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休憩時間より仕事中によく喋る後輩

 あれからユイネは特に変わった様子を見せないけど、私の方は今も怒りを覚えていて、当分冷めそうにない。休憩時間が来た途端報告しに行き、会社の動きを待つことになった。


 そうしている間にもプロジェクト発表の日が近付いてくる。自分一人では難しいので、上司と協力して発表することになった。


「部長、データをまとめました。うーん、どこにしましょう」


 部長の作業スペースを邪魔するように置いてはいけないし、離れ過ぎていると忘れられてしまいそうだ。視線を動かしていると、部長の左隣の机にちょうどいい空白が見つかった。


「この机に置いておきますね」


「ありがとう」


 部長は画面にグラフを配置しながら、ちらっと視線を向けた。

 協力して同じ発表をまとめる、というより、私は部長の手伝いに徹している気がする。部長はいつも助かると言ってくれるけど……。


 やっぱり自分から動くことが苦手な私に、一人で発表は無理かもしれない。

 言われたことをこなすだけで、こんな私がいてもいいのか不安になることがある。好景気で運良くここに入社できたのはいいけど、周囲とのレベルの差に気付いて落ち込んでしまう。


 入社一年にして綿密な計画を発表した二人組がいた。私が倍の時間取り組んでも、あの情報量をまとめ上げることなんてできないだろう。

また質問にも面白い例え話を織り交ぜて答えていたのだ。


 その後も二人は活躍していて、十年もすれば姿も見れないほどに差がつくことになるんだ。


 決められたことを毎日こつこつとこなし、穏やかに過ごす方が性に合っていた。友達におだてられて第一希望にするなんて、本当馬鹿。その後のことも考えておけばよかった。


 私が憂鬱になっていると、ユイネはなぜかうんうんと唸っていた。オフィスはいつも通り快適な環境、ユイネに与えた仕事もいつもはこなせている。唸る理由が思い当たらない。


「ユイネ、気分悪いの?」


「あっ、先輩……」


 ユイネが頭を抱えたまま首を動かし、縋るような目で見てくる。


「すみません、自分で仕事を見つけられなくて……。指示を待っているだけでいるのは駄目なので、どうすればいいか考えていたのですが……」


 青ざめたユイネは仕事が見つからなかったということをペラペラと話し始める。気が緩むはずの仕事終わりよりもよく話しているじゃない。

 それにしても、自分と重なるところがあって頭が痛くなる話だ。


「みんながみんな率先して動く訳ではないし、気にしすぎなくていいよ。私だって、いつも指示待ちだし……」


 自分で言っていて悲しくなってきた。指導するべき後輩と目を合わせる勇気が出なくて、視線を落とす。


「そうだぞ。無理に自分だけで動こうとしてトラブルを起こされたら困るからな、恥ずかしがらずに何をすればいいか聞きにきてくれ。ちゃんとやってほしいことを伝えるから」


 穴があくほど見ていた画面から目を離すと、部長は笑顔を見せてくれた。この時間帯になると酷使した目から疲れが表れる。のに、こうやって部下に笑顔を見せる時はそんな疲れも消え去っているんだ。


 いつも的確に人の不安を取り除いてくれる人で、尊敬が胸にじわっと広がる。何年働いて経験を積んでも、こんな人になれる自信がない。


「そうですよね。ヴィクトリック憲章に人の多様性を認めるという文章があります。ヴィクトリックの人はみんな自分で判断すると思っていましたが、色々な働き方を認めてこそですね。ヴィクトリックだからと決めつける私は、まだまだヒナタの考えが抜けていないようです……」


 ユイネは感激した様子で、聞いたことはあっても大抵の人が意識していないような憲章を引き出してきた。いや、憲章に基づいてのことではないと思うよ。


 ヴィクトリック憲章は国民の方針みたいなもので、この国の学校に通うと一度は読むことになる。しかし書かれていることは当たり前のことだし、毎日意識するようなことではない。


 ユイネは次の仕事に移った後もヴィクトリックのことを考え込んだ。


「押し付けがましくない配慮の仕方も、人には人の事情があるという考え方と、憲章でも出てきている博愛の精神が……」


「違うの。部長は憲章とかじゃなくてそういう性格なの……!」


 ヴィクトリックの分析は仕事が終わっても止まることがなかった……。ていうか分析中はペラペラ話すのに仕事終わりになると片言になるのはどういうことなんだろう。ユイネなりの気の抜き方?

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