第三十話 ソウルメイト
目を覚ますと俺はテントの中で寝ており、俺の隣には昨日から看病してくれたクラーラが可愛らしい寝顔で横になって眠っていた。俺はクラーラを起こさないように静かに体を起こしてテントから抜け出した。周りは足音すら聞こえない静寂な星空だった。
すると俺の足音に気が付いたのか、セレストが『2』と記載された救護用のテントから抜け出し、俺に近づいた。セレストはクラーラを起こさないように小声で呟いた。
「アリアさん達は休んだほうがいいのに、戦地へ向かってしまいましたね」
「まだ敵が潜んでいたのか?」
「聞いてなのですか?この戦いで瀕死の状態に陥っている兵士を救い出すために衛生兵と共に活動すると率先して向かいました。まだ疲れが残っているのに、......」
「そうだったのか」
俺は命懸けで戦ってくれた兵士のために戦地へ向かって黙って歩こうとすると、セレストは俺の右腕を握った。
「もし体に異変が起こったら迷わずこのテントに来てください。エルディアさんはまだ回復したばかりなので無茶だけはしないでくださいね」
「ああ、分かった」
セレストは手を放して、小さく礼をした。
俺はガルナドクと死闘を繰り広げた戦地へ向かうと、暗闇の中に複数の松明が救護用テントが灯されており、数百人の衛生兵が慌ただしく倒れている兵士を救護している様子が見えた。騒がしい救護用テントへ進むと、アリア、リル、エミ、メルマール、フローレンスが傷だらけの兵士を衛生兵と共に治癒していた。特にエミとメルマールは大怪我をしているのにも関わらず、手足に包帯を巻いている状態で手当てをしていた。彼女らはアリアとリルが生成してくれた薬草を兵士の傷口に塗りながら兵士を励まし続け、心身ともに傷を癒していた。
「もう大丈夫だよ、ありがとう」
「私達のために戦ってくださり、ありがとうございます」
「もう痛いところはないか?よく頑張った、ありがとう」
「動けますか?はるばる遠くからディール共和国のために戦ってくださり、ありがとうございます」
「平和な世界を救ってくださり、ありがとうございます」
治療を終えた兵士は彼女らに礼をしてから国へ帰る準備をしていた。彼女らは衛生兵によって次々に重傷を負った兵士が担ぎ込まれて、休む暇なく兵士の命を救うために癒し続けた。衛生兵をまとめている将軍に何かできることはないかと聞くと、
「生き埋めになっている兵士を救護しているデグロードさんの支援に向かっていただけないでしょうか?」
と頼まれ、デグロードが活動している場所を赤い丸で囲んだ地図を受け取った。
俺は救護用テントから離れて散策すると、デグロードが土砂や瓦礫の山を退かして、ライラが生き埋めになっている兵士を担ぎ上げ、衛生兵に兵士の治療を託した。デグロードが俺を見つけると叫びながら手伝いを要請した。
「エルディアさん、手伝っていただけますか?私達2人以外は衛生兵の支援の仕事に回されて人員が足りません」
「もちろん、今から行く」
「ご協力、感謝します。エルディアさんは両手両足に大きな傷が残っているので、ライラさんと一緒に兵士を救い出してください」
「ああ、分かった」
両手両足に力を集中させているデグロードが大きな瓦礫を退かすと、俺とライラは生き埋めになっている兵士がいるかどうか探した。デグロードが次々と瓦礫の山を退かすと、瓦礫の下敷きになって倒れている魔導士を見つけた。すぐに3人で瓦礫を持ち上げて魔導士を救い出した。魔導士はかすかに息があるが、腹に大きな傷があるため、大声で衛生兵を呼び出して救護テントへ連れて行ってもらった。
その後も兵士やギルドの下っ端、ガルナドクによって拘束された生贄や裁判所に引き渡すガルナドクの協力者が次々と見つかり、息が上がりながらも3人で協力しながら負傷者を救出し続けた。ガルナドク解体のために全身全霊を掛けて戦ってくれた兵士の勇気に感謝しつつ、次々と衛生兵に治療を託した、
救護開始から3時間後、戦地に広がっている土砂や瓦礫を全て退かし、生き埋めになっている人間がいないことを確認した。デグロードは「2人とも傷だらけの中、ご協力ありがとうございました」と深く礼をして救護用テントに急いで走った。俺とライラは仕事を終え、セレストとクラーラが待っているテントに向かいながらライラは静かに語り始めた。
