並んだ。


 最初の事件のとき、もしかしたらユイネは言われた言葉の意味をわかっていなかったかもしれない……と期待したこともあった。


 ことわざを引っ張り出し、滑らかに話せるユイネがあからさまな悪口をわからないとは考えづらい。


わからなかったとしても、人のことをとても気にするユイネが悪意を察せないわけがない。


 自分の国に自信がないユイネが、ヒナタノクニの国民であることを侮辱されても、湧き出たはずの感情を表に出さなかった。


 侮辱されたのだから悲しむのも怒りを表すのも当然だ。

 それでも笑みを浮かべていた。


 私はユイネのことを全然わかっていない。私は、指導役として何をした?


 ユイネの気持ちを考えると胸が締め付けられ、役目を果たさなければ、と奮い立った

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