第4話 水の出が悪い
翌朝、井戸の水が出にくくなっていた。
母が早めに起きて汲もうとしたらしく
顔をしかめながら家の中に戻ってきた。
「水の勢いが弱いのよ。最近、少しずつそうだったけど、今日は特に」
父が顔を出し、カイルも起きてくる。
農家にとって、水の問題は小さなようで無視できない。
「井戸を掃除するか」
父がそう言い、俺たちも手伝うことになった。
古い井戸の中を確認すると
底の方に泥や落ち葉が溜まっている。
特に大きな故障ではなさそうだが
これでは水の出が悪くなるのも当然だ。
掃除を始める前に
俺は少しだけ意識を向けてみた。
——今日の作業が、滞りなく終わりますように。
自分と、家族の運を、ごくわずかに傾ける。
胸の奥が、いつものように熱を持った。
結果は、予想以上にスムーズだった。
泥が思ったより早く掻き出せて、落ち葉もまとまって取り除けた。
カイルが「今日は運がいいな」と呟き
父も「思ったより楽だ」と短く言った。
半日かからずに作業は終わり、井戸の水は再び勢いよく出るようになった。
母が手を合わせて、小さく笑った。
「助かったわ。ありがとう」
俺は何も答えず、ただ手を洗った。
小さな幸運を少しだけ分けただけだ。
それでも家族の表情が柔らかくなったのが分かった。
この力は、こういうときに使うものなのかもしれない。
そう思いながら、俺は空を見上げた。
今日の空は、よく晴れていた。




