第二十九話 戦いの終わりを告げる日
学校に向かいながらスマートフォンを眺めると友人の安藤誠二から数十件の留守番電話があり、最近の1時間前の留守番電話を再生してみると、
「いつになったら学校に来るんだよ!無断で休みすぎだぞ!お前が不登校になるなんておかしいぞ、何かあったのかさっさと教えろ!」
と激怒しながら何度も電話を掛けていた。安藤は俺を心配してくれて、最初の留守番電話が録音されている5日前から今日に至るまで何度も電話を掛けてきてくれた。俺は『夢の世界』に5日間も閉じ込められていたことを安藤に説明できるわけがないので、嘘を必死に考えてから電話を掛けた。
「もしもし、東條だ」
「てめぇ、何で電話に出なかった?」
「ごめん、41度の熱を出してしまって寝込んでいたんだ」
「だったら学校に電話しろよ!てめぇが不登校になったことでクラスは大騒ぎだぞ」
「すまない、体が動けないし頭痛も酷くて電話を掛けられるような元気がなかったんだよ。心配を掛けさせてごめんな」
「そうだったのか、今度は必ず欠席する前に電話しておけよ。今日は学校に行けるのか?」
「5日間寝たおかげで熱が下がったから今日は行くよ」
「体を大事にしろよ、学校で待ってるぜ、切るぞ」
学校に到着すると、安藤を中心としてクラス全員が俺を取り囲み、質問攻めの嵐に襲われた。
「東條、本当は学校に行きたくなかったからズル休みしたんだろ?」
「最近東條さんの行動がおかしいですよ?何か悩み事を抱えているのですか?」
「ファンタジー部のレポート作成を優先させるために休んだ、そうだろ?」
大量の言葉の矢が俺の心に突き刺さった。本当は嘘をつきたくないが夢に閉じ込められたと説明しても納得してくれないだろう、俺は少し頭を下げながら嘘を重ね続けた。
「すまない、本当に41度の熱で倒れていたんだ。体が拘束されているような感覚で電話すらできなかったんだ。心配させてごめん」
それから俺はひたすら病気が原因で学校に連絡できなかったことを何度も強調して質問の嵐に答えた。放課後になるまで嘘をつき通したが、クラス全員に無理矢理納得させるために想像以上に大量の体力を消費してしまった。
放課後、俺はファンタジー部の部室に向かった。今日は月曜日であるためファンタジー部は活動していない。扉を軽くノックし開けると、クラッカーが鳴る音が部室に響き渡った。
「東條君、お帰りなさい!」
「東條さん、お久しぶりです」
これは夢なのか、俺は度肝が抜かれて口が塞がらなかった。部室にはケーキが机に置かれておりり、無機質な部室に多色の造花や風船が辺り一面に飾り付けられていた。さらには有栖姉妹の服装は制服ではなく、ピンク色を基調としたメイド服に猫耳を装着して俺を歓迎した。
「有栖先輩、......、何故このようなことをしたんですか?」
「メールで伝えたはずわよ。今日はガルナドク討伐記念としてパーティよ!」
まだ有栖先輩からもらったメールを見ていなかった。今すぐスマートフォンを開くと、
「ガルナドク討伐記念パーティ開催!放課後、部室に集合!」
というメールが届いていた。さらに有栖姉妹から送ってきたメールを眺めると、ケーキを作っている写真やメイド服に着替えてピースサインなど可愛いポーズをしている写真も大量に届いていた。俺は安藤への嘘を考えることよりも優先して有栖先輩のメールを見ておけば心の準備ができたし有栖姉妹へのプレゼントを登校中に買ってきたのに、と後悔しながらスマートフォンをポケットにしまってから心を切り替えた。
「さあ早くやりましょう!」
それからは想定を越えた無茶苦茶なパーティが始まった。3人が満面の笑みで嬉しそうに乾杯してから、有栖姉妹手作りのケーキを3等分にして食べ始めた。柔らかく口の中でとろけるケーキの生地や生クリーム、甘くみずみずしいイチゴやキウイフルーツを堪能して3人で美味しいケーキを褒め合った。ここまでは良かったが、これからが問題だった。
ケーキを食べ終わると、有栖先輩からカメラを手渡され、有栖姉妹だけが席を離れ俺に向けて顔を赤らめながら2人でハートを作るポーズをしてきた。有栖先輩は「今度は写真撮影会で楽しみましょう!」と恥ずかしながら笑い始め、同様に恥ずかしくなってきた俺も手の震えを抑えながら写真を撮り始めた。それから俺も参加して有栖先輩と抱きしめ合う写真や裕香と一緒に社交ダンスを踊るようなポーズの写真を撮られ、さらには有栖姉妹のセクシーなポーズをしている写真を何十枚も撮ってしまった。有栖先輩は顔を真っ赤にしながら「絶対にここだけの秘密にしてね」と忠告しながら様々なポーズを決めて楽しませてくれるメイド姿の有栖姉妹を無我夢中で撮ってしまった。そして恥ずかしさを気にせず興奮しすぎて我を忘れてしまった3人は時間を忘れて笑いながら率先してポーズを取り、カメラのシャッターを何百回も押した。今までの有栖先輩のイメージとかけ離れたこの出来事は夢と思いたかったが現実だった。俺はこのパーティで撮った写真は今後見ないように決めた。
1時間程度のパーティが終わり、3人で片付けを始めると有栖先輩は小声で俺に呟いた。
「明日もメルマールとしてよろしくね、エルディア」
「もちろんです、必ず俺が守りますよ、メルマールさん」
有栖姉妹と手を振って別れて自室に帰宅し、宿題を終わらせてからベッドに潜った。今日のパーティはファンタジー部と関連性が何もないが、明るく元気を取り戻した有栖姉妹が見れて安心した。やっとゼルガンドやガルナドクとの長く険しい戦いが終わりを告げたことを実感した。俺は自室の明かりを全て消し、目を閉じてから『夢の世界』へ入り込んだ。




