第百十九話「愚かさと愚かさ」
「自分たちよりも大きな力を持つ者に対して恐怖を抱くことは多くの者がすることだ。
それらが徒党を組み、己らを支配するかもしれない。
その不安だけで迫害するものだ」
「……それは」
ウェニアが語るある種の一般論に対して、前半については僕自身が抱いていたこともあり、否定の言葉をぶつけることが出来なかった。
最初にウェニアに出会った時、僕は魔王という強大な存在であるウェニアに対して、警戒と恐怖を抱いた。
自分をどうすることなど容易い存在。
そんな相手に対して、そんな感情を抱かないでいられる程、僕は大器ではない。
けれども、一つ納得できないことがあった。
「でも、僕は弱いからその……色々と酷い目に遭ったけど」
ウェニアの論だと、「魔族の子」という存在は強くなることで恐れられているけど、僕が受けた仕打ちはどちらかといえば、僕が弱かったからという理由が原因だったと思う。
「戯け。
それは貴様の世界の者たちがこの世界の在り方に便乗したに過ぎん。
つまるところはリストやリナたちを迫害していたルズたちと同じなだけだ」
「ルズたち同じ?」
「そうだ。
奴らも貧しさがあっただろうが、あの親子を迫害していたのは「魔族の子」というこの世界においては見下してもいい存在という要素があったからに過ぎん。
見下せる他者がいれば、安堵し優越感に浸れる人間もいる。
ただの口実に過ぎんのだよ。
当初が恐怖が理由であったとしても、長い月日をかけて慣習と化せばこのような弊害などよくあることだ。
そして、恐怖を知らぬものが同じことを繰り返す。
貴様がされたことのようにな」
「!?」
当初、僕は自分が受けた仕打ちから恐怖が理由による差別ではなかったと唱えたが、ルズたちの行いとクラスの連中の動機が相似していることに気付かされ、その始まりが一致していることを教えられた。
「痛みを知らず、恐怖を知らぬ者たちがただそうだからという理由だけで他者よりも優位に立ちたい。
それだけの為に愚か者たちは安易に過去の過ちを利用するのだ」
「………………」
それに対して、僕は何とも言えなかった。
先人たちの恐れは間違いで愚かでも本物だったのだろう。
けれど、それは何時しか、他者を迫害するための免罪符となり、特権とすら成り果てる。
それを悪用と濫用する人間も出てくる。
(それにあの顔は……)
加えて、僕には納得がいってしまう理由があった。
ルズやクラスの連中のあの歪んだ表情は全く同じものだった。
「だがな、忌々しいことに我がいない魔族どもも愚かさでは同程度であるらしいな」
「何だって?」
ウェニアは忌々し気にそう言った。
「貴様が……いや、王国が語った我の名を騙っている者が率いる者どもは人間たち相手に圧制を布いているらしいな。
少しぐらい手懐けておけば、この程度の体たらくの国々などいとも簡単に潰せるというのにな?
敢えて、敵を多く作るとはな」
「そっか……確かにその方が相手も降参するはずなのにどうしてーーー
---まさか」
ウェニアが偽魔王たちが全く人間たちの国を戦力差の割に落とせていないことに対して、人間たちの抵抗が強いことを挙げると同時に魔王軍が人間たちに苛烈な対応をしていることを予想し、その愚かさを侮蔑した。
そのことに対して、僕も不自然さを感じると共に今までの話からあることが見えてきた。
「自分たちがされてきたことへの恨みを返している?」
理由は余りにも単純過ぎた。
今まで、自分たちを迫害してきた相手に直接、間接、いや、そもそも事実さえも無視して、魔族たちは恨みや憎しみを返しているだけだ。
やられたからやり返す。
報復の概念。
そこには戦略も理性もない、ただの怨恨。
「そういうことだ」
ウェニアは限りなくつまらそうに肯定した。




