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Magier Krieg -マギア・クリーク-   作者: 巻刺 司
第三章
17/21

紅茶は死の香り


 生憎、席がほとんど埋まっていた。

 空いているのは、あの子の横のカウンター席だけだ。


「ああ、一颯ちゃんやないか。ご機嫌麗しゅう」


 これが、昨日私を斬った子のセリフなのか。


「えっと、穂波ちゃん、こんにちは」


「何々? 二人とも知り合いなの?」


 それなら、と蓮花ちゃんが促したおかげで、私を挟んで左右に二人という恰好になった。


「今日はあの子連れてないんやな。ってことは前か……」


 前とは、きっとログイン前のことを表しているんだろう。二人は昨日、ゲームの中で出会ったわけだけど、こうしてログイン前の現実で顔を突き合わせることになろうとは思わなかった。


 でもまあ、ありえないことではないか……。

 昨日も出会ったわけだし。

 

 それよりも、もし彼女がログイン後だったとしたら? ログイン前の私とログイン後のあの子が出会うことはあるんだろうか……。

 それが、ありうるから彼女は『前』って言った、ってことなんだろうか。


「安心せえ。私も前やから。のんびりお茶してただけや。

 それより、昨日の今日でピンピンしとるやないか。具合はどうなん?」


「あなたがそれを言う?

 ええ、おかげ様で!」


 苛立ちを紛らわすために水を飲む。


「なあ? 昨日のお願いきいてくれるん?」


「アレが人にものを頼む態度なら……。

 丁重にお断りします」


「そうか、交渉決裂か。残念やな。また、あないな目に遭いたいゆうことでええんやな」


「なら、昨日の所で。今日はあんなことにはならないんだから!」


「ほう。ええ根性しとるやん」


「さっきから、二人でわけわかんないこと言って。何言っているかさっぱりだよ。

 一颯ちゃん、昨日なにかあったの?」


 ああ、蓮花ちゃん、ごめんね。この子とはちょっと訳ありなの。

 

「さてと……、

 私はそろそろ行くわ。待っとってあげるからあんたもはよ来なよね」


 穂波ちゃんは紅茶を飲みきって、出ていった。


      ◇◇◇


 ――港西区、埠頭


 海を見つめる彼女はどこか儚げで、でも普通の女の子にしかみえなかった。肩にフーちゃんを乗せている以外は……。


「早かったやん。もっとゆっくりしてもよかったんやで?」


 昨日のことを警戒して、離れたところで立ち止まる。


「あら、お気遣いありがとう」


「つれないなあ。もっと近くで挨拶したいやん?」


「私が勝ったら、昨日のこと謝ってもらうからね。あと、あなたが勝ちにこだわる理由も教えてもらうんだから」


「なら、私が勝ったら……、このゲームから降りてくれるんやな?」


 双方にらみ合いの状態のまま、5分……、実際にはもっと短かっただろうか……。


「シアンちゃん? 最初から全力で行くわよ!

 Transform、上級アバター!」


 光に包まれると、阿修羅の姿へと変身する。


「なら、こっちもや、フー?

 Transform、上級アバター」


 穂波ちゃんの上級アバターは、巫女の恰好で手の甲に太陽の紋章が浮かび上がっている。


 先ずは小手調べといったところか、何度も高速でぶつかり合う。

 天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)を盾無(たてなし)の防具で受け止める。


「なんや、ちゃんと戦えるんやないの。昨日は拍子抜けやったで」


「いきなり斬りつけておいて、それを言う?

 あなたみたいな子には負けないんだから!」

 

 その後もぶつかり合うけど、お互い決定打にはならない。

 大技を出せば、属性が、バレる。


 向こうの属性は? 『火』なの? 天叢雲剣が火を纏っているからだ。

 だけど、あれ自体は魔法による属性付加で、実は弱点になる『水』に強い『土』属性って可能性もある。


 状況はこちらも同じ、ダガーは雷を纏った状態になっているけれど、ダミーだということはバレているかもしれない。

 今回はダガー4本を具現化、それぞれ阿修羅の方の手に持たせている。さらに本体の手に持っている三鈷杵で雷を発生させているのだ。


 ダガーには拘束の魔法を仕込んである。敵の動きが素早いなら、止めてしまえばいい。


 打ち合いは小休止して、火炎玉で威嚇してくる。まさか、正直に『火』属性なんだろうか……。

 だとしたら、昨日とは違って、真っ直ぐな魔法だ。なんでこんな子があんなことしたんだろう。


 威嚇に対しては、雷で応戦する。

 火と雷が当たったところで爆発が起こる。


「いくでー。オブジェクト、フェニックス」


 チャージの魔法陣がまわったかと思うと、火炎玉が集まって鳥の形になった。 


「発射(Firing)!」


 盾無なら、受けきれるか? なら、盾無、水の防御フィールド展開!

 水の防壁に守られて、フェニックスを受け止める。


 爆風に隠れて、拘束魔法を仕掛ける。

 

「なんやこれ! 動けん」


「捕まえた! 今度はこっちの番なんだから!

 マハー・ヴァイプリヤ・ブッダ・アヴァタンサカ、

 ダガーよ滝となれ! Kegon-Falls!」


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 穂波ちゃんの叫び声と、ダガーが落ちる音だけが響く。


「はあっ、はあっ、はあっ。

 フーが防御手伝ってくれんかったら、危なかった。

 

 でも、わかったで! 属性は『水』か……。

 うちの『火』では相性が悪いやん」


 しまった、属性がバレてしまった。


「そんなら、属性チェンジや。フー。『土』のクリスタル発動!」


 穂波ちゃんは、金色の光に包まれた。


「『土』属性なんて、空中で使ったって、怖くないんだから!」


「そうかな? なら、これならどうや!

 インストール コメット in 天叢雲剣」


 剣をふるうと、巨大な魔法陣が上空に展開した。



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