「大きな穴に落ちて業火に焼かれながら死を覚悟して目を閉じました。ゼルガンドやガルナドクの野望のために大罪を犯した私は罰を受け入れないといけないと思い、生きることを諦めていました。しかし誰かが魔法で私の体にバリアを張って業火から守ってくれたのです。さらには私を魔法で治癒しながら白い球体に包まれ、目を開けると温かい家屋に運び込んでくれたのです。私が運び込まれた場所は旧アーネストリス帝国に店を構える『おやつのエミリー』にいました。ただし『おやつのエミリー』の店主はガルナドクによって生贄のために捕まり、代わりに魔法販売店の『グレイトマジック』の店主が下を俯きながら名物のドーナツを作っていました」
『おやつのエミリー』と『グレイトマジック』はアリア達と一緒に買い物した場所だったことを思い出した。
「店主は嘆きながら『罪を一生背負って生きろ』と私を救出した理由を明かしました。店から出ると『おやつのエミリー』以外の店は全て灰と化して、店主が構えていた『グレイトマジック』も消え去っていました。私はラデオアやガルナドクから評価を頂くためだけに罪のない人間に対して深い傷を与えてしまったと自分自身を恨みました。それから私は店主に命を救っていただいたお礼、そして一生をかけても償いきれない罪を償うためにガルナドクに戦うことを決めました」
ライラから大粒の涙が溢れていた。ライラもゼルガンドやラデオアの奴隷だった。
「エルディアさん、私を仲間にしていただけませんか?私も世界の平和を維持するために戦いたいです」
俺は深呼吸をしてからライラの手を握った。ライラの手は氷のように冷たかった。
「俺からも頼む、活気溢れるアーネストリス帝国を復活させよう」
「はい」
俺達はセレストが待っているテントに戻らず、衛生兵が忙しく手当てをしている救護用のテントに向かった。俺達は疲れ果てて倒れた衛生兵の代わりを引き受け、怪我をしている兵士の治療を積極的に手伝った。
戦地を訪れてから6時間後、全ての兵士の治療が終わると兵士とギルトと魔導士が階級や能力の区別をせずに大声で平和を取り戻したことの嬉しさを分かち合った。俺達にも兵士や魔導士が集まり、
「かっこよかったです。俺もエルディアさんのように強い戦士になります」
「忌まわしきガルナドクを倒してくださり、ありがとうございます」
と見ず知らずの戦友達と握手した。戦友達は戦いが終わったことに笑顔が溢れ、それにつられて俺とライラも笑みを浮かべながら握手した。
俺達は平和を維持するために各地で戦っていた。セレストは魔道学校で教鞭に執り、『夢の世界』を守ることができる魔導士の育成の道へ進んだ。フローレンスアーネストリス帝国の衛生兵として働き始めた。デグロードはアーネストリス帝国の再建のために指揮官となった。エレアノールは1人で『夢の世界』に存在する魂を全て監視し続けている。
そして俺とアリア、リル、クラーラ、エミ、メルマール、ライラはアーネストリス帝国の復興のために兵士と共に猛獣狩りや山賊の退治に追われていた。今日は全長6メートル程の巨大な大男のような獣が襲い掛かってきたところだ。アリアは炎の弾を発生させる魔法で獣の手足に攻撃し、リルとメルマールは弓矢や狙撃銃で遠距離から獣の目を狙って攻撃した。エミは背後に回り込んで背中に槍を突き刺し、俺とライラは正面から衝撃波を放った。だが獣は雄たけびを上げながら衝撃波の風圧に耐え、俺とライラを踏みつぶそうとしていた。俺は心の中にいるフローレンスに尋ねた。
「今日の敵は厄介すぎる、力を貸してくれ」
「いいわよ、でも必ず仕留めなさい」
俺は虹色に輝く剣を強く握りしめ、獣の腹に向けて大きく剣を振り、森林が揺れるような高威力な風圧を放っている衝撃波で獣を地面に叩きつけた。
まだ家屋は建築中なので、俺達はそれぞれのテントで寝始めた。すると俺のテントにクラーラが潜り込み、小声で優しく話して羽毛布団をかけてくれた。
「エルディアさん、今日はありがとうございます。明日もよろしくお願いしますね。おやすみなさい」




