デスペは死の痛み
――港西区、埠頭
バトルフィールド解除され、Transformも解除して、シアンちゃんと話をしようとしたその瞬間。見たことない少女が突然目の前に現れた。
「なあ。あんた、プレイヤーやろ?」
「え? あなた……、誰?」
「うちは穂波、あんたと同じマギ・クリのプレイヤーや。この子はフー。よろしゅう頼んます」
なるほど、マギ・クリのプレイヤーかあ。バトルは明日からだし、挨拶しておかないと。そう考えていると……、
「こっちが、挨拶したら、そっちも返すもんやで?」
「こらこら、フー。こっちがいきなりやったんやから、しゃーないやん」
シアンちゃん、と同じく守護獣だろうか、小さな白いキツネが肩に乗っている。
「あ、えっと、始めまして、私は一颯いぶき、越美えつみ一颯です」
「そっか、一颯ちゃん言うんか。で、いきなりやけど、一颯ちゃん。負けてくれんか」
少女が、Transformと言ったかどうかというところで、腹部に違和感が走った。下を見ると剣が刺さっている?
「え? かっ、はっ」
剣が抜かれたかと思うと、血が身体からあふれ出ている。制服が血で染まっていく……。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
焼け付くような痛みで、とても立ってはいられなくて、倒れ、悶えると、口から血が大量に出てきた。私、死ぬのかな……。血が抜けたせいかわからないけれど、頭がぼうっとしてくる。
身体の周りに魔法陣が現れ、光に包まれた……。
◇◇◇
小さい女の子が泣いている……。
これは……。
私?
『あんたが、あんたが……、涼香を殺したのよ……』
『おい、いい加減にしろ! 子供を責めたってしょうがないだろう』
それに、お父さんとお母さん?
『お姉ちゃんなのに、なんでちゃんと見てなかったのよ!』
痛い! 痛い! でも泣いたらもっと母の平手がくる。
『子供に手をあげるな!』
父が母の手を止める。
◇◇◇
暗い……。
けれど、身体がふわっとしてなんだか、温かい。さっきまでの痛みも消えていっている。
目が覚めると、いつものポイ・ザ・ラスの地下にある椅子の上にいた。
「ここは……」
「やあ、気が付いたかい? 一颯ちゃん」
「お、お腹……」
斬られたはずなのに、傷がない。それもそうか、ゲームだもんね。大方、死んで強制ログアウトってところだろう。だけど、痛みも、血の味も、冷たい剣の感覚も本物だった。
「私は?」
「先ずは名前? いえるかな?」
「私は、一颯、越美一颯です」
「うん。まあ大丈夫かな。ひん死ダメージだったんで、こっちに戻ってきたんだよ」
「いったい何があったんだい?」
「えっと、よく思い出せないんですけど……。
いきなり穂波って子が空から現れて、挨拶されて……。
斬られました」
「いきなりねえ。危ないプレイヤーだったみたいだね。バトルは明日からでよかったね。どうする? 今日はもう終わりにする?」
「デスペナルティは?」
「だいぶ寝ていたからねえ。HPもMPも回復しているよ」
「他にペナルティはないよ。モニターテストだしね。まあ強いて言うなら、死ぬほど痛いってことくらいかな」
「それは、もう経験済みです」
「心、折れてないの?」
「それは……、
痛かったけど、でも心が折れたらそれこそ負けですから」
「よかったよ。デスペナルティでやめちゃう子もいるからね」
口ではそうも言えるけれど、実際はまだ痛みが残っている。気がする。
だけど、訳もなく切りつけられる理由なんてない。何かした記憶もない。
けど、実際に負けた。というか殺されたわけだ。
「再ログインできますか?」
「問題ないよ」
「練習場にまた行きたいんですけど」
「わかった。あそこに飛ばすよ」
◇◇◇
――マギア・クリーク内、ポイ・ザ・ラス地下練習場
明日からのプレイヤーバトルはこのままでは勝ち抜いていけない。あんな子にだけは負けたくない。
「シアンちゃん、いくら不意打ちとは言ったって、なんで簡単にやられちゃったのかな」
「ごめんよ。僕が……。
守護獣だっていうのに間に合わなかったせいで……」
「そういうことじゃないよ」
「そうだね。マギ・クリ内では最低限防御魔法を張っておく必要はあったかもね。微弱だけどTransform後の状態なら防御が効いたはずだったんだけど、それも解いちゃってたからね。でもあの子、武器化までの速度は相当だったよ。かなり熟練の技だった」
「それに躊躇なく襲い掛かってきたことも考えると……、いやなんでもない。
それより、持っていた武器だよ。あれは天叢雲剣といって、おそらくガチャアイテムの最上位、レア度は5段階中で5、まあ5以上はないんだけど」
「ガチャアイテム? って何? このゲームに課金ガチャはないでしょ?」
「君にはまだ早いと思って言ってなかったんだけど、この間のザコ敵ガチャの上位版があるんだ。敵を倒すごとにアイテムをゲットできる仕組みなんだけど、上級アバター進化前だと一体も倒せずに終わるレベルなんだ」
「それって……、今なら大丈夫ってこと?」
「出てくる敵によっては今でも太刀打ちできないかもしれないよ? それでもやるかい?」
「やらなきゃ、あの子と話しもできないんでしょう?」
「わかった」
そういうと、前回と同じようにシアンちゃんが頭上をクルクルとまわると巨大なガチャガチャが現れた。前回よりもいっそうプレッシャーを放っている。




